図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]59
象糞紙という価値。「象牙やめてUNKOにしませんか?」
先日は、和紙を守るべく、トロロアオイを育てる観察日記を書きました。
([図書館に修復室をツクろう!]57 日本の和紙を守りたい!『ねり』を生み出すトロロアオイ観察日記)
その後のトロロアオイ、順調に育ち、花も咲きました。
あれ?花?と思われた方は前回の記事をよく読んでくださっている方ですね。
ありがとうごさいます!
花ではなく根を育てます、と宣言してはいたのですが・・・
その後のそんな様子は、また追って続編で。
さて、今日は世にも珍しい紙と、その紙の作り手さんについてご紹介したいと思います。
(タイトルからだいたいは御察しでしょうけど。)
先にお断りしておきます。
ここから先の内容についてお食事中の方は、もしかしたらお食事後に読んでくださった方がよいかもしれません。
私はまだコースターという形でしかその珍しい紙を手にしたことがないのですが、はじめてそれを手にしたとき、なんだかあたたかな、大地に根付いたぬくもりを感じました。
それもそのはず、「珍しい紙」とは、なんと
象さんの糞から作られる紙だからです!!!
お食事中でも平気!と気になられた方は、どうぞそのままお読みいただきたい。
今回ご紹介する象さんの糞から作る紙とは、「象のUNKO elephant paper」という名前で活動されている中村亜矢子さんが一枚一枚手作りで製作されているものです。
日常的に目にする紙に比べると、大きな繊維質がはっきりと目視でき、表面はざらっと、繊維質の凸凹が有機的な表面を作っている黄土色の紙です。
製作者の中村亜矢子さんは、どうしてこのような紙を手作りされるようになったのでしょう。
非常に気になる部分です。
野生のアフリカゾウは絶滅の危機に瀕しています。
日本や中国で工芸品や美術品に、そして印鑑にと、象牙製を珍重されてきました。
しかし、象牙は鹿の角などと異なり、象が死なないと得ることが出来ないものなのです。
絶滅の危機に瀕する野生動植物が過度な国際取引に利用されることのないようにするために生まれたワシントン条約で象牙の輸出入が厳しく規制されているのは、多くの人が承知でしょう。
日本も1980年に加盟し、象牙や象牙製品の商業取引は原則禁止されています。
象の自然死による象牙の加工品など、取引を許される条件は限定的にあるようですが、本来隠れて死する象。
とても自然死だけでは賄えない数の象牙の取引が今でも行われています。
その背景には、象牙目当ての密猟があります。
密猟者の多くは貧困に苦しむ現地人。
密猟で一頭の象を殺すと、現地での給料のなんと1カ月分ものお金になるとか。
そのお金はテロリストの活動資金にもなってしまっているという悪循環が起こっています。
今、こうしている間にも15分に1頭ほどの速度でアフリカゾウが殺されているそうです。
そして、その殺され方は残虐です。
まだ息絶えない象の牙を根元から斧やチェーンソウで切るそうです。
象牙は、牙と書きますが、正確には牙ではなく歯だそうです。
そんな風に殺されてゆく象から命と引き換えに奪い取った象牙を、私たちは価値あるもの、縁起よきものと捉えてきたのです。
日本や中国への取引が多いのは、印鑑の文化ですね。
中国はこのような状況から2017年末、象牙の国内市場を完全閉鎖しました。
日本に関しては、一部の取引を残すことで生息国の生活向上や資源保全への利益をもたらす、規制することでさらに密猟や闇取引が広がるとの考えから、いまだ完全な禁止には至っておらず、今、日本は世界最大の象牙消費国になっているのです。
私の頭の中で、手嶌葵さんの「エレファン」という曲が流れてしまいます。
悲しく、聞くのが辛い曲でしたが、あの曲で歌われている情景が現実的に繰り返されていると思うと、いたたまれません。
幼いころから動物が好きだった中村亜矢子さんは、宇都宮動物園の飼育員を経て、象をはじめ、野生動物と環境の保護について興味をもたれました。
こういったアフリカの現状を知り、「生きている象」より「象牙=死んだ象」が、お金になるのはおかしい。
だったら、「生きている象」からしか取れない価値あるものはなにかと考え、動物園勤務時代に園長さんから言われて作った経験のあった「象の糞の紙」を広めることで、アフリカゾウや野生動物の保護環境を守る活動を始められました。
草食動物である象。
食べたものは半分ほどしか消化せず、残りはそのまま糞と共に排泄されます。
つまり、象の糞は繊維質のかたまり。
中村さんは、その糞を洗浄、煮沸、消毒、加工し、象糞紙「象のUNKO paper」を作られたり、また全国の動物園やギャラリーなどで「象のUNKO paper」を作るワークショップを行うことで、アフリカゾウの現状を伝えられる活動をされています。
有機的で温かみのある象糞紙「象のUNKO paper」
思わず匂いを嗅いでしまいましたが・・・
なんだかほっこり安心する、土のような香り。土に返ってゆくもの。自然のものという感じが伝わってくる紙です。
象糞紙の香りは、その象の住む地域や食べ物によっても異なるのだそうで、樹皮をたくさん食べる象の糞で作った象糞紙からは、木の香りがするそうです。
中村さんは、この「象のUNKO paper」が象牙よりも価値のあるものとなる日を目指して活動されています。
そうなれば現地の人も、「生きている象」を簡単に殺すことがなくなる。
一枚一枚手作りの「象のUNKO paper」。
原料の象の糞をアフリカから持ち帰ることは、検疫に引っかかってしまうので、現地で製紙した状態で日本へ持ち帰られるそうです。
渡航の難しくなった現在は、全国の動物園から調達されているそうです。
将来的には、アフリカ現地の方と一緒に産業にできる仕組みを作り、雇用促進にもつなげたい思いを持たれています。
中村さんは、絵も描かれます。
ご自分で作られた「象のUNKO paper」にハートフルでカラフルな象の絵を描かれます。
自作の紙にご自分で絵を描くことができるなんて、一点一点への思い入れは大きいものだと思います。
今後は絵本の制作と出版、そして動画配信への意欲も高められています。
野生動物の保護について、もっと多くの人に知ってもらうため。
さて、この象の糞。
まだ他にも魅力的な価値があります!
今度はお酒。南アフリカ製のジン「INDLOVU GIN」(インドラブ ジン)です。
インドラブとは、現地の言葉で「象」を意味します。
象は草食動物だと先ほども触れましたが、新鮮な植物や実を好む美食家です。
象の身体を通ることで特別な風味を持つようになったアカシアの花やアガストマから香り付けをしたクラフトジンです。
またびっくりされた方もおられるでしょうけれど、ジャコウネコの糞から採れることで有名なコーヒー、コピルアクみたいなものですね。
野生動物の保護に携わる免疫学のイギリス人研究者ポーラ・アンスレーさんご夫妻は、南アフリカに移住し、アフリカゾウが新鮮で香り高い植物を好んで食すことや、原住民の間では象の糞が薬草として利用されていることを知り、このクラフトジン作りを始められました。
こちらは象糞酒と言いましょうか。
お味が気になると思いますが、びっくりするくらい香りがよく、とてもおいしいのです!
これはオードトワレ?かと思うほど、植物の爽やかな香りが広がります。
このインドラブジンを日本市場へ広めるため、現在、Ascent Japan LLCにより、この「INDLOVU GIN」(インドラブ ジン)のクラウドファンディングが開設されています。
期限は2021年11月15日です。
「象がつくった南アフリカ最高級クラフトジン、日本初上陸!」
AscentJapanLLC
https://camp-fire.jp/projects/view/475869
支援することで、アフリカ財団へ収益の15%が寄付され、アフリカゾウの保護活動に寄付されます。
話は象糞紙に戻ります。
ご紹介した「INDLOVU GIN」(インドラブ ジン)のクラウドファンディングのリターンの一つとして、ここで書かせて頂いている中村さんの手作りされた「象のUNKO paper」で出来たコースターが付いているのです。
私が始めに、「象のUNKO paper」をまだコースターでしか手にしたことがないとお伝えしたのは、このコースターのことなのでした。
アフリカゾウによる農地被害や人身被害の話もあるわけですが、それは人間の利益優先で象の住む環境に農地開拓が広がり、象が自然からの食料を得られにくくなったこともあるかと思います。
1日に何十キロも移動する象は、途中に農地が広がっていれば、そこから先へ移動が出来なくなってしまうのです。
アフリカゾウは、移動しながら木々や植物を大量に食べ、森林を荒らしてしまうようなことも言われますが、象が森を歩くことで、間伐となり、光の当たらなかったところに光が差し、林道整備をしながら種も撒いてくれます。
消化のあまり良くない象は、食べたたくさんの木の実や種をほぼそのまま糞と共に排泄します。
自然な状態で土に落ちた種より、象の体内であたためられ、栄養分に包まれて落とされた種は発芽率がいいのです。
中村さんは、象の糞を「天然の植木鉢」だと表現されていました。
象は、古い森から新しい森を再生してくれるのです。
過去150年で見ると自然の森は2割にまで減っているそうです。
これは象の減少の割合と同じなのだとか。
森と象は共に減っています。
本来、動物たちのいる自然環境はそのままで充分バランスが取れているものなのかもしれません。
森が無くては生きられないはずの人間が、森の破壊を促している。
人間は、様々な文明を作り上げ、科学技術を構築し、いつしか地球が自分達のものだと勘違いするようになったのではないでしょうか。
人間も動物。自然の一部です。
であるなら、人間はアフリカゾウをはじめ、人間以外の動物たちとの共存を考えて、これからの未来を作って行くべきですね。
知ることで意識が変われば、ものの選び方が変わります。
一人一人のものの選び方が変われば、世界も変わるはず。
目先の利益ではなく、未来へと続くサスティナブルな行動を選択したいものです。
厚みがあって丈夫そうな中村さんの作られる「象のUNKO paper」は、個人的には、厚手のファイルや手帳のケース、箱なんかにできたら良さそうだと思います。
様々な形でこの中村亜矢子さんの「象のUNKO paper」の活動を通して、生きている象を大切に思う世界が来てほしいと願います。
資料保存ワークショップ
小梅
「象のUNKO elephant paper」
代表 中村亜矢子さん
https://www.instagram.com/elephant_paper/
https://www.facebook.com/zounounko.deppa/