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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]③
「本」の成り立ち、学んでいます
~『西洋の書物工房』読書会~

「本」の成り立ち、学んでいます~『西洋の書物工房』読書会~

今回は私たちのワークショップで2014年から月1回ペースで実施している、『西洋の書物工房』(貴田庄著. — 朝日新聞出版 , 2014.2 ISBN:9784022630148)の読書会についてご紹介します。

さて突然ですが、
「本の花切れはどうやって作るんですか?」
「本の綴じ方の違いってどういう意味があるんでしょう?」
こんな質問をぶつけられて皆さんは自信を持って何か答えられるでしょうか?
「いきなりそんなことを聞かれても考えたこともない」と思うのが普通ですよね。

では、同じ質問を図書館の人にしてみるとどうでしょう?

統計をとったりしたわけではありませんが、「そんなことを聞かれても考えたこともない」と思ってしまう人の割合、実は図書館の人でもそう変わらないのではないかと思います。

「図書館の人って本の専門家のはずでしょう?どうしてそんなことも知らないの?」と思われてしまったでしょうか。無理もありません。私たちはまさにそんな風に思ってしまったからこそ、この読書会を始めたのですから。

電子書籍もたくさん出版されてきてはいますが、図書館の主役はまだまだ紙の本です。私たち図書館員にとっても紙の本は最も身近な言わば商売道具です。とはいえ、図書館の本は本屋さんで購入したり、外部の方から寄贈されたりと経路はいくつかありますが、完全な本の形で初めて入ってきますから、本の形になる前のことというのは図書館員にとっても実はほとんど馴染みのない世界なのです。

一方で、私たちの働く京都大学の図書館には和洋問わず「物として貴重な」古典籍が多数所蔵されています。自分の職場に(世界でただ一つしかないというレベルの)貴重な古典籍を抱えながら、「物としての本のことはよくわかりません」と言っていていいのでしょうか。『西洋の書物工房』の読書会はこんな背景から、本のルーツや歴史をワークショップの皆で学んでいきましょうという意識で始まりました。

なんだかここまですごく重い話をしている気もしますが、読書会は至って和やかで楽しい雰囲気です。読書会は2014年から概ね月に1回程度開催しており、輪番で担当者(各回の担当は1節~2節程度)を決めて行っています。担当者は担当部分にまつわる資料集め、レジュメ作り、そして朗読を行います。各回でどんな資料を集めてどんな内容にするかは担当者次第なので、この部分に個性が大きく現れて毎回飽きません。(担当するパートで取り上げられた参考資料をごっそり集めてみたり、関連ウェブサイトをまとめて紹介したり、関連する実物の資料や素材、材料を持ってきてみたり…)

読書会では大学図書館ならではの興味深い体験もありました。『西洋の書物工房』では「ケルムスコット・プレス」の本(19世紀のイギリスでウィリアム・モリスという芸術家によって出版された美しい装丁の本)について1章を割いて取り上げられています。「ケルムスコット・プレス」と言えば愛書家であれば誰もが知る貴重書の一つ。そんな「ケルムスコット・プレス」の本が「どうやら京都大学の図書館にあるようだ、しかも1冊ではなく何冊かある」ということが分かり、所蔵している図書館の協力を得て「(プチ)ケルムスコット・プレス鑑賞会」につながったこともありました。

活字や装丁に凝らしたモリスの工夫を『西洋の書物工房』の解説と共に、実物を見比べながら鑑賞するというなかなか贅沢な体験でした。同時に、自分の職場のごく身近なところに貴重書が存在し、後の時代へも伝えていけるように保存に関する知識をしっかりと身につけなくてはと決意を新たにする体験でもありました。

こんな華やかなイベントがしょっちゅうあるわけではありませんが、読書会の体験は毎回とても貴重です。『西洋の書物工房』自体、平易な語り口でありながら非常に濃い内容を扱っていてどの部分を読んでもそれだけでなにがしかの示唆を得られます。(少しでも本の歴史に興味のある方には必読書だと思います。本屋さんか図書館でぜひ手にとってください)

さらに読書会で各担当者から紹介される様々な資料がまた本当に楽しく興味をかきたてられます。上で触れた通り、毎回の読書会は1節か2節、ページ数にすると2ページから多くて4ページ進む程度なのですが、その1節か2節の文章から膨大な参考資料、ウェブサイト、実物の世界へとアクセスできるのです。

本の歴史の奥行きの深さを味わいながら楽しく本の知識を身につけていく。そんな読書会を今後も続けていきたいなと思っています。

京都大学図書館資料保存WS
R.M.

「本」の成り立ち、学んでいます~『西洋の書物工房』読書会~