生田信一(ファーインク)
ギャラリーを彩る「POLY」の正十二面体の立体オブジェクト、インビテーションカード
猪飼俊介さんは、ALBATORO DESIGN / PRINT + PLANTを主催、活版印刷や箔押し、デジタル印刷を駆使して、驚くような作品を次々に発表しているクリエイターさんです。
紹介したい作品やプロジェクトは多岐にわたるので、今回のコラムは連載形式でお届けします。まずは、竹尾 青山見本帖「STOCK MEMBERS GALLERY 2022」の展覧会の様子をお伝えします。この展覧会で披露された猪飼さんのグラフィックワークをお伝えできればと思います。
展覧会で発表された「POLY」の正十二面体オブジェクト、加えて同展覧会のインビテーションカードを紹介します。このカードには、猪飼さんがこれまで手掛けられてきた特殊活版印刷のさまざまな技法が盛り込まれています。
青山見本帖「STOCK MEMBERS GALLERY 2022」の展示
この展覧会は、2022年5月9日〜7月15日まで竹尾 青山見本帖で開催されました。期間中は、5回にわたって内容を入れ替えて多くのクリエイターの方の作品が展示されました。猪飼俊介さんは5回目の回で展示され、インビテーションカードの制作も担当されました。
猪飼さんの展示作品は「POLY」と名付けられた立体作品です。正12面体に組み立てられたファインペーパーの立体オブジェクトがギャラリーに展示されました。
「POLY」の作品を展示の解説から引用します。
──────────
POLY
面の大きさ、辺の長さ、内角の角度が全て等しく、全ての点が球に触れる「正多面体」はこの世で5種類しか存在しません。正4面体、正6面体(立方体)、正8面体、正12面体、正20面体、の5つです。
その中でも正12面体はよりよく特殊で、常に対面する面が並行となり、空中でどの角度に傾いても対称の美しさを保ち均整が取れています。
1度に6つの角度が見れる正12面体で、球の持つ立体的な表情をお楽しみください。
(クレジット)
印刷:ALBATORO DESIGN / PRINT + PLANT
加工:ALBATORO DESIGN / PRINT + PLANT
抜型:コンゴーテクノロジー株式会社
用紙:気包紙C-FC ミディアムラフ L判 Y目 295kg
カラープラン-FS ターコイズ 640 ×970mm T目 217kg
グムンドカラーマット-FS No.34 700×1000mm T目 210kg
グムンドカラーマット-FS No.35 700×1000mm T目 210kg
──────────
以下に、「POLY」の特徴や制作工程などを詳しく見ていきしましょう。
楽しいカラーバリエーション
「POLY」は正12面体の紙で作られた立体オブジェクト。シンプルな形ですが、さまざまな色で並べたり、天井から下げてディスプレすることで、インテリアのような佇まいを見せます。
配色はビビッドな色が選ばれていますが、これは「子供たちにも親しんでもらいたいから」と猪飼さんは話します(写真1)。
「POLY」同士をくっつける
「POLY」は、互いにくっつけて組み立てることができます(写真2)。仕掛けを竹尾のスタッフの方に尋ねたら、「POLY」の中に磁石が仕込まれていると教えてくれました。
元になっているのは1枚のファインペーパー
「POLY」の元になっているのは1枚のファインペーパーです(写真3、4)。この紙が台紙になり、ペーパークラフトのように組み立てると正12面体が出来上がります。台紙は、主要部分は既にカットされているので、簡単に抜き取ることができます。
組み立てしやすいように折り筋も入っています。さらに糊代部分もきれいに型抜きされています。組み立てる際にはここに両面テープを貼るとよいとのこと。組み立て方を解説した説明書もいただきました(写真5)。
このペーパークラフトのキットは、今後販売を考えているとのことです。出来上がりが楽しみです。
型抜き用のトムソン型(ビク型)
制作にあたっては、台紙から正12面体の展開図を簡単に抜き取ることができるように、トムソン型(ビク型)が作られました(写真6)。抜き型の作成は、コンゴーテクノロジー株式会社に依頼されたとのこと。同社のサイトでは、トムソン型(ビク型)について以下のように解説されていました。
「ベニヤ板にレーザーで溝をつくり、そこに溝と同じ形状に曲げた刃を組み込んだ型です。古くから採用されてきた抜型で、汎用性も高く、様々な製品の加工に活用されています。金型や彫刻型より低コストで短納期の製品加工に適しています。」
加えて、折筋を入れるための型も見せていただきました(写真7)。
これらの型(版とも言えます)は、「普段活版印刷を行う機械にセットして、適切な圧を加えることで、抜き加工や筋入れが可能になる」と猪飼さんは話します。型の設計は、印刷機を傷つけないように慎重に計算して作られるとのこと。
活版印刷と言えば平面の紙に印刷されたものをイメージしがちですが、視点や発想を変えると、立体的なものも制作が可能であることを気づかせてくれました。箱物などのパッケージも、多くは1枚の紙を組み立ててできいるわけですから。1枚の紙からさまざまな形を造形していくことができるという視点を持つことは、造形の楽しみを大きく広げてくれるのではないかと思います。
立体活版、ランダム印刷、箔押し。さまざまな技法で作られたインビテーションカード
続けて紹介するのは、本展示会のために作られたインビテーションカードです。このカード、見れば見るほどさまざまな技法が盛り込まれていることに驚かされます。
猪飼さんは、活版印刷に立体表現を加えた技法を総称して「立体活版」と名付けています。一般には紙の上下を凹凸のある版でプレスするエンボス技法がありますが、猪飼さんは、さらにその上から活版の文字や模様を加えることで、複雑なパターンを表現しています。
さらにこのカードには、一枚一枚、インキの色や効果を変えて刷る「ランダム印刷」の技法も見ることができます。ランダム印刷の詳細は、コラム「印刷カフェ Print+Plantが都立大学駅にオープン、不思議な空間を覗いてきました」を参照下さい。
今回の展示会では、株式会社竹尾さんから紙を支給いただくことができたので、豊富なバリエーションを展開することができた、と猪飼さんは話します。出来上がったインビテーションカードが(写真8、9)です
「立体活版」と名付けられた特殊印刷技法
猪飼さんが近年手掛けられてきた「立体活版」は、これまでのエンボス(浮上げ)加工に加えて、浮き上がった面にさらに活版印刷を加えるという工程を経ます。そのため、これまで見たことがないような凹凸の表現が可能になっています。「立体活版」は本コラムで改めて紹介する予定ですので、楽しみにしてください。
ここに紹介するインビテーションカードでも、これまで見慣れてきたエンボス加工とは違った効果を見ることができます。写真だと凹凸面が確認しづらいのですが、触ってみると不思議な感覚を覚えます。
インビテーションカードの活版印刷の版は、株式会社フナミズ刃型製版に依頼しました。(写真10)は、活版印刷用に作られた亜鉛凸版です。細かな模様の凹凸が見ていただけると思います。
「ランダム印刷」で一枚一枚のカードに個性を
「ランダム印刷」は一枚一枚に異なるカラーやグラデーションで刷る技法です。人間も一人一人に個性があるように、「ランダム印刷」では一枚一枚のカードに個性が宿ります(写真11〜14)。
かけ足になりましたが、今回は竹尾 青山見本帖で行われた展覧会の様子を紹介しました。この展示では、紙を使った平面と立体という意識を強く芽生えさせてくれました。印刷物を愛でる楽しさを広げてくれたような気がします。
一枚の紙でも、触るとざらざらしたり、なめらかだったりします。活版印刷の版で強く押してプレスすると凹凸が現れます。考えてみると、紙そのものもミクロの視点では立体構造を持っているわけです。奥深いですね。
では、次回をお楽しみに!
猪飼 俊介 Shunsuke Ikai
1982年東京生まれ。
ALBATORO DESIGN主催。
東京藝術大学テクニカルインストラクター。
PRINT + PLANT
Letterpress + Plants shop in Tokyo.
都立大駅付近の実験的な活版印刷と植物をコンセプトにしたカフェショップ
OPEN:11-19時 / 土曜定休
住所:東京都目黒区柿の木坂1丁目32-17 PRINT+PLANT
Instagram:https://www.instagram.com/printplant_official/