京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]73
新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録 Vol. 3
6月から始まった資料保存ワークショップ番外編「修理の日」。
ぼちぼちと画集の修理に取り組んでいます。
図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!と先にお伝えします。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。
これまでの記録はこちら。
・Vol. 1
6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
・Vol. 2
7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
11月5日(土)は、画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミを取るべく、塩素系漂白剤、いわゆるハイターを使った漂白実験を行いました。
図書館現場でハイターなんて恐ろしくて使えません!これって、大学や専門図書館に限ってでしょうか?
人への影響はもちろんですが、他の所蔵資料への影響、経年による劣化への危惧などの観点からかと思えます。
もしかしたら、扱う資料の異なる公共図書館だと使用することもあるのでしょうか?
少し余談になりますが、私が以前短期間派遣職員で勤めていたある大学図書館では、ガンジー(ガンヂー)という2液性のインク消し薬剤で本の書き込みを消す作業を閲覧の合間にしていましたが、塗るとみるみると文字が消えるその反応から、あれも塩素系漂白剤からできているのではないかと思いだされます。
気になったのでガンジーのことを今さら検索してみましたが、メーカーが数年前に廃業したような記事があり、もしかしたらガンジーは徐々に入手が難しくなるかもしれません。
そうなると余計に成分を知りたいのと、実験用にも手に入れておきたい気持ちが湧いてきました。
ちなみに私の勤めていたその大学図書館では、2タイプのガンジーを使い分けていて、万年筆用とボールペン用だったようです。それらの成分の違いもまた気になります。
いずれも本文は全く消えず書き込みだけが消える不思議。
ハイターを使っての私たちの修理に話を戻します。
「実験的本の修理」とテーマを銘打っていますので、物は試しです。
そもそも、なぜ本の修理にその過激なハイターを使用してみようと思ったのか。
一つは、資料保存ワークショップ主宰M.T.氏が以前、個人的にされた本の改装で本文紙を一枚ずつ外して、ハイター液に浸して本文紙の黄ばみやシミ取りをしたことがあると聞いたこと。
驚いてその時の様子をたくさん聞きましたが、紙はきれいになって、印刷の文字が消えることもなかった、とのお話。
それから、古書店の方やなんかが、書き込み、食べ物、飲み物のシミ取りにハイターを使われているという記事がネット検索で上がってくることが動機となりました。
ただ、ここまで聞いた、得た、情報と違うことは、私たちの場合は本文紙ではなく、表紙のクロスの漂白に使うということ。
表紙クロスの汚れの状態は、これまでの記事でも確認いただけます。
麻の様な荒めのクロス張りの生成色の表紙に全体的に茶色いシミや斑点が浮かび上がっています。
油絵の絵かきだった父の恩師の持ち物なので、油絵具と思われる汚れもところどころにあります。
それにしても、ハイターは希釈なのか原液なのか、明記したネット記事が見つかりません。
安全策として、まずはかなり希釈した濃度から徐々にハイター原液へと段階的に試してみました。
■表紙クロスの漂白(部分的)
今回はクロスを芯材のボードから外すことはしないので、水分を多く含んで、クロスがボードから浮いてしまったり、色見返しにしみ出すなんてことを避けるために、ハイターを塗布したら、ウエスを噛ませてプレスして水分を吸いとるように慎重に行いました。
余分な水分を吸い取るためプレスに挟む際に重ねたものの層
————————–
プレス上板
クリアファイル(水分を通さないようにするため)
キッチンペーパー
表紙クロス
表紙
色見返し
白い紙
クリアファイル(水分を通さないようにするための用途)
色見返し
白いコピー用紙
カッターマット
レジャーシート
プレス下板
机
※表紙クロス、表紙、色見返しは全て芯材ボードに貼り付いたままの状態
■ 塩素系漂白剤(ハイター)の希釈倍率と実験工程と結果
① 水希釈10倍 含ませた布を5分当てる → 10カウント & 1min. プレス
→ 変化なし
② 水希釈5倍 含ませた小さい布をピンセットでつまんで直接シミにトントンと当てる → 1min. プレス → 濡れているのでキッチンペーパーを当てて 5min. 重し
→ 変化さほどなし
③ 水希釈2.5倍 Bと同様の方法
→ 少し漂白された!
④ 原液100% Bと同様の方法
→ みるみる漂白された!フォクシングが消えた!クロスが薄緑色?のように変色して見えた。
場所を変えて、段階的に①~④まで実験しましたが、結局④の原液でないと、目に見えた漂白にならないことが分かりました。
変色のような現象に警戒したが、後日確認すると、元のクロスの色に馴染んでいました。
恐らく水分を含んで色が濃く見えたのでしょう。
後日どこに実験したか分かるように、希釈の割合をマスキングテープにメモして貼り付けたのだけど、それでもどこを漂白したのか、行った本人ですらよくわからないほど周りの元のクロスと馴染んでいました。(柄物のマスキングテープで控えたのは、見づらく反省。)
ネット記事でも希釈濃度に触れらていなかったのは、ハイター原液そのものだったからと確信したのでした。
次回は、クロス全面にハイター漂白をかけるのか、かけるとしたらどのように行うか。
ご期待ください(?)
また話は少し変わります。
下記の過去記事でもふれたように、この11月の一ヶ月間、2022年度図書館総合展のポスターセッションへオンライン出展していました。
東京で同じように資料保存や資料の修理について興味をもち活動する仲間と「修理系司書の集い」という名前で、「資料保存の現場見える化アンケート」の募集をメインにしたものでした。
資料保存の現場見える化アンケート:<https://www.libraryfair.jp/poster/2022/86>
おかげさまで期間中の閲覧回数は、1181件
アンケートの回答は、68件
ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました!
大学、専門、公共と図書館の種類を限定せず、個人も特定ができないような形での募集ですが、修理に携わる職員の雇用形態、使われる道具は主に何を使っているか、引き継ぎがあるかどうか、専用のデスクがあるか、など様々な現場の状況を知ることができました。
一週間ごとにアンケート結果を公表し、感想を自由に書き込んでいただけるページもご用意していたのですが、感想書き込みをあまり頂くことができなかったのは残念でしたが、そういったことも全て含めて、ここで得た結果をどう反映させて活動してゆくべきか。
この一ヶ月で得た貴重なアンケート結果を今後、保存公開してゆく方法も現在模索中です。
形が整い次第、またこちらで案内させてください。
2022年度図書館総合展のポスターセッション会場のページはアーカイブとして1年間閲覧できます。
アンケートの募集は終了していますが、この記事でご興味持たれた方にもまたご覧頂けるとうれしいです。
2022年度図書館総合展出展関係過去記事はこちらもどうぞ。
・京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]71
図書館総合展 ポスターセッションに出展します
「修理系司書の集い」と申します!
・京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]72
図書館資料保存ワークショップ 番外編
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