アミリョウコ
アミーゴの国から印刷の話
Hola. Mucho gusto!
こんにちは、はじめまして。今月より活版印刷研究所にて執筆させていただくことになったアミリョウコです。
私は活版や印刷を仕事にしているわけではなく、全くの素人です。
そんな私がなぜ活版印刷研究所にやって来たかを、初回のコラムで書いてみたいと思います。
大阪生まれの兵庫県育ちで現在はメヒコ(スペイン語でメキシコは”メヒコ”と発音します。)のオアハカという町に暮らしています。
オアハカのこと
オアハカは、首都メキシコシティから飛行機で約1時間、バスで約6時間半南に下ったところにある小さな町です。
海外の雑貨などが好きな方はもしかするとその名前を聞いたことがあるかもしれませんが、郊外に小さな村が点在しており、そんなに離れていない距離間の各村で独自の手工芸が発達しています。
オアハカに暮らすきっかけになったのは見つかった仕事だったのですが、降り立った時のオアハカの第一印象は「カラフルでかわいい街だなぁ」ということでした。
暮らしていると旅行で訪れるのとは違った面が見えてきますが、次第にオアハカという町は版画が非常に盛んだということに気が付きました。
小学生の時に図工の授業でした木版画の他にも石版画や銅版画をしている人もいます。
町を歩けばいたるところにスタジオやギャラリーがあり、日本にいるよりもアートへ対する距離は近いと感じるので、暮らしていると次第に興味と親しみがわいてきます。
レタープレス/活版印刷をのぞいてみようと思ったきっかけ
また、メヒコのすぐ上の国アメリカを旅した時は、「レタープレス(活版印刷)」で刷られたグリーティングカードを本当にいたるところで見かけました。もしかするとブームなのかもしれませんが、「Thank you card」や誕生日祝いなどでカードを送る文化のあるアメリカではカードは日常的に売られているのを目にします。カードの種類の多さと印刷工房の多さには驚かされました。デザインも豊富で使われている紙にもこだわっているところが多く、カードを眺めてるだけでも、それぞれの作り手の気持ちが伝わってくるようで日本で一般的に売られているメッセージカードとは一味違うと感じます。
それらを見た後にふと「そういえばオアハカでレタープレスってあるのだろうか?」と疑問に思いましたが、注意して街を歩いたことがないことに気が付きました。そのアメリカ旅のあと、オアハカの街を「印刷屋さん」に注意しながら歩いていると、やはりあるではないですか。活版印刷をしているところが。
外からじいっと見ていると店のおじさんが私に気づいて、中に入っていいよと招き入れてくれました。しばらくは遠巻きに見ていたのですが、そのうちに印刷する様子を見せてもらい、機械の仕組みも教えてくれて、せっかく来たのだからといって私の名前を組んだ活字をプレゼントしてくれました。それは、私にとってはじめて活版印刷の機械とその印刷風景でした。
それが面白かったのもあって、今回日本に一時帰国するときはせっかくなので活版印刷の工房を訪れてみることをテーマにすることにしました。
ハワイのレタープレス工房 ”Jiwa Jiwa Press”
まずは、途中で寄ったハワイ。ハワイというと「常夏、ビーチ、自然」のイメージしかなかったので印刷と全く結びつかなかったのですが、偶然見つけたフリーマガジンでハワイ出身の女性がしているJiwa Jiwa Pressという小さな工房があるというのを見つけたので訪れてみることにしました。
Cherishという女性がオーナーで、ポートランドのアートスクールに通った後、ポートランドやシアトルなどの西海岸にある印刷工房で働いていたらしいのですが、何年か前に地元ハワイに戻ってきて自分の工房をハワイにて持つことにしたのだそうです。全く予想していなかった光景を目の前に、
「ハワイでレタープレスってなんか斬新!」
と思ったことを率直に述べると、「そうだね」と笑っていました。ハワイはアメリカ本土と違って島なので、紙やインクなどを仕入れるのも一苦労とのこと。確かに輸送費はかかるし、マテリアルを入手できる場所がそもそも少ないのでハワイはプリントスタジオをするのに最適とはいいがたいかもしれません。しかし、自分が生まれ育った土地に戻ってきて屋号にもなっている通り”ゆっくりと、でも確実に(Jiwa Jiwa)”自分のスタジオを育てていこうとする姿がとてもかっこよくて、
「私は自分のしていることが大好きなんだ」
と話していたのがものすごく印象的でした。そんな彼女の刷ったカードは美しくて、ますます活版印刷について知りたいと強く感じました。
日本にて
そうして日本に帰ってきて、とりあえず足を運べそうな範囲で探してみようと思い「活版印刷 関西」をキーワードに探しはじめました。オアハカの「版画」からスタートした興味が、「日本の活版」へのつながり、そして、この「活版研究所」のことを知ることになるのです。
「興味がある」というだけでたどり着いたにもかかわらず、いろいろな話を聞かせていただいているうちに、一言で「活版印刷」といっても国(あるいは場所)が変わればその立ち位置も異なるのかもしれない、もしかするとそこから文化や国民性なんかも見えてくるのかもしれないとわくわくしている自分がいるのでした。
オアハカに戻ったら今度はまた違う視点で街を見ることができそうで、今から楽しみな限りです。次回からは、オアハカの活版印刷所事情やオアハカの文化や風土について紹介していければと思います。
どうぞよろしくお願いします。