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図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑥
ルリユールという仕事

ルリユールという仕事 - 図書館資料保存ワークショップ

ルリユールというものをご存知でしょうか。
ルリユールはフランス語で「製本」を意味する言葉です。
私自身は、以前のコラム(図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]③ 2017/03/15)でご紹介した『西洋の書物工房』(貴田庄著.朝日新聞出版,2014.2 ISBN:9784022630148)を読んで、初めてこの言葉を知りました。

ルリユールはフランス語だと言いましたが、「ヨーロッパの製本術の正しい伝統が、今日、主としてフランス(ないしフランス語圏)においてのみ受け継がれている」(松本真也「フランス工芸製本の技術と歴史」『早稲田大学図書館紀要 第28号』1987.12;p.p.1-37)そうです。フランスでは、小説や詩集などの文芸本は仮製本で売られ、購入した人が製本屋へ持って行き、自分好みの装丁を施してもらうという伝統が長い間続きました。

ルリユールという仕事 - 図書館資料保存ワークショップ

『西洋の書物工房』を読んでいて面白かったのは、フランスにおいて製本業が盛んになったのはなぜかという以下のような説明です。

グーテンベルグの印刷術が普及した16世紀には、出版はひとつの産業になり、ヨーロッパのほとんど全土に拡大しました。
一冊の本を作って販売するという過程で、印刷・製本・出版という職種が明確になっていくものの、彼らはひとつの共同体として働いていたため、出版業者が印刷業や製本業まで兼ねることが珍しくなかったようです。

それぞれの仕事の境界がはっきりしないため、業者間で揉め事が多く、17世紀になるとこの傾向がさらに強まったため、とうとう1686年、ルイ14世が「パリ市では出版と印刷の二業者と製本業者は互いの職分を超えてはならない」という勅命を出しました。
この結果フランスでは、印刷と出版業者は本を製本する権利を持たないことになり、書店では本格的に製本されない仮綴状態の本が売られることになったのです。

仮綴の本を購入した人は自分の気に入った製本工房へ本を持ち込んで、職人に製本を依頼します。
製本工房は、パリだと出版社や書店が多く並ぶカルチェ・ラタンに多いそうですが、注意深く歩くと、アパートの一室など、思いがけない場所で製本の工房を目にすることがあるようです。

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このように製本工房がたくさんあるパリですが、ルリユールの職人として暮らしていくのは決して楽なことではないようです。

以下は西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻の研究旅行で、パリでルリユールとして働く女性にインタビューを行った学生さんの報告です。

「現在のパリでルリユールとしての仕事のみで生計をたてるのは不可能に近い。彼女(ルリユールの仕事をする女性)自身、月火木は専門学校の講師として働き、工房の中でルリユールと名乗れるのは週に2日、水曜日と金曜日だけなのだ。こうして2つの仕事を掛け持ちしても、生活は決して楽ではないと言う。それでもソフィーさん(ルリユールの仕事をする女性)が人生に満足しているのは、彼女の言う通り、彼女自身の好きなことをして食べているからなのだろう。」
川邉 季織.物質としての書物 ~フランスにおけるルリユール文化~.
西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻の研究旅行.
(2017/4/22)

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私たちのワークショップでは、製本の仕組みを理解するために、古本をいったんバラして、製本し直すという取り組みを始めました。
ルリユールを体験しようという試みです。
装丁も全て自分で作るので、完成すれば世界に一つしかないオリジナルの本ができあがります。

そんな風に自分で作った本だと愛情もひとしおで、とても大切なものになるだろうと、今から完成を楽しみにしています。

図書館資料保存WS
N.K.

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