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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑱
ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~

とても喜ばしいことに、このコラムをご覧になり、私たちのワークショップの活動に興味を持たれた学外の方から、見学のご希望を頂きました。

基本的には学内向けの活動なのですが、志同じくされる方とあれば!ぜひとも!
私たちも学外の方との交流はとても刺激と学びになります。

今回のお客様は、関西フィルハーモニー管弦楽団の楽譜を管理されているライブラリアンの河野さん。
私たちは大学図書館員ですが、文化芸術に関わる分野の方にはやはり心惹かれます。
オーケストラにもライブラリアンさんがおられるということも、恥ずかしながら意識の及ばない範囲のことだったこともあり、所蔵するものの違い(大学図書館の図書とオーケストラ所蔵の楽譜)にも興味がありました。
ご見学の日、お持ち頂いた楽譜にまずメンバー一同驚いたのは、書き込みの多さ、そして、本文紙小口下角部分の集中的な劣化、破損。(写真1)
長年オーケストラの練習や本番で繰り返されるページめくりに耐えてきた姿です。
手垢はもちろんですが、紙は薄くなり、折れもあったり、破れかけているところも。
数々の演奏風景が目に浮かぶようです。
それだけにこの箇所はとても大事です。もし、コンサート本番中、ページめくりの際ちぎれたり、めくれそびれたりなんかしたら…考えただけで背筋が寒~くなりました。
そのような状況でも耐えうる修理が必要とのこと。よくよく理解できますね。

(写真1) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)

私たち大学図書館所蔵資料の場合、ページの破れはそのように一部分に特異に出るものではありませんし、書き込みについては、鉛筆書きであれば消しゴムで、とにかく消す。
本は利用者みんなのものという考えの元、名誉ある教授や著名な方からの寄贈本や書き込み部分も含んでの貴重書とされる以外の書き込みは、原則出来る限り消します。

ご用意した活版印刷研究所で販売の修理用和紙セットを使用し、小口下角の破れやのどの部分の破れの補修の実践を試していただきました。

  1. 補修したい部分に合わせたサイズに和紙をカット、和紙はケバ(くい裂き)が重要なので、水で濡らした刷毛で和紙をなぞってちぎります。(写真2、3、4)
  2. パラフィン加工した紙、もしくはオーブンペーパーの上に1.のカットした和紙を置き、水で適度に薄めたフエキ糊を刷毛で和紙に塗ります。薄めに!素早く!(写真5)
  3. 補修したい部分に2.をシワにならないようにそっと置き、上からきれいなパラフィン紙のツルツルした面を和紙側にして置く。その上からヘラでこすり、なじませる。
  4. そっとパラフィン紙を剥がして、和紙全体と破損部分に糊が馴染んだのを確認したら、再度きれいなパラフィン紙をツルツル面を和紙側にして置き、上から平かな重しをして乾くのを待ちます。(製本用プレスがあればいいのですが、なければ金属製や木製などの平らなプレートを置き、その上から重みのある本などを重ねて置くことでも十分です。)
  5. 一晩置いたら重しを外して確認してください。のどの部分ならパラフィン紙を当てた上から定規などでそっと折り目をつけて元の形態に戻します。

(写真2) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)

(写真4) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)

(写真5) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)

この 活版印刷研究所で販売の修理用和紙セット は、和紙の厚み3種類をセットにしていて、用途によって、また修理する箇所によって使い分けがしやすいのです。
例えば「最薄口」は、本文紙の文字の上など、破損部分の印刷を隠したくない場合や薄い紙でできた部分に。
「薄口」は、ちょうどいい厚み。万能選手です。「厚口」は表紙など、強度が必要な箇所へ。

河野さんはもともと手作業がお好きとあってヘラや刷毛の使い方などとてもお上手でした。
微妙な力加減などあります。
実践してみて感覚で得るというのも大事なことかと思っています。

この日はご見学でしたので、修理途中の楽譜は厳重にパラフィン紙を挟み、しっかりした台紙でサンドして、大きめのクリアファイルに入れ大切にお持ち帰り頂きました。

楽譜のサイズは、日本の紙の一般的な規格サイズと違い、A4とA3の間のような、でもB4でもないような大きさで、私たちの用意したA4サイズにカットされた和紙では足りない箇所もあり(写真6)、サイズ展開の必要性も感じました。

(写真6) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)

環境や対象の違いこそあるけれど、修理対象資料は山のようにある、だけど修理する人手も、その時間も、そして、道具も十分でない、という環境はどこも同じなのだなぁ、と改めて感じました。
それまでなんとなく思っていたけど、同じ思いでおられる方と情報や意見の交換をし合い、劣化資料を協力して直していけるような環境づくりができればいいなぁ、と個人的に思ったある日のワークショップでした。

京都大学図書館資料保存WS
小梅

(写真1) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真2) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真3) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真4) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真5) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真6) | ワークショップに見学者あり~直したい!その同じ思い~ - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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