web-magazine
web-magazine

京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]55
羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。

資料保存ワークショップ番外編では、先日から羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。
[図書館に修復室をツクろう!]54 ご存知ですか?―「羊皮紙」について―で、M.T.氏が触れてられている「文庫本サイズのブックカバー」について、ここでは、「リボンを通す工程を残すのみになっています。」と書かれていましたが、その後、各々リボンを通し、ブックカバーが完成しました。
予想以上の素敵な仕上がりにメンバー一同興奮で自画自賛。

今回は、私たちワークショップ番外編で2回に分けて行った羊皮紙体験についてのご報告です。

1日目。
「羊皮紙でブックカバー作り。
サイズに合わせて羊皮紙をカットし、折り目を付ける」の巻

羊皮紙に触れ、各々持ち込んだ文庫サイズまでの本で、カバーの採寸をする。
まずは、方眼紙に型紙を起こして、それを羊皮紙に当てて切る。
型紙を起こす際の採寸の仕方を参考にしたのは、「図書館員のための図書補修マニュアル / 小原由美子著」のp120の図IX-2

しっかりと張りのある羊皮紙は、裁ちバサミのような強いハサミでないと負けそうなほど硬いのです。
ハサミを入れると、バリリとパリリという音がする。挟みを握る手に力が入ります。

(写真1) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)羊皮紙に触れてみる

羊皮紙を触ることだけでも、ほぼ経験のないこと。
博物館・美術館での展示では目にしていたかもしれないが、そういった場合、羊皮紙の使用された資料の内容だったり、印刷だったりに目を向けていることがほとんどで羊皮紙そのものに焦点を当てた展示というのはめったにないのではないだろうか。
皮なのだが、しっかり乾燥してパリッと張っていて、硬さがある。
表面はツルツル、すべすべ。
皮だと言われないと、特殊な加工を施した紙のようだ。
日常身近に手にする機会があるのは「革」。
鞄や靴、財布などの、あの柔らかな手ざわり。この「皮」はまるで全く別物のようだ。
「革」と「皮」の違いは、羊皮紙工房のサイトで知った。
どちらも動物の皮を石灰に漬けて毛や脂肪を除去する工程までは同じだが、その後の工程が異なるのだそう。
タンニンなどにつけて、繊維組織を化学的に変化させる「なめし」を行うのが「革」、木枠に張って乾燥させるのみで「なめし」の工程がないものを「皮」と呼ぶそうで、羊皮紙は、後者にあたる。
乳白色で、ところどころの透け具合に濃淡があって、まだらな淡い模様のような、シミのようなものがある。
よく見ると、毛穴と思われる細かな点が全体的にある。
大きな一枚ものは、色の濃淡は何となく中央から対照的は配置に見えることから、左右の脚の付け根かな?などと推測できる。動物の皮膚なのだ。

奈良の書物の歴史と保存修復に関する研究会さん(書物研さんと略)に通うメンバーが以前、羊皮紙工房の八木氏が書物研さんで講義をされた際に配られたという羊皮紙サンプルを出してきてくれた。
M.T.氏の提供してださった今回使用する羊皮紙は、このサンプルの中だと「牛」のに似ていた。
羊皮紙とは書くが、羊の皮に限らないのは、羊皮紙工房のサイトでも書かれていることだけど、以前わたし達のワークショップで行った読書会の課題図書になった貴田庄氏の著作「西洋の書物工房 : ロゼッタストーンからモロッコ革の本まで」の第2章 西洋の紙「羊皮紙」でもそのように書かれていたっけ。
羊皮紙になる動物は、山羊や羊、仔牛、豚、鹿とさまざまのようだが、仔牛の皮をヴェラムというらしい。

切ったカバーを今度は折ってゆくのだが、私は、縦82mm×横98mmの豆本、愛蔵する美術家の故山口汎一氏の私家製本版「十二支事始」を選んだ。
(山口汎一氏については、[図書館に修復室をツクろう!]⑨私家版「ぱなとりゑ」についてをご参考に。)
・・・小さいので、大変であった。
しっかりと張りのある羊皮紙は、豆本のように平の大きさが狭いと、折に抵抗する力が強く働くようだ。
必死で何度もヘラをあててこするが、なかなか言うことを聞いてくれない。
ふと、保存箱作りの時も同じ経験をして、水で軽く濡らすとやりやすくなったことが思い出された。
海綿を硬く絞って優しく折り目に当ててみると、曲がりかけの折り目のついた羊皮紙は、ほんの少しの水分をみるみる吸って折り付けしやすくなった。
表紙裏表紙内側の天地と小口、それぞれの折しろの交わるところは小口側に切り目を入れて差し込んで固定。
さっきの水分が乾いたのか、また平面に戻りたがるので、軽く重しを置いて一晩休ませてみた。

(写真2) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)故山口汎一氏の私家製本「十二支事始」に製作途中の羊皮紙ブックカバーをはめてみる

(写真1) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)羊皮紙に触れてみる

(写真2) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)故山口汎一氏の私家製本「十二支事始」に製作途中の羊皮紙ブックカバーをはめてみる

2日目。
「リボンを通して、結びましょう。」の巻

羊皮紙は、たわむ。
湿度によって表面が波打ってくるのだそう。
それを防ぐための骨の役割としてリボンを平の部分に通して小口で結ぶ形を完成形とする。
今回私たちが作ったブックカバーは、、リンプヴェラム装という製本方法を参考にしたものなのだ。
本来のリンプヴェラム装は、本文の背から出ている綴じの支持体がそのまま羊皮紙の表紙、裏表紙に通された製本形態だそう。
リンプ(Limp)は、ぐにゃりとやわらかいの意味。
ソフトカバーみたいな意味合いなのだそう。
私たちは、M.T.氏のお手本([図書館に修復室をツクろう!]54ご存知ですか?―「羊皮紙」について―)写真2に習って、上下各6か所に穴を開けて、2本のリボンを通してみた。
平たいリボンを選んだ人は平目打ちを、私は丸い紐を選んだので目打ちを、それぞれハンマーで穴あけして、リボンを通して、結んで出来上がり。

(写真3) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)平目打ちでリボンを通し用の穴を開ける

(写真4) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)リボン通し用に目打ちで開けた穴

(写真5) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)ブックカバー内側からリボンを通す

(写真6) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)完成した羊皮紙ブックカバー_1

(写真7) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)完成した羊皮紙ブックカバー_2

リボン選びも楽しいし、通して結んだ様は、そのままプレゼントになりそうな洒落た雰囲気で、本を贈り物にする時にいいかもしれない、と盛り上がった。
実際、図書館等で保存用にするにはリボンの材質もきちんと選ぶ必要がありますね。

羊皮紙体験の模様は、資料保存ワークショップ番外編の開催場所である、ものことあとりえ一頁のブログでもご紹介しています。

ところでこの、リンプヴェラム装。
糊を使わず、本に負担の少ない可逆性のある製本形態であることから、
1966年のフィレンツェのアルノ川の大洪水で被害を受けた膨大な資料の中でも比較的損傷が少なかったことから、イギリスの修復家クリストファー・クラークソン氏により、コンサベーションバインディングという修理製本方法が考案されたそう。

資料保存ワークショップ
小梅

(写真3) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)平目打ちでリボンを通し用の穴を開ける

(写真4) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)リボン通し用に目打ちで開けた穴

(写真5) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)ブックカバー内側からリボンを通す

(写真6) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)完成した羊皮紙ブックカバー_1

(写真7) | 羊皮紙でブックカバーを作る体験をしました。 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)完成した羊皮紙ブックカバー_2