図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㉚
どこを直したの?
年度末、年度初めで通常業務は繁忙期。
おまけに今年はうーんと長い連休。
世間の皆さんはどのように過ごされたのでしょうか。
私たち資料保存ワークショップの活動は月2回木曜の開催。というとこまでは決まっていますが、いつも前もって参加人数の多い木曜をあらかじめ調査し、お借りしているお部屋の空き状況を確認した上で決定しているので、不定期のようなものです。
そうすると、毎回同じメンバーが参加できるわけでもなく、手を付けた破損本の修理が1回のワークショップで完了するということも難しいわけです。
例えば、一部にわずかな破れがあるだけの破損本のようにごく簡単な工程で済むものでも、糊付けすれば、糊が乾燥し補修がきちんとできたか確認するまでの時間が必要になってくるのです。
となると、1冊の破損本でも作業の途中から別の人物が続きの修理を行うこともしばしば。
乾燥後、包帯をほどいたり、プレスから外したりして、原物を見て修理状態を確認する段階から別の人が行わなければならないこともあります。
そんな時、どこを直したのか見定めるのは、
和紙の貼付けられた部分、本文の開きやのどのゆるみ、見返しののどの部分、背の部分
など、とりあえず本をくまなく見ることしかありません。
手前味噌になってしまいますが、最近のワークショップは製本に長けた学外の方のご協力もあり、とても美しい修理本が増えてきました。
専用の道具を使われたり、色つきの工芸和紙を使ったりして、元々の状態になるべく合わせた修理がなされるようになったので、この修理した箇所を見極めるのもなかなか難しくなりました。
今回はそんな修理後の破損本をいくつかご紹介したいと思います。
写真と合わせてご覧ください。
■修理本①
暗めの茶色の背表紙なので一見すると分かりません。
しかし、背を近くでよく見ると革装になった背の周囲を色味の似た和紙で補修してあります。
革は劣化すると、乾燥で革の油分がなくなり、触ると赤茶色の粉状になり、ぽろぽろと崩れるレッドロットという現象がおきます。
<参考:図書館資料保存ワークショップ 2017/10/15の記事>
油分を補い補修する方法もありますが、今回は背の部分だけなので、和紙で補修。
■修理本②
ちょっと液が染みたようにも見えますが、これも完全に外れてしまった背を両側から和紙で補い繋げています。
■修理本③
これも外側からは修理したのか分からず、する必要があるのかとも思えてしまう程ですが、開いてみると・・・
修理箇所1, 2から表紙と表紙側見返し、裏表紙と裏表紙側見返しを和紙でつないでいるので表紙、裏表紙、背がごっそりと本文から外れていたことが分かります。
背を覗いてみると修理箇所3から、白いクータによる補強も見られます。
<参考:図書館資料保存ワークショップ 2018/07/15の記事>
■修理本④
きれいなピンク色の表紙ですが、よく見ると背を囲むように似た色味の和紙で補修が見られます。修理箇所1,2から表紙、裏表紙と背の間のみぞを補修した和紙が内側見返しまで返りがあるのが分かります。補修した和紙がはがれにくくなりますね。
図書館の本の破損で「背が外れる」というのはとてもよくあるケースです。
本文がぶ厚かったり、重たかったりして、表紙、裏表紙とつなぐ見返しののどに負荷がかかるためです。
今回は「背外れ」の修理紹介ばかりになってしまいましたが、他の破損のケースもまたこちらで紹介したいと思います。
ところで、ここまで書いておいてなんですが、「どこを直したか」探さないといけない状態になるその前にできることがあります。
破損状況や修理計画、進捗状況などを記しておくことはとても大切です。
それは、私たちワークショップのように複数人で1冊の本を修理するという現場に限らず言えること。
1冊ずつ「カルテをつける」ということが修理作業をスムーズにさせます。
まるで本のお医者さん!
この、本の修理カルテ、専門部署や業者では取り入れられているところも多く、その形式も色々のようです。
私たちワークショップもこのようなことを経験し、カルテの必要性を感じるようになり、最近ようやく実験的に作成しだしました。
この「カルテ」についても、今後このWEBMAGAZINEで書かせて頂けたらと思っています。
資料保存WS
小梅