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図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]54
ご存知ですか?―「羊皮紙」について―

このほど(2021年3月10日発行)『羊皮紙のすべて』という本が青土社から出版されました。著者は八木健治氏です。508ページ、カラー図版16ページ、本文中には豊富な写真が掲載されています。菊版よりひとまわり小さいですが、厚さ4㎝の分厚い本です。

「基礎編」で“羊皮紙とは何か”から始めて歴史、作り方、特徴などを、「実践編」で“実際に羊皮紙を使うためのコツや注意点”で構成されています。製作から使用方法、保管方法、化学分析等々に至るまで、書名通り、そのすべてが記されています。

羊皮紙については、西洋の古い書物に関心のある人なら他にヴェラム、パーチメントなどの名称で耳にしたことがあるかも知れません。乳白色で半透明な、プラスティックのような張りのある動物の革の一種です。中世ヨーロッパでは紙が一般に普及するまで、書物の表紙や、本文を書写する材料として使われていました。

しかし、現在の日本で現物を手にすることは、珍しいのではないでしょうか。
八木氏は奈良の書物研究会さんで2016年には「羊皮紙の魅力」を紹介する講座を開催され、参加した私たちWSのメンバーから配布された資料を見せてもらい、ご自宅の浴室で羊皮紙製作までなさる徹底ぶりに驚きました。日本では手に入りにくい羊皮紙の販売までなさっていることも知りました。羊皮紙について何かを知りたいときにネット検索をすると必ず八木さんのサイトにヒットする。いや、八木さんのサイトしかヒットしない。と評判でした。

この大部な本を詳しくご紹介することは難しいので図書館などで手に取っていただきたいのですが、カリグラフィーやルリュールをなさる方などは読みふけってしまわれるのではないでしょうか。

私の住む滋賀県大津市近隣では滋賀県立図書館、京都市図書館で所蔵しています。他の地域でも県立や市立の中央図書館には入っているのではないでしょうか。

ところで、私事になってしまいます。日本も筆者自身もバブル期だった1990年代、ルリュールを習い始め、師匠の母校ベルギーの国立ラ・カンブル高等工芸学校に見学に行ったり、ブリュッセルのお店で革や道具を購入したりしたことがありました。その折、羊皮紙も手に入れました。ルリュール用の革は日本では手に入りにくかったのですが、特に羊皮紙は目新しく、美しく染色されたモロッコ革などと比べると安価でした。

ルリュールに使用されている著名な例としてはウィリアム・モリスのケルムスコット版リンプヴェラム装があり、また寿岳文章は向日庵本“『テオの手紙』の特装本にイタリアの犢皮紙と日本の豚皮を使ってみた”と「自装本回顧」で記しています。

筆者自身の拙い作品で恥ずかしいのですが、10年以上も前、ルリュールのフォーラム展覧会の課題図書、リルケの詩集をリンプヴェラム装で出品しました。その時、折り曲げ加減、カットするときの感覚などを経験することができました。手触りがザラッとしていること、少し湿らせると折り曲げ易いことなども感じられました。

また下地からの透け具合を試してみたものは寿岳文章著『日本の紙』の表紙平にウィリアム・モリスのプリントで裏打ちしたものがあります(写真1)。

(写真1) | ご存知ですか?―「羊皮紙」について― - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)日本の紙

それまで、ルリュールの師匠の作風を倣って、作品に和紙を使うことがありました。羊皮紙を使ってみたこの時、何となく、和紙に使い勝手が似ている、と思いました。

しかし、羊皮紙を本の表紙に使った場合、反り返ってしまうので、古来からリンプヴェラム装は必ず前小口をリボンで結んであります。それらの条件から写真のような装丁になりました(写真2)。リボンの代わりに帯締めを使いました。

(写真2) | ご存知ですか?―「羊皮紙」について― - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)リンプベラム装

この時の経験をワークショップ番外編のメンバーにも体験して欲しいと、先日文庫本サイズのブックカバーを製作しました。リボンを通す工程を残すのみになっています。コロナ禍が明けたら、完成作品をご紹介します。

羊皮紙に和紙に似た感じを持っていましたので、その後、今度は和紙の代わりに羊皮紙に百人一首の和歌を書いてみました(写真3)。カリグラフィーのペンを使ってインクで書きました。意外にインクの乗りが良く、ペンが引っかかることもありません。中世ヨーロッパで写本の書写材料として使われた実績に納得しました。本文材料としても、それほど抵抗なく、二つ折りにできます。

(写真3) | ご存知ですか?―「羊皮紙」について― - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)百人一首

また、間違って書いてしまった部分は削り取って訂正することも簡単です。この点でも分厚い和紙なら、簡単ではありませんが可能ではあります。

筆者のわずかな経験からですが、羊皮紙と和紙は大いに似ているのではないでしょうか?

遠く離れた土地で人間たちが何百年にも渡って使ってきた、書くための材料、読むための媒体がこれほど似た点があること、反面、製造材料、製造過程が動物性、植物性の違いを始めとして、大いに異なる点もあることに、人の営みの面白さを感じます。

 

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M.T.

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(写真1)日本の紙

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(写真2)リンプベラム装

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(写真3)百人一首