web-magazine
web-magazine

白須美紀
紙のある暮らしを守るためのプロジェクト
吉川紙商事

(写真1) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

美しく甦った紙

その紙をはじめて知った人のほとんどは、まず驚いた表情を見せるのだという。見た目は茶色がかった機械抄きの和紙で、細かな混合物が雪のように舞っている。名前は sutenai。「捨てないで」という思いを込めて名付けられたそうだ。

「使用済みダンボールと製造時のロスで廃棄される和紙を原料にしていて、オール古紙で構成された紙なんです。ダンボールがこんな美しい紙に生まれ変わることに、皆さん驚かれるようですね」

そう教えてくれたのは、sutenaiを開発した吉川紙商事取締役の吉川聡一さんだ。

「ネットショッピングの増加にともないダンボールの利用が増えていますが、役目を終えて古紙回収に出した後どうなるかは皆知りません。実は紙は循環する資源で、それはダンボールであっても同じなんです」

そう言われてもう一度 sutenaiを見てみると、雪のように散っている混合物は何かの繊維ではなくダンボールの欠片であることがわかった。見た目のナチュラルな素材感に反して、手触りはすべらかだ。試し書きをしてみると書き心地もスムーズで、インクの滲みがなく万年筆とも相性がいい。材料にも驚くが機能性にも感心するプロダクトとなっていて、繊細に抄紙開発されたこだわりの紙であることが伝わってきた。

プロダクトとしては一筆箋、メモ帳、A5ノートの展開があるが、どれもシンプルでモダンなデザインだ。また、一筆箋を綴じるときの糊や製品が入った封筒の糊もケミカルなものは避けて天然素材を使っているため、そのままもう一度リサイクルができるという。

(写真2) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真4) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真1) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真2) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真4) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

若い世代に紙に親しんでもらうために

このsutenaiは、吉川紙商事が越前の石川製紙とタッグを組んで始めた #wakami というプロジェクトのアイテムだ。 #wakami のテーマは「触れる。学ぶ。楽しむ。」だが、このプロジェクトが生まれた背景には、世の紙離れに対する吉川さんの強い危機感があった。

「僕は30代なんですが、20代後半ぐらいから友人が続々と結婚し子どもが生まれたりするようになって、若い夫婦の家庭を訪問することが増えたんです。すると訪れた友人宅に、紙が無いことに気づきました」

賃貸では壁にカレンダーやポスターを貼ることができないし、和室が無い場合は襖や障子も存在しない。新聞や本は電子で購入し、スケジュール管理やメモはスマホを使う。最近では電子マネーが当たり前になって、お札さえ持たない人もいるだろう。そう考えてみると、紙に興味のない若い家庭にあるのは、ティッシュやトイレットペーパー、お店の紙袋や通販のダンボールくらいだろうか。

「そのときに『この家に生まれたばかりの赤ちゃんは、いったいいつ紙に触れるのだろう』と思ったんです。これからの時代の若者や子どもたちにもっと紙に触れて欲しいという想いから、プロジェクトを立ち上げました」

吉川さんによれば、#wakamiの「触れる」には、「紙そのものはもちろん、歴史や文化にも触れて欲しい」という想いが込められているという。それを体現しているのは、#wakami のもう一つのプロダクトラインである torinoko だろう。

torinoko は、「紙の王様」といわれる鳥の子紙が原型だ。平安朝初期には斐紙(ひし)と称されていた歴史を持ち、紙肌が上品で美しいうえに耐久性もあるため、保存を目的とした高級記録紙として重宝されてきた。また、その特質から襖紙やたとう紙などにも使われている。#wakami の torinoko もその歴史を体現するかのような美しさをたたえ、穢れを跳ね返すかのような清らかな白が印象的だ。

吉川さんによれば、お客様に勧めても皆遠慮して torinoko に試し書きをしたがらないのだそうだ。

「紙の文化や歴史を感じていただくため、鳥の子紙本来の美しさ、保存性をしっかり再現しています。歴史や価値を説明しなくても、『試し書きするにはもったいない紙』であることを、皆さん感じ取っておられるのでしょう」

(写真6) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真6) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

これからの紙の価値を見据え、仕掛ける

#wakami のプロジェクトは2022年の夏に始まったばかりだが、「いい紙と暮らそう」を合言葉にしているため、文房具だけではなくインテリア分野への挑戦もはじめているという。また、プロダクトだけではなく、イベント開催なども考えているのだそう。

「親しんでもらうには、楽しんでもらうことが一番大事なので、イベントはぜひやりたいと思っています。僕と同世代の方で『いい筆記具を持ちたい』と思っている人は結構いるんです。けれど自分の字に自信がないから、ついパソコンに逃げてしまう。そういう方々が気軽に参加できる筆記ワークショップなども企画していきたい。異業種交流会や飲み会と一緒にやったり、カップルで参加できたりしたら楽しそうですね」

情報伝達媒体としての機能はデジタルに移り変わっても、「人の想いを伝える」という紙の役割や素材としての魅力は決して失われていない。いやむしろ、紙が溢れていた時代よりもその存在感は強くなり、今後は紙を使うという行為に特別な価値や意味が生まれるだろう。まだ若い吉川さんがそのことをよく理解し挑戦しているのは、なんとも頼もしい限りだ。紙の歴史は1500年以上になるというが、#wakami というプロジェクトはその歴史をさらに延ばしていくための大事な一歩でもある。

(写真8) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真9) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真8) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真9) | 紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

#wakami

紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

世界の筆記具ペンハウス(取扱店):
https://www.pen-house.net/category/WAKAMI/

Instagram:
https://instagram.com/wakami_paper?igshid=YmMyMTA2M2Y=

紙のある暮らしを守るためのプロジェクト 吉川紙商事 - 白須美紀 | 活版印刷研究所