図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]105
資料保存ワークショップ番外編 只今アトリエ移転準備中!
前回[図書館に修復室をツクろう!]103資料保存ワークショップ番外編「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」を終えてでご挨拶させていただいたように、資料保存ワークショップ番外編のアトリエのある「ものことあとりえ一頁」を6月初旬に閉鎖してからというもの、この2か月ほどは、メンバーと毎週のようにアトリエの片付け、移転先への引っ越しの荷造りに追われる日々を過ごしていました。
当アトリエ、あとりえ一頁には、山野上禮子先生から譲り受けた貴重な機材やたくさんの道具類を配置していましたが、その全てを移転先に持って行くことは難しく、移転先に持って行けるか?今後も使うか?などメンバー達と道具一つ一つを丁寧に確認し、複数あるものはメンバーで分け合ったりしました。使いきれないだろうと判断されたものは、引き取り手を探しました。
刃物類はご縁のあった方にお譲りしたり、処分するに忍びない機材をさらに人づてに引き取り手を探していただいたりと、片付けにも時間がかかります。なんせ、本の修理、修復を学ぶ私たちですから、簡単に処分を決断することがどうしてもできないのです。
山野上先生が人生をかけて使ってこられたもの、ベルギーやフランスからご自身で持って帰ってこられたもの、工夫してご自分で加工されたりしたものの数々。それらのものには歴史や魂が宿っている気がします。
引き取り手探しには、製本関係の講師の方、作家の方、職人さんなどたくさんの方にご協力いただいたのですが、それは、直前に開催した「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」がきっかけで繋がった方々でした。なんだか山野上先生が順序を作ってくださったようにも思えました。
ご協力いただいたみなさまに心よりお礼申し上げます。
道具の選別を終え、あとりえ一頁からの搬出と移転先への搬入は、3年前に山野上禮子アトリエより搬入を依頼した同じAKI鉄工所さんにお願いしました。
2025年8月3日(日)晴天。空飛ぶKRAUSE(大型カッター)リターンです。
(なんのこっちゃ?っと思われた方は、図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]72図書館資料保存ワークショップ番外編 新たな一頁へをぜひご覧ください。)
あとりえ一頁の入口ガラス扉は狭く運び出しは身体だけでなく頭も使います。2022年のアトリエへの搬入時、私が撮影していた動画が役に立ちました。AKI鉄工所の職人さんたちとみんなで動画を確認。なんでも記録しておくもんだなぁ、と心の中で過去の私にグッジョブ!を送りました。
職人さん3名がかりで重たいKRAUSEの向きを変え、ひっくり返し、と何度かチャレンジの末、見事脱出。
酷暑の青空の元、3tのユニックのトラックに吊り上げられるKRAUSEに続いて、みんなで作業に使っていた大きなテーブル(私の父作でした。)も一緒に運び出されます。これは、私個人の引っ越し先へ。
象徴的な大きな機材が運び出され、アトリエの痕跡がなくなってしまったあとりえ一頁を後にし、移転先へ。
本日2度目の空飛ぶKRAUSEを経て、無事に予定の場所に収まりました。
職人さんたちの連携によって、大きな道具が運ばれ設置されてゆく様子を見て胸が熱くなった後には、これで、私たちの活動をまた新たな場所で継続することができるのだと、じんわりと安堵の思いが訪れました。
8月下旬からメンバーと再開の準備をぼちぼちと進める予定です。
新しい私たちのアトリエについては、また追って。
「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」開催準備に追われていた5月。実は、夢に描いた本の修理の依頼が、私たち資料保存ワークショップ番外編に舞い込んできました。
それはちょうど、あとりえ一頁を含む、ものことあとりえ一頁の閉鎖が決まった時期でもあって、管理人だった私はどこにぶつけてよいやら分からぬ思いの中にいたところ、突然、落ち込まないで!と天から声をかけられたようで目の前がぱあっと明るくなった気がしました。
依頼者さんは、海外の方!驚きましたが、ご実家が日本だということで、7月に一時帰国された際にお会いして、現物を見せて頂きながらご相談を受けました。
驚きはまだあって、私たちへ依頼されたきっかけは、なんとこのWEB MAGAZINEとのこと!
v. 16で完結した「資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録」をご覧になられたのだそうです。四苦八苦しながらも記録し続けて来た甲斐がありました!と喜びながらも、お会いするまで、お住まいの国の方が修復工房があるのではないか?という疑問がありました。
しかし、ルリュールの本場があるヨーロッパでも、文化財級の資料を修復する業者はあっても、一般家庭の本を依頼しやすい工房はほとんどないとのことで、また驚きました。日本でも本の修理を行う業者、工房はいくつかある中、私たちを見つけて下さったことを改めてうれしく、同時にしっかりやらねば!という思いに駆り立てられます。
修理をご依頼いただいたのは地図帳でした。子供の頃、お爺様お婆様から贈られた思い出のものだそうです。地図帳とはいえ、資料集のような内容で、本文には各国の産業や農業の様子が描かれていたり、都市部の紹介があったりして、読めない言語で書かれていても興味深いものでした。
幼い頃にこれをご覧になって、広い世界のあちこちの国の様子を想像し楽しい時間を過ごされた様子が伝わるようでした。
破損の様子は、背外れ、背の天地の部分の摩耗、見返しののどの部分の破れが見られるものの、それほどひどい状態ではないように感じました。同席したメンバーと、その場でおおまかな修理の工程を確認し合い、依頼者さんにご説明し依頼をお受けしました。
なるべく元の状態から変えず、丈夫にしてほしいというご希望です。
アトリエの再開まで作業が出来ないこと、毎日作業が出来ないことにもご理解いただき、修理完了後はお預かりして、次回ご帰国の際にお返しすることで承諾を頂きました。
アトリエ移転という大きな節目に、新しい目標が与えられました。
私によるこのWEB MAGAZINEは、10月から地図帳の修理の連載となりそうです。
図書館資料保存ワークショップ
永田千晃
(写真1)運び出されるのを待つKRAUSE
(写真2)まずはKRAUSEの刃から
(写真3)空飛ぶKRAUSEリターン
(写真4)KRAUSEに続いてアトリエのメインテーブルも
(写真5)移転先へ到着
(写真6)移転先で無事に設置完了
(写真7)修理の依頼を受けた地図帳
(写真8)外れかけた背の部分