あみりょうこ
コチニージャをシルクスクリーンで刷りたい②、の巻き。
Julio(7月)
こんにちは。あみりょうこです。ひょんなご縁で寄稿させてもらうことになったコラムも今回でなんと30回です。おおお。と自分でもびっくりです。
コラムはまたまた先月の続きです。頭の中ではもうシルクスクリーンでコチニージャのインクが出来上がっているのに、現実にははそう簡単にはいきません。
前回つくったコチニージャの液は少し水っぽ過ぎたので、今度は粘度の高いものを作ることに挑戦しました。
2日目、画家のTさんはニコニコしながら大きな箱を抱えてやってきました。なんと、スーパーマーケットで、ミキサーを買ってきたのです。
考察と反省の中で、コチニージャの色を最大限に出すにはやっぱり、粉が小さいほうがいいのではないか、ということでコーヒーミルのようなもので粉々にするのが理想だと考えたのです。しかし、町中のコーヒー屋を回れどコーヒーミルが売っているところがありませんでした。
あるいは、あっても非常に高額で、それでインクをつくるための虫を砕くなんてとてもできないな、という感じだったのです。常々不思議に感じていたことの一つに、オアハカには、メヒコさんやオアハカさんのコーヒー豆が売っているのに、コーヒーを自分で入れるための道具を見つけるのが本当に一苦労なのです。ここ何年かでオアハカにカフェ自体が増えて来たり、そのカフェもサードウェーブ系のおしゃれなカフェだったりすることもあり、何年か前よりは手に入りやすくはなってきていると思うのですが、日本のコーヒーの器具コーナーなどと比べるとまだまだといった感じです。……話がそれました。
というわけで、ミルはあきらめ、ミキサー。逆にミキサーはメヒコではかなり使用頻度が高いので、どこにでも売っているという印象を受けます。
やはりフルーツが安くておいしいので、豪快に季節の果物を使ってジュースをつくったり、サルサをつくるときもミキサーが使われることがあります。
真新しいピッカピカのミキサーを箱から出して、組み立てます。ちょっとプラスチックのところのかみ合わせが甘いような、とか言いながら、早く実験したいので早々に、あらかじめ用意したコチニージャ汁を注ぎ込みます。(写真1)
豪快に一気にぐああああとまぜて、「濃い、いい!!」といいながら、液体をチェックすると、やはり砕かれたごみのようなものがあったので、インクをつくるには不純物は取り除こう、ということになりました。(写真2)
プラスチックのかみ合わせが悪いのは気のせいではなく、やはり、そこから真っ赤な液体が漏れてきました。嗚呼。
コーヒーのドリップをするためのフィルターを使ってみると、目が細かすぎて全然ろ過できなかったので、シルクスクリーンのスクリーン用の網を使うことにしました。(写真3)
90メッシュという単位のもので、シルクスクリーンを刷るときには布などに適しているという目の大きさです。
漉すと、ものすごくきれいな液体が出来上がり、ここまでは実験1日目の反省が生かされていて非常にいい感じです。
メディウム(バインダーともいうみたいです。)も、シルクスクリーンや油彩などインクを専門に扱う画材屋さんで仕入れたものを使ってみることにしました。(写真4)
一気見混ぜ合わせます。(写真5)
すると、しばらくするとバインダーと濃いコチニージャ液が混ざり合ってなめらかな液体が出来上がりました。(写真6)
左のものが1日目に作った水分を飛ばしまくったもの、右側が2日目に作った濃い液体をバインダーに混ぜて作ったもの。(写真7)
写真からはあまり伝わらないかもしれませんが、インクを持ち上げた時のとろみが2日目に着くたものの方が強くてよりシルクスクリーンのインクに近い感じでした。
わくわくしながらインクを紗に載せると、おおお!!これは、いい感じかもしれない!という出来です。(写真8)
刷った結果はこんな感じになりました(写真9)。もっと濃ゆい色がばばーんと出ると思ったら、なんとも優しい色で、ちょっと拍子抜けです。
ちなみに、1、3……という数字は、スキージーでインクを塗り重ねた回数です。
回数を増やしていくごとに、層が厚くなっているのですが、そのたびにインクの色も濃くなっているのがわかります。
喜んで刷っていたのもつかの間、乳剤があっという間にダメージを受けてしまいました(写真10)。
オアハカでは、まだまだシルクスクリーンはオイルベースインク(油性)が主流です。本来であれば、水性インク用の水に強いタイプの乳剤を使わなければならなかったのですが、実験だし数枚刷るだけだから、と思い油性インク用の乳剤を使った結果、こういうことになりました。
こちらは、並行して作っていたもの(写真11)。天日干しをしてさらに水分を飛ばしました。テクスチャーだけで言うと軟膏くらいの堅さです。
それをあのスーパー画材屋で買ったメディウムにまぜてインクをつくりました(写真12)。色がオレンジがかっているのは、ライム(酸性)を入れたからです。
ワークショップで見た時は、もっと鮮やかなオレンジだったので、本来つくりたかった色とはまだ差があります。
でもせっかくこんなにインクをつくったので何か試作品を作ってみることに。
メヒコには、マンタと呼ばれるコットンの布があります。シンプルな生成の色なのでかわいいです。ウイピルと呼ばれる巻頭衣をつくるのにもよく使われます。私はそれでよくトートバッグをつくっていたのですが、その作り置きをまずは色水で染めてみることに。
赤というよりは紫のような色に染まりました。(写真13)
シルクスクリーンでの印刷も試みました(写真14)。濃い紫のような色は、最初に紹介した方で、茶色のような色は2つ目に紹介した色です。こちらも、もっと鮮やかなオレンジを期待したのですが、赤茶けた渋い色になっていました。
インクの量が足りなかったので、かすれたりしています。
こちらは、オレンジの汁で染めたものです(写真15)。色がじわじわと浸透していくのかと思いきや、液体が使ったところだけが鮮やかに染まり、あとは地の色が残っています。これだけ濃いと絞りとかしても面白いかも、とやったこともない技術に思いをはせるのでした。
シルクスクリーンをしながら気が付いたことは、水性インクの乾燥の速さです。
シルクスクリーンは、布の網目になったところにインクを通して印刷するという技術ですが、インクが乾燥するということは、目詰まりを起こしてしまうということなのです。目が詰まったところはインクが通り抜けることができず、印刷のカスレが生じてしまいます。(写真16)
実験なので1枚刷ってはどれどれと観察したかったのですが、そうこうしているうちにも乾燥してしまうので、とにかく刷れるうちに刷らないと!ということで、連打です。
そして乾いてきたところから印刷がかすれてくるので、力を込めて刷ると逆にインクがはみ出てぐちゃっとなったりで、その力の加減で乳剤が瀕死になったり、もうしっちゃかめっちゃかです。(心の中では、インクっぽいのできたー!!と喜んでいるのですが、作業している手元は乾燥との戦いで、ひぃいいいいとなっているのでした。)
スクリーンをきれいに洗い流した後、イメージがこのように洗い流せませんでした(写真17)。色素が定着した(ファンタズマという現象)というよりは、インクが固まってしまって目詰まりを起こしているという感じで、このままでは版の再生は不可です。
今回の場合は、メディウムがシルクスクリーン用ではなく普通の絵画用のものを使ったので乾燥が早く、また、乾燥した後はどうしようもないということになってしまいましたが、同じような工程で色を用意してシルクスクリーン用のバインダーを使ったらおそらくこのようなことになはならないのではないかと思います。
この実験を通して、一応当初の目的「コチニージャをシルクスクリーンで刷る!」というのは達成できましたが、課題はてんこ盛りなので、それは今後考えていけたらと思います。
オアハカ生活が終わりに近づいていた中で、いきなり受けることになったワークショップ、からのシルクスクリーンへの昇華につながるとは思いもしていませんでした。
印刷って、やっぱり面白いなぁ。
というのを改めて感じた体験でした。
3か月にまたがる謎の実験にお付き合いいただきありがとうございました!