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森カズオ
文字のある風景⑦
『道頓堀』~サインがつくるまちの匂い~

 夷橋を望む道頓堀川の夜景 - 文字のある風景⑦ 『道頓堀』~サインがつくるまちの匂い~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

夷橋を望む道頓堀川の夜景

♪赤い灯青い灯 道頓堀の 川面にあつまる恋の灯に なんでカフェーが 忘らりょか…

これは、昭和3(1928)年にニットーレコードから発売され、大ヒットした『道頓堀行進曲』の歌詞。日比繁治郎の作詞、塩尻精八の作曲で、浅草オペラなどで活躍していた内海一郎が歌った。古き良き時代の道頓堀を歌った曲として、今も多くの大阪人に愛されているジャズの匂い漂う名曲である。
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大正12(1923)年9月1日午前11時58分にマグニチュード8の大地震が関東地方を襲った。いわゆる「関東大震災」である。190万人が被災し、10万5千人が死亡あるいは行方不明となる未曾有の大災害となった。この大災害の発生をきっかけに関東に住んでいた多くの文化人たちが関西に移住する事態が起こった。有名な所では谷崎潤一郎が知られている。谷崎と時期を同じくして、多くの音楽家たちも関西に移った。皮肉なことであるが、この移住が大阪に一大ジャズブームを巻き起こすこととなる。その流れの中、服部良一などの音楽家が輩出されていくのである。当時、花盛りだったカフェーでは夜な夜なジャズバンドが演奏を繰り広げ、まちはたいそう賑わっていたと伝えられている。

昭和初期の道頓堀(昭和4年に宗右衛門町側から撮影)日本湖写真データベースより - 文字のある風景⑦ 『道頓堀』~サインがつくるまちの匂い~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

昭和初期の道頓堀(昭和4年に宗右衛門町側から撮影)日本湖写真データベースより

『道頓堀行進曲』のヒットから90年ほどの歳月が流れ、カフェーや映画館は姿を消し、界隈の様相はすっかり様変わりした。今では、一大飲食店街として人気を博すとともに、道頓堀グリコサイン、かに道楽本店、づぼらや、中座くいだおれビル、金龍ラーメン、なんば道頓堀ホテルなど、多種多様な看板がまちを飾りたてている。

訪れる人たちも変わってきたようだ。昨年、関西国際空港に外国人旅行客は700万人を超えた。そのほとんどが、中国、台湾、韓国などアジア諸国からの来訪者である。彼らの多くが、まずなんばにやって来る。そして、道頓堀を訪れるのである。道頓堀を歩いてみると分かるが、ほとんど日本語を聞くことがない。中国語あるいは韓国語が氾濫している。今や、道頓堀は国際化しているのである。

アジアからの来訪者の多くが「道頓堀が好き」と感じていると聞く。なぜ、好きになるのだろうか?思うにまちの匂いではないかと考えている。赤、黄、青、緑…原色を多用した派手な看板の数々。それが、夜になると電飾で輝きはじめる。ホンコン、台北、バンコク…アジアの都市を訪問した方なら想像できると思うが、アジアのまちは、さまざまな看板で彩られている。同じ匂いが道頓堀界隈には漂っている。まちを飾る看板には、文字が掲げられている。文字のデザインと色使いが独特のまちの匂いを生み出しているのだと思う。これは、アジアの人たちに潜在している意識が漏れ出しているのかもしれない。

色とりどりの看板も賑やかな道頓堀 - 文字のある風景⑦ 『道頓堀』~サインがつくるまちの匂い~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

色とりどりの看板も賑やかな道頓堀

紀元前17世紀から11世紀にあった殷において占いの一種である卜(ぼく)の結果を書き込むための使用された甲骨文字が起源とされる漢字。以来、4千年近くにわたって、アジアの文化を支えてきた。わが日本でも、漢字を基にしてカタカナやひらがなが考案され、今も文化的基盤として多用されている。まちを飾る看板は、それら文化の集大成といってもいいのではないだろうか。

ある方面からは「猥雑だ」とか「品がない」と揶揄されるアジア風看板であるが、そこにはアジア人の底部に流れている生命力や快活さが表されていると感じている。このパワーこそがアジアの底力の表出なのである。だから、日本人を含め、アジアの人たちが道頓堀を訪れると「元気が出る」のだろう。

赤い灯青い灯…この混沌としながらも活気にあふれたまちの匂いを大切に護り続けていきたいものである。

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夷橋を望む道頓堀川の夜景

昭和初期の道頓堀(昭和4年に宗右衛門町側から撮影)日本湖写真データベースより - 文字のある風景⑦ 『道頓堀』~サインがつくるまちの匂い~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

昭和初期の道頓堀(昭和4年に宗右衛門町側から撮影)日本湖写真データベースより

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色とりどりの看板も賑やかな道頓堀