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森カズオ
文字のある風景⑳
『選挙ポスター掲示板』~街角のアジテーション~

私が住んでいるのは、京都市の隣にある人口9万人弱の地方都市である。10年ほど前は、15万人都市をめざして人口を増加させていたのだが、ここ数年は人口減少に転落して過疎化が進んでいる。特に山間部において、この傾向は顕著になっている。限界集落化している地域もあると聞いている。その一方で、日本三大川下りのひとつ保津川下りと保津峡の景観が楽しめる嵯峨野トロッコ列車、かつてタイガースの掛布選手が自主トレを行った湯ノ花温泉という三大観光があり、けっこうインバウンドの人たちがやってくる観光都市でもある。そんなわけで、人口減少問題に苛まれながらも、深刻に問題視することなく、なんとなくお気軽にやっている…それがいいところでもあり、悪いところでもある。でも、私が45年以上住んでいる“ふるさと”なのだ。

そんなふるさとで、今、市会議員選挙戦が行われている。2019年1月20日告示、1月27日投開票となっている。まち中いたるところに候補者の選挙ポスター掲示板が立ち並んで、選挙の雰囲気を盛り立てている。縦1.5メートル、横幅4メートルほどの大きさだ。いやが上にも目に留まる。まちの老人が掲示板の前に立って、首を上下に動かしながら、候補者たちの品定めをしている姿をよく見かける。

彼らが吟味している選挙ポスターは、たいていが大きな顔写真と手短なメッセージと大きな文字で表記された名前で構成されている。最近は、マーケティング手法が浸透したのか、それぞれの候補者がテーマカラーのようなものを決めてイメージ戦略を繰り広げている。いろいろ工夫をしているのだけれど、やはりピンク系やイエロー系が目立っているように感じられる。でも、最終的に大切なのは、やはり「名前」だ。けっきょく、投票所で自分の名前を書いてもらわないと候補者に当選は転がり込んで来ない。いかに、自分の名前に好感を持ってもらって、投票用紙に書いてもらうか、が勝負なのだ。だから、遠目に掲示板を眺めると、名前という文字が踊っているようにも見える。

たった一週間だけの存在…選挙ポスター掲示板は、まちの風景にとっては“短命のあだ花”である。そこに込められた候補者たちの想いは、アジテーションとなって、まちに、ひとに、突き刺さる。「あなたたち市民は、ほんとうにこのまちのことを考えているんですか?」と。まちの風景になにかしらのノイズを与えて。そして、投票日には候補者に当落という結論を突き付ける。今は、きらびやかに咲く花は、開票日の翌日、“つわものどもの夢のあと”となる。

静かに、音にならない祇園精舎の鐘の音に、耳を傾けておこうと思う。

名前という文字が踊る選挙ポスター掲示板 | 文字のある風景 『 選挙ポスター掲示板 』~街角のアジテーション~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

名前という文字が踊る選挙ポスター掲示板

候補者たちのアジテーションに見入るまちのシニア | 文字のある風景 『 選挙ポスター掲示板 』~街角のアジテーション~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

候補者たちのアジテーションに見入るまちのシニア

名前という文字が踊る選挙ポスター掲示板 | 文字のある風景 『 選挙ポスター掲示板 』~街角のアジテーション~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

名前という文字が踊る選挙ポスター掲示板

候補者たちのアジテーションに見入るまちのシニア | 文字のある風景 『 選挙ポスター掲示板 』~街角のアジテーション~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

候補者たちのアジテーションに見入るまちのシニア