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森カズオ
文字のある風景⑧
『書体』~AI時代の文字のカタチ~

書道のお手本に使われる「永」を楷書体で表示。 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

書道のお手本に使われる「永」を楷書体で表示。

3年ほど前のことだ。モリサワ主催の講演会があって、杉浦康平氏が登壇されるということで、松岡正剛校長率いる編集学校の末席の末席を穢している身としては、しなければならないことも放ったらかしにして、会場に向かわずにはおられなかった。

杉浦康平氏 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

杉浦康平氏(Wikipediaより)

講演会では、彼のデザインに対する理念や姿勢が語られた。たとえば「デザインとは情報であるから、表紙にだって文字をたくさん散りばめる。しかも、その文字組み自体が高度にデザイン化されていなければならない」と。なるほど、雑誌『季刊銀花』の表紙には誌のコンテンツが美しく配置されていた。表紙を見るだけで、内容の概要が理解できるとともに、文字と写真やイラストが美しくレイアウトされ、『季刊銀花』の世界観を表わしている。まさに「宇宙」がそこにある。

『季刊銀花』の表紙 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

『季刊銀花』の表紙

自分はいわゆる「商業デザイン」の世界で生きてきた。これを此岸とするなら、杉浦氏の提唱する「ヴィジュアルデザイン」は彼岸ともいえよう。松岡校長がよく言っていた「HereとThere」である。彼岸を見据えながら自分は此岸を歩いてきた。それは、文字という細胞を組み合わせて強靭な肉体をくみ上げていくような取り組みだったのではないか…。

ひと通り講演が終わって、質疑応答の時間が設けられた。僭越ながら自分も質問をさせてもらった。
「文字はまず刻むという行為で表現された。甲骨や金文などがそれに当たるだろう。やがて、筆が発明され、続いてペンが現われて、文字は書くものとなった。そして今、文字はキーボードで打つという時代がやってきた。刻む文字としての名残を持つ隷書体、筆を踏襲した楷書体や草書体、そしてペン書きの意匠であるゴシック体などが生み出されてきたが、打つ時代にはどんな書体が生まれるのだろうか?」
という趣旨の質問をさせていただいたと記憶している。

文字はキーボードで打つ時代に。 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

文字はキーボードで打つ時代に。

この問いかけに杉浦氏は
「漢字の故郷である中国では、簡体字化が進んでいる。これは画数の多い字を簡略化して誰もが使いやすいようにしようという動きのひとつである。ここに打つ時代のヒントがあるかもしれない」と答えられた。

簡体字の字例 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

簡体字の字例

昭和生まれの世代は、何の気なく「文字を書く」と口にしている。さもありなん。自分たちは、ノートやメモに“文字を書いてきた”からだ。それが、今やさまざまなレポートやメモ書きをコンピュータやタブレット、スマホで行っている。それは、“書く”という行為ではなく“打つ”という行為である。今も現に、この文章をコンピューターで“打っている”。

手を使って文字を書けば、文字の形を手が憶える。漢字を憶えるのに書き取りをしたのは、手に字形を憶えさせるためだ。でも、今は字の読み方を入力すればコンピュータが勝手に変換してくれる。ただ、誤変換も多い。手書き時代には起こりえなかった誤字が今多数見られるのは、変換に頼り過ぎているからだろう。本来の意味が忘却の彼方に葬り去られようとしている。これは、文化の礎となる文字の危機だと思う。

閑話休題。これからの書体の話である。先にも書いたように、書体は、それが書かれる道具によって進化(いや変化の方が言い当てているか?)してきた。表示(表字?)しやすいような書体が生み出されるのである。では、AI時代の書体はどんなものになるのか。やはり、それは液晶モニタに表示しやすいものとなるだろう。横書きが主流となっていることも影響を与えるかもしれない。表示するのが主となるので、書き順なども考慮の対象をはずれるかもしれない。書体というよりも字形自体が変化していく可能性が高いようにも思われる。

いずれにしても、AIが人間に取って代わろうとしている時代のことである。ディープラーニングで鍛えられたAIが、これからの字形や書体を決める日がやって来るのかもしれない。それを自分の目で確かめられるかどうかは、分からないけれど…。

書道のお手本に使われる「永」を楷書体で表示。 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

書道のお手本に使われる「永」を楷書体で表示。

杉浦康平氏 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

杉浦康平氏(Wikipediaより)

『季刊銀花』の表紙 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

『季刊銀花』の表紙

文字はキーボードで打つ時代に。 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

文字はキーボードで打つ時代に。

簡体字の字例 - 文字のある風景⑧ 『書体』~AI時代の文字のカタチ~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

簡体字の字例