池ヶ谷紙工所
第1回「エンボス専門業」
印刷物に圧をかけて指定部分を浮き上がらせるエンボス加工、またはへこませるデボス加工。活版印刷でもよく行われる加工ですが、そのエンボス及びデボス加工(以下連載 内では「エンボス加工」と表現)を専門に扱っているのが、弊所・大阪府摂津市に事業所を構える「池ヶ谷紙工所」です。エンボス加工の深くて面白い世界を、私、池ヶ谷昌良がこの場を借りて、今回から連載コラムとしてご紹介させていただこうと思います。
まず、エンボス加工とは?
エンボス加工は、紙やフィルムなどのシートに凸凹を付ける加工方法です。ひとくちにエンボス加工と言ってもその効果や狙いは様々ですが、大別するとふたつの効果に分けられます。ひとつは、柄を入れることで高級感を増したり、ブランドロゴのエンボス加工を施してアイキャッチとするなど、装飾性の向上を狙ってエンボス加工を施す場合。もうひとつは、表面に凹凸をつけることで厚みに変化をつけたり、シート同士のひっつき防止効果を得たり、使いやすさを向上させる機能性を期待する場合です。もちろん、これら両方の効果を期待して行うケースもあります。
希少性の高い専門業
池ヶ谷紙工所についてご紹介します。弊所は、祖父・喜作が昭和38年に大阪市生野区で創業しました。脱サラし、なにか新しいことをしようと模索しているときに、アルミ粉業を営んでいた知人から「エンボス加工の事業をやってみないか?」と声をかけられたのがきっかけでした。
創業当初は、自宅の一部屋に置いた手差しのエンボス機が一台のみ。和紙職人の知人に手伝いに来てもらい、教えを請いながら技術を学んでいきます。慣れない作業で試行錯誤を繰り返しながらも、封筒や便せんに布目のエンボスを入れる大口の発注を受けられるようにまでなります。大口の発注をこなすうちに、単判からより大きなロール紙へのエンボス加工へと徐々にシフトが進み、やがて生野区の自宅では手狭になってきます。よりよい作業環境を求めて創業の地を離れ、現在の工場がある摂津市・鳥飼に移転。同地にて今日まで事業を営み、2010年に事業を受け継いだ私・昌良で現在3代目となります。
弊所のようにエンボス加工のみを専門的に扱う事業所は、創業当時から数が少なく、現在も近畿圏で数件しかありません。エンボス機を所有している印刷会社もいくつかあるのですが、こまめなメンテナンスが必要で時間・費用的な面で採算性がよくなかったり、所有しているエンボスの柄が限られていたり、自社で専門的なエンボス加工を行うメリットはあまりないと判断されることが多いようです。過去にはわざわざ関東の印刷業者から、ある特殊な柄のエンボス加工ができる業者が関東にいないからと発注があったこともあります。事業の稀少性の高さは、創業時から今日に至るまで、弊所の強みのひとつとなっています。
主に扱っているのは、紙・アルミ・フィルムへのエンボス加工。特にロール紙への加工が多く、その多くは印刷会社からの発注です。エンボス加工を施す理由の一例を挙げれば、
・紙の表面のつやを消して上品な雰囲気を出したい
・低温下で包装紙同士がくっつくトラブルを解決したい
・工場の速いラインに流しても破れないように耐久性を上げたい
・長年親しまれている化粧箱デザインの一部として
と様々。前述のように、大別すれば装飾性か機能性を高めるという目的になるのですが、案件によってその加工方法は多岐にわたります。次回からは、実例の紹介を交えつつ、より深く掘り下げてご紹介していきます。深くて面白いエンボス加工の世界、ご期待ください。