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森カズオ
文字のある風景⑥
『本棚』~背中で語る書物たち~

文字のある風景⑥『本棚』~背中で語る書物たち~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

本棚には、その人の知性が現われる、と聞いたことがあります。蔵書の量はもちろんのこと、本の並べ方ひとつにその人のセンスがにじみ出てしまうようです。確かに、作者別で並べる人もいれば、テーマ別にそろえる人、サイズでレイアウトする人、彩にこだわる人…まさに千差万別であります。
中には、「頭の中を覗かれているみたいだから…」と自分の本棚を見せることを頑なに拒否る人もいるようです。「そりゃもう、パンツを脱がされるような気分です」と恥ずかしげに話されます。ここまでになると、もう春画のコレクターかなと疑いたくなったりするものですが、そういう人に限って、難しそうな哲学書なんかがズラリと並んでいたりするものなのです。なんとも人の心は不可思議です。
そういう私は、実は背表紙フェチかもしれません。比較的大きなスペースの表紙より、狭いスペースに装丁家の表現の粋が詰め込まれているところに魅力を感じてしまうのかもしれません。背表紙いっぱいに文字がはみ出しそうにレイアウトされた書物の豪胆さ、小さな文字が的確な場所に居心地良く配置された本の雅やかさ。それらを並べてみると、どこか文字の交響曲のような趣を感じてしまいます。

文字のある風景⑥『本棚』~背中で語る書物たち~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

私は、本棚のレイアウトに関しては「テーマ別派」なのですが、この方式で並べておくと、それぞれの書物が語りかけてくるような気になるのです。タイトルの文字たちが、お互いに影響し合い、時には共鳴し、時にはノイズを発して、私の想像力を無限大に拡げてくれるのです。そのコーナーは、まさに、ひとつの宇宙であり、それを見ている私は、壮大な銀河旅行を楽しんでいるかのような気分に浸ります。そして、しばし時間が経つのも忘れて、妄想の世界を漂うのです。

背表紙を見ながら、本の天に人差し指を添えて、すーっと引き出す。その瞬間がいいのです。ちょっと旧式の喩えになりますが、レコードに針を下ろす瞬間のような、そんな気分を味わうのが好きです。そして、小口に手を添え、ゆっくりとページを繰っていく。目に、次々と文字が飛び込んでくる。その一文字一文字を頭の中でつないでいって意味をくみ取る。やがて、情報の塊が心の中で増幅して、ひとつの感情が芽生えてくる。それを咀嚼しながら、新たな自分の想いに変換していく。この一連の流れこそが、読書の楽しみというものではありませんか!

今夜も、書棚の本たちが私に語りかけてきています。人は真実を背中で語るもの、というようですが、本もまた背中で語りかけて、私たちの知的好奇心をくすぐっているのです。嗚呼、幸せ哉、文字のある暮らし。

文字のある風景⑥『本棚』~背中で語る書物たち~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

文字のある風景⑥『本棚』~背中で語る書物たち~ - 森カズオ | 活版印刷研究所