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森カズオ
文字のある風景⑱
『手紙』~絶滅危惧種の文字媒体3~

SNS花盛りである。通常の連絡はスマホで。待ち合わせに遅れるとか場所が変わるとかの連絡をするのに、とても便利である。アットタイムでの情報共有ができるところが、実に頼もしい。だから、普及するのだろう。でも、その即時性には、裏腹のリスクがある。それが「既読スルー」だ。読んでいるのに返事をしないことは、SNSの世界では重大な罪となる。時には、いじめの原因になることもあるようだ。メッセージを受け取った人は、返信という行為に脅迫されてしまう。ストレスの原因となることもしばしばだ。

こんな便利さと脅迫をはらんだSNSの浸透で、消えつつあるものがある。それが『手紙』だ。社会人500人に対するある調査会社のリサーチでは、7割以上の人が「手紙を書いたことがない」と答えたという。都市伝説なのかもしれないが、オフィスで机を並べる隣同士の社員が直接話をすることなく、LINEを使って会話しているという話を耳にすることもある。ネット社会が確実にリアル社会に侵入してきているようだ。

考えてみれば、SNSは情報共有には適したネットワークである。いつ、どこで、何をする…などといった「情報」を共有するにはベストフィットしているといえる。しかし、想いや感情を伝えるには少し不安を覚える。SNS上の文章を読んでいても、相手の心のありどころがよく把握できないのだ。整然とした文字が並ぶ画面を見ていても、この文章を書いている人が喜んでいるのか、怒っているのか、哀しんでいるのか、楽しんでいるのか…よく分からないことが実に多いのだ。

リアルな会話などでよくあることだが、すごい非難的な言葉を使っていても伝えたい想いはまったく逆だったりすることがある。いわゆる「イヤよイヤよも好きのうち」という状態のことだ。そういう場合、受け取る側は、相手の声色や表情を加味して判断することができる。言葉ではない言葉を受け取るということだ。画一的なフォントで記述されたSNSの文章からは、この言葉にならない言葉をくみ取るのは、とても難しい。確かに、絵文字やスタンプなどの補助的な感情表現ツールは開発されているが、想いのすれ違いが完全に払しょくされるわけではない。よって、SNSの文章は直截的になる。そして、それが進むととても無感情なものとなるのである。誤解というリスクを排除するには、そういう方向に進まざるを得ないのだろう。

そこで、『手紙』だと思っている。丁寧に書かれた手書き文字からは、書いた人の想いや人柄がにじみ出る。言葉にできない言葉が伝わるのだ。さらに、即時性を問わないから、じっくり考えて文を練ることができる。書いては破り、破いては書きを繰り返して、本当に伝えたい文章に整えることができるのだ。そして、即返を求めないところが心に落ち着きを与えてくれる。気長に待てるのだ。逸話ではあるが、平安時代には恋人の返事を60年間も待っていた人がいたという。60年というのは極端ではあるが、それほど、時間という概念が長期間にわたるのが『手紙』なのである。せかせかした現代人が忘れがちな「待つ」という姿勢を再び思い起こさせてくれるのである。「待つ」ことを知れば、「怒り」の感情も抑えられるというものだ。

そんなこんなで、文通が静かなブームになっているという。しかも、それをしているのが若い人たちなのだそうだ。SNSにはない、想いが込められるところが支持のいわれだという。手書きの温もり、返事を待つワクワク感がたまらないのだそうだ。

絶滅危惧種…それらは、少なくなっても決して消滅することはない。音楽がネット配信の時代になっても、レコードが根深く生き残っているように、『手紙』も決して姿をなくすことはないだろう。

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現代人に忘れられた『手紙』。

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今どきの女子高校生の『手紙』

手紙マニアとして知られる明治の文豪・夏目漱石の直筆書簡 | 文字のある風景 『 手紙 』~絶滅危惧種の文字媒体3~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

手紙マニアとして知られる明治の文豪・夏目漱石の直筆書簡

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