図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]51
これも綴葉装、あれも綴葉装、たぶん綴葉装、きっと綴葉装。
綴葉装のサンプルを仕上げることにした。(写真1)
このご時世、遠方の外出がはばかられる。
本当なら1月からも「古本と手製本 ヨンネ」さんへ学びに行く予定だったのだが・・・
自粛中は、昨年4カ月通って学んだことを復習する機会にでもしたい。
ヨンネさんへ通い出す前、綴じることをしきりに習いたがった私に、ワークショップの先輩が貸してくださった「綴葉装」のサンプルがそのままになっていたことを思い出した。
(そんなことばっかりだな、この人。と思われても仕方がない。その通りだ。
図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]㊾ ある漢籍の修理をご覧になった方なら、そう思われるはずだ。)
良い機会だからそれに取り掛かった。
とは言っても、本文紙は既に折丁にされ、綴じ穴まで開けて、針と糸も用意されているので、本当に運針のみの作業だ。
綴葉装は、1本の糸の両端に針を付ける。2つの綴じ穴をペアにして作業を進める。
一番上の丁の谷折の真ん中から、隣に並んだ2つの穴に針を通し外側へ。
二折り目の穴に外側から針を通し、二折り目の内側に出た糸はペアである隣の穴へ。片方の針も同じように。
それから外側へ出した針はそれを繰り返して、最後の丁まで行ったら、針は折り返し、2本の針それぞれかがり下りてきた糸にペアの内側から外側方向へ巻き付けるように、すくっては丁と丁の間に針を通して、初めの丁の下に戻ってくる。
長い方の糸をはじめの丁の穴の外側から内側へ通し、ペアにしているもう片方の穴へ内側から外側へ抜ける。
ここでペアの穴どちらかから2本の糸が出ている状態になる。
2本の糸をこま結びにして、結び目5ミリほどのところで2本の糸を切る。(写真2〜8)
外側で結ばず、折の内側で結ぶこともあるようだ。
ヨンネさんの講座のレジュメ、それから栃折久美子氏の「手製本を楽しむ」を参考にやってみた。(写真9)
針の数が穴の数だけ必要で、ぶらぶらと下ろしている糸の絡みに気を付けないといけないけれど、都度都度引っ張り締めることができるので、緩みが発生しにくく糸を運びやすい。
そして、一丁ごと開きやすいのがいいと思う。
ヨンネさんでも習ったこの綴じ方。
ヨンネさんでは「パピヨンかがり」とも呼ばれていて、これは製本家の栃折久美子さんから広がった呼び名なのだそう。
「綴葉装(てつようそう)」について調べると、あっちへ行ったりこっちへ来たり、頭が混乱してくる。
何故かというと
「裂帖装(れつじょうそう)」「胡蝶装(こちょうそう)」「粘帖装(でっちょうそう)」と複数呼び名があり、それそれ別のものと見解するもの、別のものと言われていたがそうではないと書かれているもの、その内のいくつかが同じもののこととか・・・混乱である。
手元にある書物からの見解をまとめてみた。
● 古文書修補六十年 / 遠藤諦之輔著
汲古書院 昭和62(1987)年6月初版
「粘帖装(でっちょうそう)」・・・帖仕立ての最初の形。中国より渡来の最初の装幀。書誌学上では「胡蝶装(こちょうそう)」とも呼ばれる。本文紙を真ん中で二つ折りにした一丁ずつの折り目に沿って1センチくらいに糊付けし表紙をつけたもの。
「胡蝶装(こちょうそう)」・・・「綴葉装(てつようそう)」とも言われる。「胡蝶装」の名のおこりは、それぞれの帖を二つ折にして閉じると、一番内側になる部分は折り目まで開いて蝶が羽を広げた形に似、そうでない部分は羽根を綴じた形に似ることからつけられたもの。
● 書誌学入門 : 古典籍を見る・知る・読む / 堀川貴司著
勉誠出版 2010年3月初版
「粘帖装(でっちょうそう)」・・・紙を谷折りにし、折り目付近に糊を付けて繋げてゆく。見た目から「胡蝶装(こちょうそう)」ともいう。糊代を1センチメートルくらいとるので、糊付けの為完全に開かないところと、谷折りしてある折り目までに開くところとが交互に出現する。数え方は「帖(じょう)」「裂帖装(れつじょうそう)」・・・「綴葉装(てつようそう)」とも。数枚の紙をまとめて谷折りしたものの折り目の部分に穴を開け、糸で綴り、さらに折同士を糸で綴り合わせていったもの。日本固有の装幀と言われていたが、中国に古い遺品がある。数え方は「帖(じょう)」
● 続・図書の修理とらの巻 / NPO法人書物の歴史と保存修復に関する研究会編
澪標 2019年8月初版
「綴葉装(てつようそう)綴じ」・・・平安時代に多用された綴じ方。長い間日本古来の綴じ方と言われてきたが現在では異論あり。糸の両端に針を通す。呼称には、やまと綴じ等いろいろあり、現在では綴葉装に統一。
落ち着いて、整理してみよう。
糊付けのみで糸綴じはしない「粘帖装(でっちょうそう)」、糸で綴じる「胡蝶装(こちょうそう)」「裂帖装(れつじょうそう)」「綴葉装(てつようそう)」「パピヨンかがり」が恐らく同じもののように思える。
ことをややこしくしているのは、「粘帖装(でっちょうそう)」のことをその形態から「胡蝶装(こちょうそう)」と呼ばれることにあるようだ。
ちょっとすっきりして来た。
遠藤諦之輔氏は、上記著書の「和紙の話あれこれ」の中の「粘帖装と胡蝶装について」で、講演会などで必ず「どちらも胡蝶装というらしいが、それでよいのか?」と図書館員からの質問があることに触れられている。
この本が発行されたのは、1987年。40年近く経った今でも図書館員を迷わせている話であることに苦笑だ。
彌吉光長氏が、復刻日本古典文學館ニュースNo.4の「粘帖装と大和綴」の中で、大和綴の製本の仕方は糸で綴じることと述べており、「胡蝶装」のことを言っているようであること。
それから、「広辞苑」の「大和綴」には、その末に「即ち胡蝶綴・帖葉の総称。」とあり、
「粘帖装」は糊で粘ったもの、「胡蝶装」は5枚ずつ重ねて折り、糸綴じしたもの。と述べられていることからも、その区別が見えてきましたが、この呼称の違い、書誌学、国文学、製本の観点でもきっと異なって来るものかもしれませんね。
で、私は何と呼ぼうか。
たぶん綴葉装。
きっと綴葉装。
資料保存WS
小梅