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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]67
新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録

写真9 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

2019年の9月から始まった資料保存ワークショップ「番外編」
ブラデルという製本様式を各々が選んだ本の改装によって学んでいます。
かたや、大学内の活動はコロナ禍で休会のまま。
製本は学んでいますが、本来の目的である本の修理をする機会がない状態が続いていたのですが、古い大きな画集の修理の依頼が飛び込んできました!
大学でもここまでの大きな図書、しかも綴じ直しを要する様なものは手にする機会がなかったことから、さてどうしたものか、と不安を感じながらも修理ができる機会、うれしたのしです。
そんなことで、私たちの実験的な修理を実践から学ぶ。
「番外編」とは別日程で「修理の日」が6月4日(土)から始動しました。

図書館員による実験的本の修理の記録をしばらくご紹介することになりそうです。

写真9 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

■ 実際の修理作業に入る前にすること

① 修理対象の本の各部、破損箇所と状態の確認

破損が広がらないようにそっと、本を開いたり、立ててみたり、本文の開き具合、背のゆるみ、喉の開き、見開きと表紙の接着面など確認します。

② 全体~破損部分まで、本を多方向から写真撮影

・平に置いた状態
・開いた状態
・立てた状態
・破損部分の接写

本の写真って結構難しいものです。
アトリエのテーブルは木の色と木目が強く、テーブルに置いたまま撮影すると本の色もテーブルと同系の生成色のため、細部が分かりにくいと感じました。
そこで模造紙を下に敷いてみました。黒い布や紙だとさらに分かりやすいかもしれません。

③ カルテに本の情報を記録する。

本の修理は、本の治療!
before/afterの記録をきちんととることで、次に修理することになった場合や、以降の修理の参考にもなります。
資料保存ワークショップで以前作成してみたオリジナルのカルテを使います。

カルテの記録項目
・担当者
・開始日
・完成日
・タイトル
・著者
・出版社・出版年
・サイズ
・ページ数
・クリーニング開始日・終了日
・修理日履歴
・傷みの様子
・修理手当
・備考

図書館現場で作成する際は、
・所属部局
・資料ID
・請求記号
の項目も必要かもしれません。

カルテの話は以前のWEB MAGAZINEでも触れています。
[図書館に修復室をツクろう!]㉛
「カルテ」、そして本の「保存」と「読めるように伝える」

今回使用のカルテは大学でのワークショップ仕様なので、少々項目を手元で手書き修正しながら使用し始めました。
専用のものをきちんと作る必要がありますね。

④ 修理の希望条件を持ち主に確認する。

どの程度の修理を望まれるか?
「元の状態を維持するのか。」
「状態が変わってもよいのでとにかく丈夫に。読みやすく。」など
今回の依頼者は、元の状態をなるべく維持。大掛かりな改装は不要とのこと。

⑤ 修理方法を検討

破損箇所を一つずつ確認しながら、オリジナルの修理方法を検討してゆきます。

1971年のコピーライトのあるスペインの画集。(写真1)

写真1 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)修理依頼を受けた図書

「 Clavé
Pierre Seghers
(Bibliothèque d’art hispanique)
Éditions Poligrafa, c1971 」
NII書誌ID(NCID):BA26233085

破損の状態は、
表紙の生成りクロスは全体的に焼けとカビのようなシミが散見されます。
背から本文が外れています。(写真2)
綴じ糸はところどころ切れています。
本文はアート紙の様で、つるっと光沢のある厚みも重みのある紙。
本の重みに耐えられなくなって背から外れたよくあるパターンです。
それにしても本文の重さに対して綴じ糸が細すぎる印象です!
表紙裏の糊がしっかりついていることで見返しと、そこについた1ページ目はしっかり付いたままです。(写真3)
修理方法をみんなで考えました。
現状あるパーツはどこまで使えるか?
表紙のクロスは汚れているが、表紙・背表紙のボードはしっかりしているので、可能な限り汚れを落として、このまま利用する方向に。
背から外れた本文は、裏表紙側は見返しののどとの接着部分のみでかろうじて繋がっていましたが、これは外し、完全に表紙と本文を分離させました。(写真4〜6)
綴じ糸はこれでは細すぎるので、使われているものより少し太めの糸に変えて綴じ直すことに。

写真2 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)破損部分 その1

写真3 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)破損部分 その2

写真4 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)見返しの様子

写真5 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)見返しから本文を外します

写真6 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)表紙から本文を外しました

写真1 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)修理依頼を受けた図書

写真2 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)破損部分 その1

写真3 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)破損部分 その2

写真4 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)見返しの様子

写真5 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)見返しから本文を外します

写真6 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)表紙から本文を外しました

■ クリーニング

① 表紙から外した本文をクリーニング。

クリーニングとは、本文についた余計な埃や汚れ、カビを刷毛やふきん、お掃除手袋などでやさしく拭き取り除く作業です。(写真7)
私たち資料保存WSでは、お掃除用のフリース生地でできた手袋を使います。(写真8)
本文を丁寧に隅々まで手でなでて汚れを拭き取ります。
手袋は手の形なので、細かな部分も拭くことが出来、使った後は手にはめたまま中性洗剤で手を洗うように洗って干して繰り返し使えます。

写真7 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)クリーニングの様子

写真8 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)クリーニング用のお掃除手袋

② 綴じ糸を外す。

カッターやハサミ、ピンセットを使って全てのページから糸を外します。
綴じ穴の周辺を再び刷毛などで糸くずなどを払います。

今回は捨ててしまいましたが、後々修理の変遷が分かるように外した糸を封筒に入れて保管して置くこともあります。
糸の他には、挟みものなんかもあれば同様に。

初回の「修理の日」の作業はここまでです(写真9)。
次回の作業は、表紙の汚れ落としになるでしょうか。

写真9 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)カルテと付属品と付属品保管用封筒と修理図書

資料保存WS
小梅

写真7 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)クリーニングの様子

写真8 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)クリーニング用のお掃除手袋

写真9 | 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)カルテと付属品と付属品保管用封筒と修理図書