三星インキ株式会社
温度の影響について①
2024年の夏は非常に暑く、11月を過ぎてもまだ半袖で過ごせる日がありました。
このように気温の高い日に、熱を発する機械の側にいるのは本当に嫌になります。
これは人間だけでなく、印刷される側(インキ)にとっても大変な事で、印刷機周辺はどうしても熱が発生して温度は上昇しがちです(特に外気温が高い夏場は顕著です)。
また、夏が暑い年は冬が寒くなる傾向になりやすいとのことです。
そしてほとんどの物質は温度変化によって硬さに変化が発生し、温度が高くなると軟調化、低くなると硬くなる傾向にあり、印刷インキもご多分に漏れずに硬さの変化が発生します。
そのため気温(温度)の高い環境下で印刷する場合、温度による軟調化を見越して硬めの調子を有するインキを、反対に低い環境下で印刷する場合は軟らかめの調子を有するインキを事前に準備する必要があります。
上記のように、温度に応じてインキ調子を考慮したインキの事前準備の必要性は印刷方式によって違いが出てきます。
ではそれぞれの印刷方式で、必要性の有無について確認してみましょう。
まずは『グラビア印刷』から
グラビア印刷向けインキに使用している原料として、トルエン・酢酸エチル・MEK(メチルエチルケトン)などの有機溶剤が挙げられますが、これらは常温下でも揮発しやすい性質を有します。
また最近では有機溶剤を使用しないグラビア印刷向けインキとして水性タイプのインキも増えてきていますが、乾燥性を向上させるために揮発成分としてアルコール(IPAなど)を使用しており、アルコールは有機溶剤に比べると揮発しにくいですが、必ず揮発します。
つまり印刷機にかける(=容器からインキを取り出す)という工程を踏むだけで、インキ中の低粘度成分である有機溶剤が揮発するために徐々にインキ粘度が高くなるという現象が起こり、さらに機械が動く(回転する)ことで揮発性が助長されます。こうしたことから、安定した印刷を行うには印刷時に常時粘性調整(管理)を行う(有機溶剤などの低粘度成分を添加する)必要が出てくるのです(必須工程とも言えます)。
また、グラビア印刷向けインキは配合的に樹脂などの固形分の割合が少なく(溶剤量が多い)、温度の影響を受けにくい(温度による粘度変化の影響は固形分の方が大きい)ため、事前に温度変化を見越したインキを準備しておくということはあまりされていないと思います。
なお、気温が高くなると有機溶剤の揮発性が高まるため、安定した印刷をするには低温環境時よりもさらにこまめな粘度調整が不可欠となります。
次は『フレキソ印刷』
現在フレキソ印刷は水性タイプが主流であり、かつ成分的にアルコールもほとんど使用していないために揮発成分が少なく、グラビア印刷のようにこまめな粘度調整を行う必要はありません。
ですが、水性タイプということは基本的に『水』を成分として使用している訳で、水自体の沸点は100℃であり、本来であれば自然条件下では揮発することはないのですが、常温下でも徐々に揮発することは周知のことと思います(機械上ではさらに・・・)。
この事から、グラビア印刷同様に水性タイプのインキを使用して印刷する場合、安定した印刷をするために印刷時に粘度調整を行うことが多く、事前に温度変化を見越したインキを準備することは少ない傾向にあります。
では、フレキソ印刷と同じく、凸版印刷に分類される『活版印刷』に使用するインキには温度変化を見越したインキが事前に準備されているかどうかお分かりですか?
ポイントは活版印刷向けインキの成分面と、印刷する際の条件などが挙げられます。
次回のコラムにて確認してみましょう。