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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]79
新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録 Vol. 6

ぼちぼちとやっています、図書館員による実験的本の修理の連続記録です。

Vol. 5までで表紙クロスの漂白は完了とし、ばらした本文の綴じ直しについて検討しました。
2023年5月6日(土)の記録です。

本文の綴じ糸は、ところどころゆるみがあったり切れている程度で、それほど綴じの状態はひどいものではなかったのですが、重さに対してとても細い糸だったので、綴じ直して、支持体を噛ませて、元の糸より少し太い糸で綴じ直すのがよいだろうと判断したこと、またそうすることで一丁ずつばらした状態で丁寧なクリーニングが可能になる、という理由からVol. 1(2022年6月4日(土))の段階で綴じ糸は切りすべて抜き取り、本文はばらけた状態になっていました。

さて、綴じ直しをするにあたって、まずは次の点について考えなければなりません。

【手順の問題】
・綴じ方はどうするか?
・元の綴じ穴をそのまま利用できるか?

【寸法の問題】
・綴じ糸の太さはどうするか?
・元の表紙からはみ出すことなく収まるか?

●支持体について。
表紙を本文から外した段階で、糸の細さを補うために、綿テープを支持体に使用する方針を立てていました。
本文に開いた綴じ穴の数:8つ
2つ並んだ綴じ穴が4つあるような間隔配置です。
その2つ並んだ綴じ穴の間に、エプロンや巾着の紐などに使える手芸用の綿テープ(綾テープ、綾紐とも呼ばれます。)を支持体として渡そうと思います。
9㎜幅の綿テープが4本、ちょうど納まりそうでした。
支持体は、本や綴じ方によって、このようなリボン状のものだったり、太い麻紐だったりします。
今修理している画集は角背で、表紙と本体の大きさにあまり違いがないので、なるべく外側に響かない形状のもので補強できる綿テープを使おうということになりました。

●綴じ糸について。
同じ太さの糸では、細すぎるので、重たい画集を支えきれません。
実際、解体前は重みでのどがすっかり緩んでしまっていました。
元の糸より太くしたいところですが、やたら太い糸にすると、綴じ上がった状態で元の画集より厚みが出てしまうことになり、元の表紙に収まらなくなることもあります。

綴じ糸の太さ
・元の糸:0.09mm
・綴じ直しに使用したい糸:0.15mm
その差 0.06mm

ここまでで、支持体を挟んでそのままの穴とその穴の配置で針を進めて綴じることが出来そうだという確認はできました。
【手順の問題】はクリアかと思われます。
【寸法の問題】をクリアできるかどうかは、私の苦手な寸法計算を要します。
こういう時に仲間がいるのはありがたいものですね。
何を計算すれば大丈夫だと言えるのか?でさえも混乱しそうなのですが、つまり、本文に「綴じ直しに使用したい糸」の太さと、支持体の厚み、が加わって、元の表紙に収まるか?を計算で検証してみる必要があるのです。

①元の背表紙の幅(厚さ)に収まるか?
本文(綴じ糸は抜いた状態)
・44丁(2枚重ね)
・厚さ:27mm
・綴じ穴:8つ(1丁に対して)

綴じ直した本文の厚さ(下記A+B):33mm+0.96mm=33.96mm

A.
綴じ直しに使用したい糸を使って綴じた場合の一丁の厚さ:0.15mm+0.6mm(27mm÷44丁)=0.75mm
綴じた際の本文の厚さ:0.75mm×44丁=33mm

B.
支持体にする綿テープの厚さ:0.48mm
0.48mm×2(本文表紙側・裏表紙側にそれぞれ回り込む)=0.96mm

背表紙の幅:37mm
※天・地・中央と3か所を測って一番幅の広いところ

②元の表紙の幅(本の横寸法)に収まるか?
表紙の幅:255~257mm
1丁の幅:254mm

元々かなり余裕のないサイズだったことが分かりますね。
254mm+0.48mm(綿テープの厚み)+0.15mm(綴じ直しに使用したい糸の厚み)+0.25mm(寒冷紗の厚み:
※綴じた後は背に寒冷紗を貼ります。)
=254.88mm

①と②の結果から、元の背表紙・表紙それぞれの幅に収まることが分かりました!
ほっと一安心です。
ただ、これは計算上です。
人間の手で行う作業ですので、計算通りに仕上がるか、はたまた、検証もれがあるか、ちょっと不安ではありますが、この内容で次回は綴じ直しに進もうと思います。

「なるべく元の状態に近く」「読みやすく」「丈夫に」の指針で、表紙(表紙+背表紙+裏表紙)は分解せず、そのまま使用する方法で修理を進めています。
本文を丈夫にすることだけを優先に材料を選んで、綴じ終えたら表紙に収まらない!では仕方ありません。
または、計算上は収まるはずでも、やってみたら収まらない!なんてこともあるのかもしれません。
部分だけでなく、常に部分と全体の関係性を頭に置いて作業を進めないといけないのは、ものづくりのどの分野も同じでしょうけど、できるだけ元の材料を使う、できるだけ元の状態に戻す、ことが制約にもなってしまうのは、製本とは異なる修理の難しさかもしれません。

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

(写真1) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)支持体(綿テープ)を当ててみる。

(写真2) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)支持体に使う綿テープ

(写真3) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)本文の8つの綴じ穴

(写真4) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)「厚さ測り」 紙や糸などの厚さを測ります。

資料保存WS
小梅

(写真1) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)支持体(綿テープ)を当ててみる。

(写真2) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)支持体に使う綿テープ

(写真3) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)本文の8つの綴じ穴

(写真4) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所/p>

(写真4)「厚さ測り」 紙や糸などの厚さを測ります。

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/

・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/

・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/