京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㉛
「カルテ」、そして本の「保存」と「読めるように伝える」
先月号で小梅さんが「カルテ」のことに触れていました。そこでも書かれているように最近ようやく、私たちのワークショップでも修理実績が出来てきました。そして「カルテ」をつける必要を実感しています。
修理の実績が上がってきたのは、ある図書室が私たちに大事な所蔵本の修理を一部任せてくれるようになったからです。修理済の本は保管されている書棚に戻されます。何十万冊もの本たちの中に、その本のあるべき場所に帰って行きます。
なので、ワークショップで修理された一冊一冊の修理記録が無いと、まず、修理済の本を再度見つけることができません。ほとんど不可能です。
さらに、どの本を治したのか、その本はどのような壊れ方をしていたのか、どのような治療を何を使って修理したのか、誰が、何時修理を施したのかの記録も必要になって来ます。何故か?私たちのワークショップで施した治療よりも、もっと本格的に専門家にお願いする場合、また「あ!この前これと似たような壊れ方をしている本を治したワ」で、以前直した本を取り出して参考にする場合などがあります。
もっと実務的な例では、製本の業者さんに発注した場合、図書館からの要望通りに修理し、納品されたかの記録になります。
今まで、ワークショップでは、ただただ目の前に出された本をどのように修理したら、また図書館で借りてもらえる、読んでもらえる本によみがえるかしか考えて来ませんでした。でも、このWEB MAGAZINEを読んでくださって修理についての問い合わせなども大学外からたびたびいただくようになってきました。それにお応えして行くためにも修理の記録「カルテ」をつけることを始めました。
「カルテ」には、これまで本の修理、修復に関する文献に載っているもの、本の修復家の方たちが使っているものなどがあります。これらを参考に私たちが使いやすいものを作ろうと、ただいま模索中です。
西洋の本の貴重な図書を多く所蔵し、それを扱う専門の研究者や図書館員の養成にも代表格の一橋大学西洋社会科学古典資料センター修復工房などでは非常に詳しい記録をカルテにつけています。が、私たちのは、簡単に書き易くしないと、書くのが面倒になってしまいます。
一橋大学のカルテではありませんが、国立国会図書館が使用していて、日本図書館協会の出版している『防ぐ技術・治す技術』という本に掲載されているものも沢山の項目をチェックしなければなりません。「治す」時は「治す」以前の壊れた状態を詳しく記録しておきます。
また、このほど、5月末日まで一橋大学が音頭をとって「西洋貴重書保存インデックス」という調査が全国の大学図書館向けにおこなわれました。この趣旨は「西洋貴重書収蔵館の保存管理に関する自己点検・自己評価を手助けするため、指標(インデックス)を作成しました。」というものです。上のリンクをはったところを参照していただければ西洋の本の特に古い出版のものの「保存管理」の文字通り指標を見ていただけます。国会図書館では西洋貴重書とは出版された年でいえば1830年以前という決まりになっています。
日本では江戸時代末期でひそかに密輸されていた洋書がこれにあたります。 明治維新から151年後の今日、その当時、怒涛の様に輸入された洋書の一冊一冊の読めるように保存することに目が向いてきたように思います。
図書館資料保存ワークショップ
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