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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑰
本の修理に使う道具のお話:糊について

以前のコラム(⑦:本の修理について)でも本を修理する現場では様々な道具を使います。今回のコラムでは修理道具の中でも割とポピュラーな「糊」についてお話してみようと思います。

図書館の事務室の中には様々な種類の糊があります。まず、身近にあるのは一般的な文房具屋さんでも売っているスティックのりや水のりです。修理の仕事だけをしているわけではありませんから、事務仕事をする局面では一般的な事務所並みにこうした糊を活用しています。

しかし、本の修理に取り掛かる時にこうした糊を使うことはまずありません。接着力(直してもまたすぐに壊れてしまうようではせっかく修理しても無駄になってしまいます)や成分(例えば酸性が強いと紙を劣化させる原因になってしまいます)を勘案して目的に応じた糊を使うようにしています。色々なところで、「図書館で借りた本のページがとれたのでセロテープでくっつけて返したら、司書さんに「それはしないでください」と注意されちゃった…」という話を耳にします。セロテープはお手軽ですが、接着力・成分それぞれ本の修理に適したものではないので私たちはそのように言ってしまうのです。

図書館で最もよく目にする修理の機会は「ページが外れてしまった」というパターンです。こうした本を修理する時に図書館では多くの場合「ビニール糊」という糊を使います。(写真1)

(写真1) | 本の修理に使う道具のお話:糊について - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)

筆を使って外れたところに糊を付け、ヘラで薄くのばした後に本体へ貼り付けます。貼り付けた後は本をとじて輪ゴム・クリップなどで固定し、半日~1日程度乾くまで待ちます。ビニール糊は乾燥すると透明固形ビニールとなるので非常に接着力が高く容易に剥がせなくなります。そのため糊を付けすぎてしまうと、のどに近い本文や図版を巻き込んでしまうという失敗パターンがよくあります。私がかつて先輩からこの修理を教わった時には「あんまり糊付いてないけど大丈夫かなって思うくらいがちょうどいい量だよ」と言われました。とにかく「薄く延ばす」がポイントです。

私の図書館では修理以外にも本の背の「請求記号ラベル」(図書館の分類番号や著者記号が書いてあるラベル)を貼るために使うこともあるのでビニール糊は結構使用頻度の高い糊です。公共図書館等では透明フィルムを使って貼ることが多いようですし、私たちの図書館でもそのようにして貼ることも多くあるのですが、製本のしっかりした布装の本は透明フィルムを貼ってもすぐに剥がれてしまうので、ビニール糊で貼ることでラベルがそう簡単には剥がれないように固定しています。

私がちゃんと探せていないだけかもしれませんが、ビニール糊は一般的な文房具屋さんではお見かけしません。図書館でビニール糊を買うときは図書館用品を専門に扱う会社から購入しています。
※こうした会社のカタログを読みながら今回このテーマで書くことを思いつきました

「ページが破れてしまった」というのもかなり多く目にするパターンです。こうしたパターンでは水で薄めた「生麩糊(でんぷん糊)」をよく使います。(写真2)

(写真2) | 本の修理に使う道具のお話:糊について - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)

具体的な修理の手順は以前のコラム(⑬:和紙だからできる!「喰い裂き」を活かした補修)で紹介していますので、そちらを読んでいただければと思いますが、この時には糊以外に和紙が活躍します。生麩糊は中性であること、水溶性なので後で剥がして修理前に戻せることから、資料保存の観点で非常に優れた糊です。ただビニール糊と違って売られているものをそのまま使うのではなく、水で薄めるなどちょっとした調整が必要になるので、
ビニール糊による修理と比べて少し気を遣います。

京都大学の図書館で行ったいくつかの資料保存の取り組みはインターネット上で公開されておりますので、ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

初心者のための簡易補修―よくある破損、こう直そう
(京都大学図書館業務改善検討委員会資料保存環境整備部会作成、2011.3)

こわれた本をなおしながら…資料保存講習会(修理実習付)
(京都大学吉田南総合図書館ブログ「今日も逍遥館」、2015.4.15)

京都大学図書館資料保存WS
R.M.

(写真1) | 本の修理に使う道具のお話:糊について - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真2) | 本の修理に使う道具のお話:糊について - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)