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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㊸
私たちの保存箱研究 ~巻子本用~

少しずつ世の中に人の流れが戻り始めてきました。
恐る恐る、というところですが。
学内だけでなく、学外や他府県から来られる方もいる私たちワークショップは、まだ引き続き休会中です。
この長い自粛期間、ああ、私にもっと製本や修理の技術があれば、今こそ色々できるのに、と悔しい思いをいつもどこかに抱いて過ごしていました。

今回もこれまでの活動を振り返って書かせてもらいます。
2020年1月のWEBMAGAZINE[図書館に修復室をツクろう!]㊳九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1、2月のその2 あたりから、保存箱作りに取り組んでいることに触れてきました。
ですが、悲しい哉、道半ば、大学の年度の切り替わりが訪れ、担当者の異動なども重なり、取り組んでいた保存箱は、私たちの手で最後まで仕上げることが出来ず、所蔵図書室へと返却することになってしまったものもありました。
でも、部分的な関わりでもずいぶんと学んだものが多くありました。
それは・・・道具に恵まれなかったから!というとてもお恥ずかしく、苦笑してしまうような状況がそう感じさせてくれているなぁと、今思うわけです。
道具もスペースも、人も、充実した豊かな環境がある九州大学さんを思い出すと本当にトホホとなってしまうのですが、私たちは、「あるものでする」ことで、色々試し、工夫ができたと思っています。

2019年度末、私たちは巻子本用の保存箱をいくつか製作することになっていました。
しかし、保存箱本体に使用できるAFボードは、厚さ1mmのもののみ。他に選択肢はありません。
全紙大で持った時は、べらっとして大きいので、こんな程度の厚みでいいのか、と内心思っていたものの、いざ切る、折る、となると、とても固く、カッターも何度も引いてもなかなか切れず、折ろうと思っても元に戻ろうとする力が強烈で、女性の力では両手で必死。格闘の図です。やっと折れても力任せなので、きれいな折れ目にならず、いわゆる「割れる」(折り目の周辺に細かな筋や皺が入ってしまう状態)と表現される状態になってしまいました。
こんな大変なものなの~!?と一折するのに目を白黒。

九州大学での講習では、分厚い本を入れる保存箱でも、厚さ0.63ミリで十分、それ以上厚みがあると固くてうまく折れないと学ぶ。・・・どうりで。とがっくりしていた。
ですが、これしかないのです。私たちには。
みんなで工夫しました。
あるメンバーは、カッターのお尻にツメが付いたものを持っていて、そのツメで予め折り目に筋を入れるという方法を取ったり、またあるメンバーは、折る部分に、ツメではなくカッターそのものでボード紙の皮一枚残すくらいの感覚で切れ目を入れてしまうという方法を取ったり。
前者は、それでも固く、割れてしまうが多少折りやすいという感じ。
後者は、その後折り目に薄い和紙を貼って補強することで、割れのない箱にすることができた。

九州大学さんでの講習では、1枚のボードから展開図を起こすより、長方形の2枚を重ねて箱状にする方が残ったボードも次回に利用しやすい、ということも学んだが、なんせ材料が限られてるわ、ボードは固いわ、2枚も重なる部分があったらさらに固いわ、ということで、結局展開図を起こす方法を私たちは選ぶしかなかったのですが、どのような完成形にするか。これが一番の悩みどころだったように思います。
いきなりあの硬いボードでサンプルを作るわけにもいかないので、サンプルは和紙で作成しました。折りやすさが当然違うので和紙でうまくできても、ボードで再現するのがまた大変でした。

(写真1) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)巻子の採寸風景

(写真2) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)サンプルを和紙で作る

(写真3) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)ボード紙で再現

あーでもない、こーでもないと相談しながら

・中身の巻子本を傷めないもの。
・少ない材料で作りやすいもの。
・出来るだけ糊を使わないで済むもの。

ということを基準にし、
大きく分けて、3種類の巻子用保存箱の形が上がりました。

A…本体と蓋分離型
B…本体と蓋一体型:左右の軸先の部分をベロ型で入れ込み式の蓋にしたもの
C…本体と蓋一体型:食品用ラップの箱型

A
先に本体を作成させてから、出来上がった本体から蓋のサイズを起こしていかねばならなかった。
それから、糊が乾くまで待つ時間が必要になったし、糊で貼り合わせた紙の角度や、乾燥する際の湿度の関係で紙のたわみや歪みが発生してしまい、うまく蓋が収まらないこともあった。

(写真4) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)保存箱A

B
糊は不要。展開図で起こせる。丈夫だがベロ型が最後に中身の巻子の底へ入り込むようになること、中身を箱から出すとき、しまう時、ごろごろと巻子の入った箱をひっくり返す動作が起きてしまうことから、中身の巻子を傷める可能性を感じた。

(写真5) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)保存箱B_展開

C
ボード紙が扱いやすければ糊は不要。
九州大学での講習の際の保存さまざまの展示であったような、食品用ラップの入れられた箱のような形。展開図で起こせる。
最後の蓋部分を箱側面中央の切込みにベロ型で入れ込む形の展示を見たが、私たちの使用した分厚いボードでは側面中央までの折り返しが作り辛いと思え、本体角になる部分の折り筋に沿ってベロを差し込む切り込みを入れるもの。
本体を手で凹ませてベロを入れる隙を作る必要もないので、蓋の開け閉めがしやすい。

(写真6) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)保存箱C

(写真7) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)保存箱C_展開

ボードが扱いやすい厚さのものであれば、折り筋に切り目を入れてから和紙でその部分を補強するという必要はないので、製作にかかる時間もそれほどかけずに作れるだろうし、Cが一番基準を満たしていて良いものだと私は感じています。

図書館内で修理以外の業務と兼任でも行えること、
例えば、閲覧をしながらも行えるとか、出来る限り時間と手間を抑えた方法を考えるのも、私たちの立場では忘れてはならないことと考えています。

いつもと同様に、保存箱作りも誰かの途中の作業をまた別の誰かが引継ぐことの繰り返しの分業。
全員で集まり、完成した保存箱を前に確認し合うこともできぬまま、かくして休会となってしまった。
このコラムは、メンバーへ向けての報告の役目にもなると良いなぁ、と思い書き綴っています。

いつの間にやら、当然のごとくオンラインありきで様々な機会が設けられていく世の中となりました。
集まって作業が難しい今。
私たちワークショップでも、距離を保ちながら活動する方法を相談中です。

資料保存ワークショップ
小梅

(写真1) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)巻子の採寸風景

(写真2) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)サンプルを和紙で作る

(写真3) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)ボード紙で再現

(写真4) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)保存箱A

(写真5) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)保存箱B_展開

(写真6) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)保存箱C

(写真7) | 私たちの保存箱研究 ~巻子本用~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)保存箱C_展開