図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]77
新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録 Vol. 5
2023年6月から始まった資料保存ワークショップ番外編「修理の日」。
ぼちぼちと画集の修理に取り組んでいます。
図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!と先にお伝えします。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。
これまでの記録はこちら。
・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/
・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/
・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/
・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/
Vol. 5となる表紙部分の漂白は、背表紙を残すのみとなりました。
2023年4月1日(土)に開催した資料保存ワークショップ番外編「修理の日」では、この背表紙の漂白に取り組みました。
表紙 – 背表紙 – 裏表紙 とクロスでつながった状態なのだからVol. 4の時に同時にすればよいではないか、
と思われたかもしれませんが、背表紙には、背タイトルが印字されています。
修理対象となる画集
「 Clavé
Pierre Seghers
(Bibliothèque d’art hispanique)
Éditions Poligrafa, c1971 」
NII書誌ID(NCID):BA26233085
の「CLAVÉ」と四葉のクローバーの様な出版社のマーク?が印字されています。
顔料によるものだと思いますが、Vol. 2の時にお掃除シートで拭き取った際にわずかに文字が滲んだのでした。
そのことから、文字をどのように避けて漂白するか、考え所でした。
「文字の周囲に少し余裕を持たせて、綿棒で漂白剤を塗布してはどうか?」
というメンバーの提案を試すことに。
はじめは印字から少し離れた部分から、綿棒で漂白剤を塗布したのですが、漂白剤がクロスに浸透して印字部分に接するのを避けるのに少々難しさを感じました。
そこで、私はあることを思いついたのです!
大学時代に染織を学んでいた際の”ぼかし”の技法のひとつを!
(そんな大層なことでもありませんが。)
水彩画にも使う技法ですね。
色が入ってきてほしくない部分に予め水を浸み込ませておくのです。
タイトル周辺の漂白の途中でこの方法に気が付いたので、タイトル部分は漂白剤塗布してから、印字と漂白剤の間に綿棒で水を塗布という順序になってしまいました。
下部に印字の出版社のマーク(違うかもしれませんが、もうそう仮定しておきます。)は、先に印字の周囲に綿棒で水を塗布してから、漂白という順序で行いました。
結果的には、色(漂白剤)を入らないようにするというよりは、文字通り呼び「水」となったのですが、印字周囲は確実に漂白剤の濃度は薄まっていることになるので、ぼかしにはなっているはずですね。
呼び水となって漂白剤はみるみる印字に迫り、印字の下をくぐって文字の線のむこう側へと浸透したのですが印字に変化は見られませんでした。正確には、この後プレスをかけて見てみると、何となくではありますが印字がマットになったように見えました。
その後のリンス作業は、印字周辺は綿棒を使ったものの、印字の部分と無地の部分と作業を分けることをせず、背表紙全体を一気に行いました。そして再度プレス。吸い取り紙として挟んだキッチンペーパーを取り換えるのに、24時間後にプレスから取り出した時は、その時受けたマットな印字の印象はもうなくなっていました。
やはり、漂白剤塗布する前に水を塗布した出版社のマーク部分の方がむらなくきれいに漂白が仕上がった様子です。
■背表紙(印字のある面)を漂白する
【用意するもの】
・綿棒 数本(漂白剤用, 水用と使い分ける。)
・晒(150×150mmくらい, 絵柄が無くて毛羽立ちの少ない白い綿生地が良いと思う。)
・塩素系漂白剤(30ml)
・水
・キッチンぺーパー
・白い紙(コピー用紙, スケッチブック用紙等)
① 綿棒に塩素系漂白剤を浸み込ませる。
② 平らなところに置いた表紙の背表紙印字の周りをなぞるように、綿棒で水を塗布する。
③ ②で水を引いた部分(印字から周囲2~3mmほど離れた部分)に、①をトントンと軽くたたき、点描を描くように漂白剤を塗布してゆく。
④ 印字の周囲を綿棒で漂白剤を浸透させたら、漂白剤を塗布した部分全体のの色味が変わるのを確認してから、一旦余計な水分を吸い取るため3~5分ほど※挟みものをしてプレスする。
⑤ プレスから出して、漂白剤に浸して硬く絞った晒で印字のない部分をこするようにまんべんなく拭く。クロスの凸凹面にも浸透するように上下、左右とこする向きを変えて行う。
⑥ 漂白剤を塗布した部分全体の色味が変わるのを確認してから、余計な水分を吸い取るため、3~5分ほど※挟みものをしてプレスする。
プレスから出した時の状態次第で、キッチンペーパーを取り換えてプレスの回数や時間は調整する。
■背表紙(印字のある面)漂白後のリンス
【用意するもの】
・晒(150×150mmくらい, 絵柄が無くて毛羽立ちの少ない白い綿生地が良いと思う。)
・中性洗剤(15ml, 合成界面活性剤、着色料、保存料無添加のものを使用。)
・水 (15ml, 中性洗剤希釈用)
・キッチンぺーパー
・白い紙(コピー用紙, スケッチブック用紙等)
① 中性洗剤は原液では泡が立ってしまったり、洗剤が残り過ぎることが予想され、水で2倍に希釈し石けん水にする。
バケツやボウル、バットなどに中性洗剤と水を分量分入れて作る。
② 綿棒を①に浸けたもので印字周囲をトントンと軽くたたき、点描を描くように石けん水を塗布してゆく。
この時も印字から周囲2~3mmほど離れた部分から行う。漂白の時のように水を先に浸透させることはしなかった。
③ ①に浸して硬く絞った晒で印字のない部分をこするようにまんべんなく拭く。クロスの凸凹面にも浸透するように上下、左右とこする向きを変えて行う。
晒を①に浸し硬く絞る時、泡が立たないようにそっと行う。
④ 余計な水分を吸い取る、またリンスを浸透させるため、3分ほど※挟みものをしてプレスする。
これを2回行い、一晩プレスにかける。
プレスから出した時の状態次第で、キッチンペーパーを取り換えてプレスの回数や時間は調整する。
⑤翌日、プレスから出しキッチンペーパーを取りかえ、再度一晩プレスした後、表紙に本文を挟み上下を板で挟んで重しをして保管。
漂白もリンスも、プレスに入れる際の※挟みものの順番は同じ。
下記のようにしました。
※プレスの挟みものの順番
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プレス上板
古新聞・・・クッション材の役割
白い紙・・・汚れ移り防止
キッチンペーパー・・・吸い取り紙
表紙・・・背表紙と表紙や裏表紙の間に出来た段差は上下白い紙で挟んだ古新聞で調整
白い紙・・・汚れ移り防止
古新聞・・・クッション材の役割
プレス下板
表紙を整える作業は、これで完了!
次回は、いよいよ本文の綴じ直しについて検討する予定です。
糸の太さは?
元に綴じ穴を活かす?
支持体をつける?
さぁ、どうなるでしょうか。
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
ゆっくり急いでやっていきます。
お楽しみに。
資料保存ワークショップ
小梅