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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]75
新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録 Vol. 4

2023年6月から始まった資料保存ワークショップ番外編「修理の日」。
ぼちぼちと画集の修理に取り組んでいます。
図書館員による実験的本の修理の連続記録です。

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!と先にお伝えします。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。

ゆっくり進む連続、画集の修理記録です。
vol. 4の今回は、2023年1月7日(土)と2月4日(土)の2日に分けて行った漂白作業の記録です。
2022年11月5日(土)(Vol. 3)に続いての漂白作業ですが、おっかなびっくり行った実験は前回で終了し、この日は、漂白の本作業です。
表紙、裏表紙のそれぞれ平の全面を2日間に分けて行いましたが、2023年1月7日(土)に行った内容でうまくいったので、2月4日(土)は同じ作業を繰り返しました。
漂白の後、生地を保護するため、あまり時間を空けずにリンスも行いました。

■表紙クロスの漂白(全体的)

2022年11月5日(土)(Vol. 3)で使用する塩素系漂白剤(俗にハイターと呼ばれるものです。)は原液100%でよいと分かったので、いきなり原液から使用します。
作業机の上には、薬剤の飛び散りから机を保護するためレジャーシートを広げてその上に対象の表紙を置いて、作業はゴム手袋にアームカバー着用、汚れてもよい格好で行います。
表紙サイズは、275×264mm。
晒も塩素系漂白剤も少しの量で充分です。

【用意するもの】
・晒(150×150mmくらい, 絵柄が無くて毛羽立ちの少ない白い綿生地が良いと思う。)
・塩素系漂白剤(30ml)
・キッチンぺーパー
・クリアファイル(透明のもの, A4サイズのものの接着部分をカッターで切って広げて使用)
・白い紙(コピー用紙, スケッチブック用紙等)

① バケツやボウル、バットなどに塩素系漂白剤を分量分入れて、晒をまんべんなく浸し硬く絞る。

② 絞った晒を扱いやすいように小さく畳み、表紙をこするように、まんべんなく拭く。
  時々晒を折り返して、なるべく晒の汚れが少ない部分を使って拭き取るようにする。

③ 全体が拭けたら、下記の順に挟みものをして、プレスにかけて余計な水分をキッチンペーパーに吸い取らせる。プレスする時間は、10分。

挟みものの順番
—————————-
プレス上板

古新聞
白い紙
キッチンペーパー
表紙クロス面
クリアファイル(色見返し保護のため)
色見返し(片面折り返しで表紙内側に接着の状態のため)
白い紙
古新聞

プレス下板

④ プレスから抜き出し、漂白した表紙の湿り具合を確認し、必要であればキッチンペーパーを取り替えて再度③を行う。2回目以降のプレス時間は、様子を見て適宜調整。

②の晒での漂白作業は、表紙生地が綿麻?のキャンバス地のようなもので表面は織目の凸凹があるので、全体に浸透するように割としっかり力を入れてこするような感覚で行いました。
それでいて、芯材のボードにまで浸み込むと表紙のたわみの原因になるので加減しながら。
拭き取り出すと、見る見るうちに表紙の色が白っぽくなり、汚れやシミが薄らいでゆくのがおもしろいものでした。
効果が目に見えてすぐに表れるのは励みになります。メンバー一同、歓声。
③のプレスかけは、1回だと表紙はまだしっかり湿っていたので、3回行いました。
(キッチンペーパーは、もったいないので乾燥させて掃除用に回すことにしました。)
プレスの作業は表紙・背表紙・裏表紙を広げた状態でプレスに収まりきらないので、挟みものをずらさないように2人がかりで行う必要がありました。正確にはプレスを閉めて開ける作業にも1人加わり、3人がかりだったのですが、
プレスを作業台に予め置いておく、もしくは作業台でプレスの代わりに重しを乗せて行うのなら、ここまで一人でもできそうです。
仕上がりは、漂白作業前の裏表紙が隣にくっついているので、その差は歴然です!
真っ白に漂白されず、クロスの元々の生成色っぽい色味も残っています。
ただし、汚れ具合なのか汚れやシミの原因によるのか、完全に汚れやシミが消えるということは難しいようでした。素材が紙ならまた違ったかもしれません。

(写真1) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)漂白剤に晒を浸す

(写真2) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)漂白作業中

(写真3) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)プレスに入れる際の挟みもの

(写真4) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)3人がかりでのプレス

(写真1) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)漂白剤に晒を浸す

(写真2) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)漂白作業中

(写真3) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)プレスに入れる際の挟みもの

(写真4) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)3人がかりでのプレス

■表紙クロス漂白後のリンス

塩素系漂白剤でのダメージが広がらないうちに、すぐに保護のためのリンスの作業に移ります。
漂白剤の強アルカリ性の刺激に対して、中性洗剤を使います。
なるべく余計な成分の入っていないものが良いと思われ、純粋な石けん成分で作られているものにすることにし、手持ちであったSARAYAさんのarauを使用しました。
作業工程は、塩素系漂白剤が石けん水に変わっただけで、先述の「■表紙クロスの漂白(全体的)」と同じです。

【用意するもの】
・晒(150×150mmくらい, 絵柄が無くて毛羽立ちの少ない白い綿生地が良いと思う。)
・中性洗剤(15ml, 合成界面活性剤、着色料、保存料無添加のものを使用。)
・水 (15ml, 中性洗剤希釈用)
・キッチンぺーパー
・クリアファイル(透明のもの, A4サイズのものの接着部分をカッターで切って広げて使用)
・白い紙(コピー用紙, スケッチブック用紙等)

① 中性洗剤は原液では泡が立ってしまったり、洗剤が残り過ぎることが予想され、水で2倍に希釈し石けん水にする。
  バケツやボウル、バットなどに中性洗剤と水を分量分入れて、晒をまんべんなく浸し硬く絞るこの時、泡が立たないようにそっと行う。

② 絞った晒を扱いやすいように小さく畳み、表紙をこするように、まんべんなく拭く。
  時々晒を折り返して、なるべく晒の汚れが少ない部分を使って拭き取るようにする。

③ 全体が拭けたら、上記の順に挟みものをして、プレスにかけて余計な水分をキッチンペーパーに吸い取らせる。プレスする時間は、10分。
  挟みものの内容と順番も「■表紙クロスの漂白(全体的)」と同じ。

④ プレスから抜き出し、表紙の湿り具合を確認し、必要であればキッチンペーパーを取り替えて再度③を行う。2回目以降のプレス時間は、様子を見て適宜調整。

ここまでの工程を表紙、裏表紙と2日間に分けて行いました。
2023年1月7日(土)の経験と記録で2月4日(土)の作業は割とスムーズでした。
しかし、各作業②の「まんべんなく拭く」について、晒を移動させる方向やこする向きなど、細かい部分のメモ控えが無くて、ちょっとしたことなのだけれど、「どうやってやってたっけ!?」と少し不安になるようなことがありました。
私たちの作業は、メンバーそれぞれがメモを取っているので、お互いのメモから補い合って作業を振り返りながら進めることが出来ました。
一ヶ月空くので、記録の大切さを痛感します。
後から見てちゃんと実践できるようにしないといけませんね。
細かいようですが、感じたことや感覚的なことも控えておくと、作業はスムーズに行えると実感しました。

(写真5) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)リンス用の石けん水に晒を浸す

(写真6) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)漂白が成功して一目瞭然の表紙裏表紙

表紙クロスの漂白作業は、印字のある背表紙を残すのみとなりました。
・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
この時に、背表紙の印字が若干にじんでしまったということがありました。
背タイトル文字をどのようにして避けて、漂白するか?
次回に続きます。

(写真5) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)リンス用の石けん水に晒を浸す

(写真6) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)漂白が成功して一目瞭然の表紙裏表紙

さて、このWEB MAGAZINEでもずっとお伝えしてきました2022年11月に開催された図書総合展2022への「修理系司書の集い」としてのポスターセッション会場へのWEB出展については、前回のWEB MAGAZINE のM.T.氏による「京都大学図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]74 更に「新たな一頁」へ
等でもご報告を続けてきました。
たくさんの方にご回答いただいた「資料保存の現場見える化アンケート」で、「来場者投票賞第2位」および主催者である株式会社カルチャー・ジャパンから「カルチャー・ジャパン賞」をいただき、メンバーの中では大した貢献が出来なかった私が表彰状を預かることになりました。
アトリエに大切にかけさせていただいて、訪れるたくさんの人の目に触れられるよう致します!
1月末にこちらでアンケート結果の最終報告が掲載されています。
私たちの様な活動、そしてそこに関わる人たち同志で横につながれる場が必要とされていることが分かるうれしい結果もありました。
疑問・不安の解決策、修理方法は何通りもあると思います。それこそ図書館の数だけ、いやもっとかも。
みなさんの現場ではどのようにしているかなどが気軽に共有し合える場が作れるとよいのかもしれません。
この図書館総合展内での記事は、2023年11月までアーカイブとしてご覧いただけます。
次なる展開は?この場で得た貴重な回答を今後もみなさんにご覧いただけるよう、またさらに情報提供ができる形を模索しています。
どうぞお楽しみに。

(写真7) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)図書館総合展「修理系司書の集い」表彰状

資料保存ワークショップ
小梅

(写真7) | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 4 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)図書館総合展「修理系司書の集い」表彰状