三星インキ株式会社
光と色について
では、前回に引き続き、光と色についてもう少し深いお話を致します。
お店で買い物をしていて、とても気に入った色の洋服を見つけて買ったとします。そして実際に着て街に出かけようと思った時、『あれ?買ったお店で見た時と何か色が違う?』と思った経験は誰もがあると思います。服なんて僅かな時間で変色したりしない(洗濯で色落ちや色移りはあるかもしれませんが・・・)のに、一体なぜ違う?と感じたられたと思います。
今まで読んで頂いていれば、この現象に関して何か思い当るところが出てくる方がいらっしゃると思います。
もう一度色を見る大切な要素を思い出して下さい。
そうです。
光なのです。
人間は昔、朝太陽が昇ると起き出して、沈むと眠るという生活をしてきました。従って、人間が最も影響を受ける光は太陽光なのです。
しかし現代では太陽光以外に新しい発光方法(火・ランプ・蛍光灯・LEDなど)が多く存在します。そして発光方法が異なると光の中に含まれる成分が異なり、物体に当たって反射した光が人間の目に入った時に色の違いを感じてしまいます。
太陽光には赤外線や紫外線などが含まれていますが、照明器具によっては赤外線・紫外線が発生しないものも存在しており、この光源の違いによって色の見え方が異なってくるのです。
更に細かく言えば、同じ太陽光でも地球の緯度によって違いがあり、赤道付近では赤味が強く、両極にいくと青味が強くなります。地球規模ではなく、もっと身近なものとして北海道と沖縄、夏と冬、朝と昼、晴れと雨 等によって色の見え方が違ってきます。
この光の違いというのは印刷物の色を管理するのに非常に重要な事であり、仮に大阪にある弊社が調色して合わせたインキを、東京の印刷会社で印刷すると色が異なって見えるという現象が起こる可能性もゼロではないという事です。こういう事にならないように、光源を合わせる必要がありますが、その光源は人間の目にとって理想的な太陽光に近い方が良いとされています。
昔は色を見る場所として、北側の窓から間接太陽光が当たる場所が良いとされてきましたが、現在は条件を一定にする為、色を見るのに最適な光源(色評価用蛍光灯)を使用するのが普通になっています。
つまり、色を見る時、光はとても大事なのです。
従って、薄暗い照明や逆に明るすぎる照明、間接照明、わざと赤・青・白等のライトを使用しているお店で購入された場合、太陽光の下などでは色が違って見える事があります。
あと、光以外に色が異なって見える要因として、脳の影響があります。
日本人に虹は何色あるか聞くと、大抵の人は7色(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)と答えると思いますが、アメリカの人達は6色(赤・橙・黄・緑・青・紫 ⇒藍がない)と答えるそうです。また、アフリカの一部の狩猟民族の人達に聞くと2色(赤・黒)と答える等という話もあります。この違いはどこから来ているのでしょうか?
色を見る仕組み自体は若干の個人差はありますが、人間はほとんど同じと言われています。
ではなぜこれほど違うのでしょう。
日本人は昔から色に対して非常に敏感で、同じ赤でも少しの違いで呼び方を変えたりしていました(赤系の色でも紅・朱・丹・緋・茜など)。また昔から虹は7色だという教えが刷り込まれており、実際は6色にしか見えなくても、脳が7色目を作り出しているとも言われています。
逆にアフリカの一部の狩猟民族は、狩猟の際に必要なものは獲物のシルエットがどう見えるかである為、色よりも物体の濃淡を重視しており、色は特に不要だと思っているそうです。従って、色という概念は不要であり、色が違うと分かっているがどう表現して良いかわからず、明るい色をすべて赤、暗い色を黒と呼んでいると考えられているとの説もあります。色の見え方も言語と同じで、ニワトリの鳴き声を日本人は『コケコッコー』と聞こえますが、アメリカでは『クックドゥードゥルドゥー』と聞こえるように、文化によって同じ色でも違って見える(脳が学習して判断している)事があります。
また、周りの温度が色の嗜好に影響を与える事も知られており、暖かい南国等では原色の明るい色合いが好まれるのに対して、雪深い寒冷地では物静かな色合いが好まれます。極寒の冬の北海道で黄やピンクなどのカラフルな色使いをしたお土産が置いてあっても本来は不思議ではありませんが、周りが寒いと脳が勝手に物静かな色を好み、原色にどこか違和感を覚えたりするそうです。
このように色は周りの環境によって大きく影響を受けます。
以上のように、色を見る(見分ける)という事は非常に難しいですが、我々インキメーカーの技術者は色を見ることを職業としており、僅かな色の違いに対しても他の人より敏感である自負は持っています。ただ、このような我々であっても体調によっては色が見にくい場合があり、休日明けの月曜日や、更に細かく言えば毎朝一番は色が見えにくいといった事が言えます。(色を見る職業に就かれている皆さんは賛同して頂けると思いますが・・・)。
それほど色を見るという事は、深くて難しい事なのです。
次回は色の再現について書かせて頂きます。