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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]
自分たちで治したい!
図書館員による図書館の蔵書の修理・修復

自分たちで治したい! 図書館員による図書館の蔵書の修理・修復 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ

私たちは大学の図書館に勤めながら、身近な仕事相手でもある本を自分の手で修理したいとワークショップを開いています。

そもそも図書館の本の修理・修復では、ある外国での災害がきっかけとなり、大変革がありました。

1966年11月4日、イタリアのフィレンツェ市中を流れるアルノ川が氾濫し、多くの史蹟、博物館資料、図書館・文書館資料が水浸し、泥まみれになりました。フィレンツェのことですから、ダンテ、ミケランジェロ、ダビンチ等の手稿本など貴重な資料が200万点も被害にあったといわれています。世界中の文化財修復家や保存に携わるひとびとがフィレンツェにはせ参じました。イギリス、アメリカ、ドイツ、デンマークから集まった彼ら彼女らは災害現場で修復技術をはじめ、今後の修復のあり方は?などの国際交流も果たしました。

そして、それまでは図書館などでは見過ごされがちだった、資料保存という意識を喚起させることになり、修復技術の国際交流、修復技術教育の重要性が世界中に広まって行きました。

その結果、国際図書館連盟(IFLA)も図書館資料の保存・修復に取り組み、1979年、「IFLA保存・修復の原則」を発表しました。その考え方は第一の柱「治療より予防」、第二の柱「オリジナルの尊重・維持」、第三の柱「大量保存の考え方」でした。

特に第三の柱について、修復家にとってはフィレンツェで膨大な資料を処置しなければならない経験は初めてのものでした。それまでは修復工房で数点の貴重本にじっくり取り組んでいたものが、フィレンツェでは数十万点の資料を即座に最適な処置を施さなくてはなりません。これこそ数万、数十万の蔵書を抱える図書館という修復現場に応用されるべき考え方でした。

自己紹介が長くなりました。こんな近々の現代史があるのですが、現実は私たちの職場で本の修理・修復、保存などについては、専門部署もありませんし、予算も組み込まれていません。

日本古来の文化財、絵画、巻物、掛け軸などは装潢師と呼ばれる修復の専門家が活躍しています。が、幕末明治初期以後、大量の洋書が大学に輸入されたにもかかわらず、百年以上経た現代で、その修復の専門家は未だに日本の大学図書館では数か所にしか居ないという状況です。

私たちのワークショップも全く自主的なものです。何とか大学内に場所を借りて勤務時間外に本の修理や、書物の歴史や製本、印刷についても勉強を続けています。

13年が過ぎた今年10月、ついさきごろ大学図書館から飛び出して、大津市立図書館で「本の修理講座」に呼んでいただき、公共図書館の司書の方たち、図書館の利用者の方たちとワークショップを行うことができました。

大学図書館と公共図書館では、所蔵する本の種類も異なり、量も桁違いです。しかし、本の修理の原則は同じこと。などなど。。。その話題はまた次回以後に書かせていただきます。

京都大学図書館資料保存WS
N.T.

自分たちで治したい! 図書館員による図書館の蔵書の修理・修復 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ