三星インキ株式会社
顔料の影響に起因しないで起こる色の変化『黄変』
今回は顔料の影響に起因しないで起こる色の変化について説明させて頂きます。
前回は顔料が光(紫外線)の影響によって発色しなくなることで退色すると書かせて頂きましたが、では元々色がないインキには紫外線の影響を受けないのでしょうか?
元々色がないインキとしては、色インキの上に印刷して擦れ取れを抑える(保護する)目的や印刷物の意匠性を高めるために艶感を出す目的などとして使用されるオーバーコートニス(OPニス)、インキ濃度を調整する(薄める)ために使用するメジウムインキなどがあります(白インキも色のないインキとも言えます)。
これらインキは配合的に顔料を使用していない、あるいは発色しない顔料(体質顔料や酸化チタン)を使用しており、外的要因によってこれ以上退色する(色がなくなる)ということは起こりません(元々色がないんですから)。
ただ実際は、外的要因によって色がなくならず、逆に着色するという現象が起こります。
印刷現場で刷りたての印刷物と少し時間の経った印刷物(刷り見本)を見比べた時、刷り見本の方が黄っぽいなぁと感じられたことがあると思います。
光の当たらない場所にきちんと保管していたにもかかわらず、全体的に黄っぽくなっていたり、OPニスの上刷り有無の境目がくっきり明確になっていたりします。
この現象は起こった状況のまま『黄変』と呼び、印刷インキに対してだけではなく様々なもので発生し、そう呼ばれています。
ではなぜ『黄変』が発生するのでしょうか?
やはり1つは紫外線の影響が挙げられます。
既に周知頂いている通り、紫外線の持つ強い透過性が物質そのものの構造を破壊・変化させ、新たに発色団のような構造がつくられることで着色することがあります。
紫外線が与える影響については、過去数度にわたって書かせて頂いているので、そのコラムを参照下さい。
なお、紫外線を利用して皮膜形成を行う紫外線硬化型インキに関しても、紫外線が照射されることで皮膜形成が行われると同時に、実は構造の破壊による着色も同時に起こっているのです。
そして紫外線硬化型インキで発生する着色現象は、皮膜として形成するUV樹脂(オリゴマー・モノマーなど)の構造変化だけではなく、光開始剤が開裂して電子を放出した後の残渣が影響を与えることも知られています。(図1)
なお、通常の色インキであれば黄変による着色力よりも顔料による着色力の方が強いため、上記反応による着色はあまり目立ちませんが、色のないインキの場合はわずかの着色でも目立ってしまいます。
このことから、インキメーカーは色のない紫外線硬化型インキを設計する際、色インキに使用している材料の中には使用できない(着色しやすい)ものがあるため、UV樹脂や光開始剤の選定には十分留意しています(材料によっては紫外線照射すると黄インキですか?と思うほど黄色くなることがあります)。
ただし、あくまでも黄変しにくい材料を使用しているということだけであり、紫外線照射条件が強すぎる(出力が強い、高感度型紫外線硬化型(LED対応、省電力対応)インキを通常の紫外線照射装置で使用される)場合や、硬化不良を考慮して光開始剤を過剰に添加した場合などは黄変の発生や促進に繋がりますので、印刷条件についても十分留意して下さい。
では光が当たらない場所に保管していた印刷物が黄っぽくなっている現象は、いったいなぜ起こるのでしょうか?
この現象は特に平版印刷用油性インキを使用した印刷物に発生することが多いのです。
次回はこの点についてご説明させて頂きます。