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三星インキ株式会社
平版印刷用油性インキの黄変のメカニズム

平版印刷用油性インキの黄変のメカニズム - 三星インキ株式会社 | 活版印刷研究所

前回、紫外線以外の影響によって黄変が発生しやすいのは、平版印刷用油性インキが多いと書かせて頂きました。

これはなぜか。

これは平版印刷用油性インキの皮膜形成システムによる影響が大きいのです。

平版印刷用油性インキはどのようなシステムで皮膜を形成するのか?
もう一度おさらいしましょう。

平版印刷用油性インキは、コバルトやマンガンなどの金属石けんと呼ばれる触媒が空気中の酸素とインキ中の樹脂が重合するのを助力し、皮膜を形成する機構を有するインキであります。
つまり、平版印刷用油性インキは空気中の酸素が樹脂を酸化させることで皮膜を形成するのです(酸化重合型)。

何度も書かせて頂きましたが、物質は酸化することで性状が変化しますが、性状変化の1つとして着色することが知られています。
ご家庭で天ぷらなどの揚げ物をされた際、新品の油を使ったにもかかわらず、揚げ終わり時は透明だった油が黄色くなっていませんか。これが酸化なのです。
そして平版印刷用油性インキを構成する成分にも、揚げ油と同じく植物油を使用していることが多いのです。
つまりこの油の酸化現象が印刷インキでも起こり、インキ中の植物油成分が空気中の酸素と反応して酸化することで、透明であったインキが黄色く変色(黄変)していくのです。

写真 | 平版印刷用油性インキの黄変のメカニズム - 三星インキ株式会社 | 活版印刷研究所

また、意匠性を高める(艶感を上げる)ために光沢型やグロス型と呼ばれるOPニスを使用されることもあると思いますが、このタイプのOPニスは植物油成分の使用割合が大きく、かつ乾燥性を高めるために金属石けんの使用量も多く使用していることが多い事から、より黄変しやすい傾向となります。

では、黄変しにくい色のないインキを得るには、植物油成分及び金属石けんを使用しなければよいのではないかと思われるかと思います。
これは黄変の抑制に関しては正解なのです。
ただし、植物油を使用しないことで艶感が出にくい、また金属石けんを使用しないと皮膜形成が非常に遅い(皮膜強度も弱い)ということが起こります。

なお、弊社では上記方法の黄変しにくい処方(植物油成分・金属石けん不使用)を施し、かつ酸化重合だけに頼らずとも早い皮膜形成を可能としたOPニスである『低黄変OPニス』を販売しております。
この『低黄変OPニス』は酸化重合による皮膜形成をほとんど行わないため、酸化時に発生するガスも抑制させることから、油性インキを使用した印刷物が発する独特の臭気も抑えられる低臭型のOPニスであり、包装紙など長期間保管されることが周知の印刷物などに使用して頂いております。

しかし、『低黄変OPニス』を使用したとしても全く黄変しないという訳ではなく、通常のOPニスよりも黄変度合いは小さくなりますが、いずれ黄変することが予測されるということは周知しておいて下さい。

ではなぜ、空気中の酸素を取り込まないのに黄変するのでしょうか?

これは原反による影響があり、特に平版印刷用油性インキは原反に紙を使用されることが多く、紙中の成分によって酸化するのです。
これは以前に金インキの変退色について書かせて頂いたコラム内容(2019.3『印刷と変退色のメカニズム』)の通り、紙の製造工程で『酸』と名のつく化学物質(硫酸など)を使用することが多く、それら酸の影響を受けることで『酸化』という現象が起こります。

以上のことから、①酸化重合型の乾燥機構 ②成分的に植物油を使用している ③原反に酸性成分を含む紙を使用する という多くの項目に該当する「平版印刷用油性インキ」を使用した印刷物では黄変が発生しやすい傾向にあります。
そして全ての平版印刷用油性インキは酸化による黄変は必ず発生しているのですが、色のないインキでは黄変が特に目立つため、指摘されやすいインキであります。
従って、非常に着色の薄い色インキを使用した場合にも、経時で黄変による変色の発生が懸念されますので、十分留意して頂ければと存じます。

次回は他の印刷方式で印刷した印刷物の黄変について

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写真 | 平版印刷用油性インキの黄変のメカニズム - 三星インキ株式会社 | 活版印刷研究所