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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㊳
九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1

九州大学中央図書館 | 九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

九州大学中央図書館

昨年末2019年12月12日(木)~13日(金)の2日間に渡って九州大学附属図書館で開催された「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」に参加してきました。
1日目の12日(木)は「講習会」。
前回のコラム[図書館に修復室をツクろう!]㊲「図書館と災害、図書館と戦禍」でも触れられた一橋大学社会科学古典資料センターによる講義・実演・事例報告や、2018年度に行われた九州大学附属図書館の箱崎キャンパスから伊都キャンパスへの移転における資料保存の取り組みについて、そこで使用した資料の保存容器についての報告を聞けました。
2日目の13日(金)は、「実習」。
予め用意された材料を使用し、一橋大学社会科学古典資料センター篠田飛鳥講師指導により、資料をしまっておく為の封筒フォルダ、保存箱、保護ジャケットの作成をするものです。

開催地は福岡とはいえ、1日目の開始時間は午後。当日朝の新幹線で間に合う安心感と共に出発したものの、広島あたりで沿線から謎の発煙による予想外の新幹線途中停止&徐行運転。
会場は、博多駅から西鉄バスで1時間弱の九州大学伊都キャンパスにある中央図書館。
これを逃せば、博多駅から1本で行けて、開始に間に合うバスはない(検索が下手なだけかもしれないが)という中、余裕を持ったはずの新幹線からバスへの乗り継ぎ時間が刻々と狭まり、焦る。
結局、博多駅到着時刻からバス発車時刻までは4分。
初めて利用するバスターミナルまで、スーツケースを持ち上げ必死で走り、何とかバス乗車。日ごろの運動不足がたたり、バスに乗車後むせこみ、しばらく咳が止まらず、というドタバタハプニングがありつつも、何とか時間までに九州大学中央図書館に到着できました。今思い出しても肩に力が入ります。

この日は、講習会に先立ち、講習会参加の希望者向けに図書館ツアーをしてくださったので、そこからの参加です。
2018年10月に新築開館した伊都キャンパスの九州大学大学中央図書館。
当たり前だが、どこもかしこも新しく整っていて美しいです。
350万冊収納可能で、現在の国立大学図書館の中では最大規模の図書館となるそう。
地上4階建て。エントランスは外からエスカレーターや階段を利用して上がった3階に位置していました。
図書館に入ってすぐ正面のスペースでは、この6日前の12月4日、アフガニスタンで銃撃・死去された医師の中村哲先生を追悼する内容の展示がされていました。
中村医師は九州大学の卒業生。
母校のこの立派な新図書館を訪れたことがあったのだろうか、と思ってしまった。
1階から4階までは大きな吹き抜けが特徴的で、閲覧スペースは明るく、開放感のある建物でした。伊都キャンパス自体が丘の上にあるので、大きな窓からの景色もよいものでした。

図書館閲覧室吹き抜け | 九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

図書館閲覧室吹き抜け

午後からの講習会の事例報告「図書館移転における資料保存の取り組み」では、昨年2018年に完了した箱崎キャンパスから伊都キャンパスへの図書館の移転の伴った4年前からの取り組みが紹介されました。
「状態の悪い資料を新しい図書館にどうやって移動させるのか?」
移転までの限られた期間に完了させる必要があるため、重点的に整理する資料を絞ることや、個別の修理や紙の酸性化を食い止める脱酸処理はせずに、「クリーニングし、保存容器に入れること」を基本方針にマイクロフィルム資料なのか、カビ対策が必要なのか、特殊な形態の資料なのか、虫害対策が必要なのか、判別してゆき、資料の種類と、保存状態の調査から始められた。

膨大な資料を抱え、制限のある中、何を優先し、どこまで行うかの基準を明確にすることは、処置方法の迷いから生じる余計な時間と人力を消耗しないためにも、とても大切なことと感じました。
一つ一つの資料の状態、保存の状態、採寸、そこから必要物資や容器の選択までを記録し、リストを作成、データ化してゆく。
保存容器は、何がいくつ必要か明確にしてゆく作業になる。
想像するだけでは、何から手を付けてよいか分からなくなりそうなことを順序立てて報告され、実際の作業のイメージがしやすいものでした。
保存の容器類には、初めて聞く名前のものもあったり。
箱状のものが必要な場合、専門業者へはセミオーダーで依頼され、中性紙やアーカイバルボード(段ボール状の中性紙)の採寸カットまで業者依頼。組み立ては職員で行うなど、費用対効果を考え選択されたことが伺えた。

会場には、実際その時に発注し、組み立てられた筒状、帙状、箱状、フォルダなど様々な形態の保存容器の展示がされていて、手に取ってみることができました。
知らない梱包材や容器も、今必要がなくても、その用途と存在を知っておくことで、必要となった時に、時間的にも予算的にも、そして資料にも適した保存容器を選択でき、業者への依頼がスムーズになるし、それは、職員にとってだけでなく業者にとっても効率よく話を進めてゆくことができる、と話されていました。

保存容器さまざま展示 | 九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

保存容器さまざま展示

一橋大学社会科学古典資料センターの実演を含む報告「予防的保存・今私たちができること」では、同センターの貴重書保存修復工房の様子やそこで使用されている道具類の紹介に始まり、資料の保存カルテの紹介もあり、または破損状況に応じた修理や保存の方法もいくつか取り上げられていて、非常に参考になったのだが、革装本の代表的な劣化の一つとして、革の部分が乾燥で赤っぽい粉状にぽろぽろと崩れるレッドロットという現象があり、劣化した革部に保革油を塗布した後、定着にHPC(ヒドロキシプロビルセルロース)という薬剤を使用するのは、私たちの職場でも行うことがあったが、そのHPCにより革部が硬化し剥離しそうになる現象もみられることや、一度この処置を行うと除去できないこと等から、現在はレッドロット資料は保護ジャケットで包むにとどめられているという話でした。
以前、私もHPCを塗布した後、そのような状態で固まってしまったことに、これで本当に大丈夫なのかな?と不安になったことが思い出されました。
方法を知ったからと言って、鵜呑みにせず、実際の資料の状態をみて、修理をすべきか、現状保存すべきか判断できるようでありたいものです。

保存箱を中性紙原紙大から採寸して、手作りする段階で苦戦している私たちの現在おかれている環境との差に愕然とするお話しもありましたが、大学規模での移転となると予算が動き、それで周囲の理解を得やすい環境が整うことも理解できましたが、新しく何かを行うことより、以前からあるものに何かを施したい場合に周囲の理解を得るのはなかなか難しいものだなと思いました。

九州大学中央図書館も「移転」をきっかけに所蔵資料を改めて知り、整理することができたと話されていた。
直すだけでない資料保存のことや、常に状況に目を向け、記録してゆくことの大切さを学びました。

公開されている報告資料はこちら。

・「図書館移転における資料保存の取り組み

・「保存容器さまざま

2日目、12月13日(金)実施の「実習」については、また次回以降のWEBMAGAZINで報告したいと思います。

資料保存WS
小梅

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図書館閲覧室吹き抜け

保存容器さまざま展示 | 九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

保存容器さまざま展示