三星インキ株式会社
『印刷インキ・色イロ』 04.インキの性能について
インキの性能を確認する方法として、前述の通り、印刷方式に関係なく、大まかに4点が挙げられます。
①インキの硬さ(流れ・粘度・曳き)
②色(色相・濃度・光沢)
③印刷時の性能(乾燥・ノンスキン・乳化適性(平版印刷))
④印刷物となってからの性能(耐摩擦性・耐光性・耐溶剤性)
まずインキの硬さについて説明します。
インキの硬さ
a)流れ
インキがどれだけ流れるかという事で、印刷方式により適正な流れが必要であり、流れ過ぎる場合、オフセットインキの場合は非画線部への汚れの原因に繋がり、逆に流れない場合は転移不良等が起こりやすくなります。
平行板粘度計等で測定され、流動性やフローという表現をされます。
b)粘度
インキの粘りがどれだけあるかという事で、粘りが強すぎると転移不良等が起こりやすく、粘度がないとインキ濃度を上げる事ができない、非画線部が汚れるといった事が起こります。
B型粘度計・ザーンカップ粘度計・E型粘度計等で測定されます。
c)曳き
曳きはオフセット印刷の場合によく使われる表現であり、インキを引きちぎろうとする際に発生する抵抗する力を表し、インキ同士の引き合う力とも言えます。インキの曳きが強いと紙の表面を剥がす、転移しにくくなるといった現象が起こり、逆に弱いとインキが霧状に飛散する(ミスチング)、水負けしやすくなる等の現象が起こります。
インコメーター等で測定され、タックという表現をされます。
全てのインキとも上記3項目は関連していますが、特にオフセットインキは関連性が高いです。これは印刷方式によるもので、オフセットインキ(平版印刷)の場合は水との反発によって画線部を形成し、更に印刷速度も速い事から、タック・フロー・粘度全ての条件が揃わないと良い印刷物を得る事ができません。尚、オフセットインキ以外のインキの場合、インキの硬さを表現するのは粘度が最も多く使用されます。
今回特にオフセットインキでのタック・フロー・粘度の関連性について説明します。
タック・フロー・粘度の関連性
タック・フロー・粘度はオフセットインキの場合は関連性が高く、一般的にタックが高くなるとフローが小さくなりインキが硬くなる、フローが大きくなるとタック・粘度も下がりインキが軟らかくなる、粘度が下がるとタックが下がりフローが上がりインキが軟らかくなる と言われています。
印刷されている際にインキが硬く、調整しようとして助剤を添加される場合があると思いますが、レヂューサーとコンパウンド、どっちを使用すればよいかわからないという事を耳にする事があります。基本的にレヂューサーはインキの流動性を付与する(フローを上げる)、コンパウンドはインキの腰を切る(タックを下げる)という働きを有する助剤であり、インキの転移性が悪い場合はレヂューサーを、紙剥けが発生する、あるいはインキの上乗り性が悪い場合はコンパウンドを添加して頂ければと思います。ただ、あくまでも助剤であり、添加量が多くなると印刷適性等に悪影響を与える事になりますので、使用方法や最適添加量等はインキメーカーにご確認頂きたいと思います。
また、オフセットインキは他のインキよりも温度の影響を受けやすく、インキメーカーとしては夏場と冬場でインキ調子の基準値も変えており、夏場は硬め、冬場は軟らかめに設定しています。従って、印刷される環境に合わせてインキの選定を行って頂ければ、問題なく印刷する事ができると思います。
表.aは弊社製品(オフセットインキ)の温度による粘度とフローへの影響をまとめた表です。温度が10℃上がると粘度は1/2となり、フローも大きくなる事が確認できます。
以上がオフセットインキに関するインキ調子の関連ですが、活版インキや他のインキに関しても基本的にはオフセットインキと同じく温度の影響を受け、特に活版インキは硬めのインキ調子である為、他の低粘度型インキに比べると影響を受けやすく、インキが硬すぎると原反への転移が悪く濃度が出ない、逆に軟らかいとマージナルが出やすくなるといった事が起こりますので作業環境を考慮して印刷して頂ければと思います。尚、活版印刷の場合はインキの曳き(タック)よりも流れ(フロー)や粘度に起因しますので、インキが硬い場合はレヂューサーでの調整が適用かと思います。
色相
次に色相について説明します。
色を見るというのは非常に難しく、昔は人の目を頼りに色管理等を行ってきましたが、色を確認する人や光源の違い(天候や季節)、その時のコンディション(休日明け、睡眠不足時は色が見にくい)等で色の見え方が異なっていましたが、現在ではコンピューターや測色計等によって色を管理しており、今までのような差は発生する事はありません。
上記の通り、現在はCCM(コンピューターカラーマッチングシステム)を用いて色管理を行っており、一般的にLab表色系、XYZ表色系と呼ばれる方法で色を特定しています。
インキメーカーはこれらの方法を用いてインキの色の違いを算出し、調整を行って目標の色を再現して出荷しています。
尚、印刷現場等でインキを混ぜて希望の色を作ろうとする際、なんとなく近いけれどもなぜか違うという経験をされた事があると思います。我々のように特色を長年製造していても再現するのが難しい色(特に茶・紫・グレー系統)があり、何度も設計をし直す事もあります。しかし一般の方よりもテクニックは上であると自負しています。そこで希望の色を得やすくなるコツとして、以下の点を覚えておいて下さい。
a)異なる色を混ぜると必ず色は濁る
同じ草系統のインキでも、草顔料を使用したインキと黄+藍顔料を使用した草インキでは、草顔料を使用したインキの方がきれいな色相となります。これは異なる色相のインキを混ぜると必ず色が濁る為で、できるだけ異なる色を混ぜない方が調色しやすくなるという事であります。
目標色がきれいな色相の場合は黄・紅・藍といったインキだけではなく、金赤・草・紫といったインキを上手に使用して下さい。
b)濁すのは簡単だがきれいにするのは難しい
上記a)の通り、色相が異なるインキを多く使えば色は濁り、また墨インキを使用すれば直ぐに濁ります。しかし濁った色をきれいにするのは難しいのです。
従って、目標色がある程度きれいな場合、近い色が出るまでは色相が大きく異なるインキや墨インキの使用は極力避けた方が良いです。何度も言いますが色を濁らせるのは簡単です。
c)色を濁すのは墨だけじゃない
上記b)で濁らせるのは簡単と言いましたが、調色していてもう少し濁りをつけたいなと思う時、安易に墨インキを使用していないでしょうか?確かに墨インキを使用すると簡単に濁りますが、これは他の色を消して濁らせているという事になり、今まで使用していた色が見えにくくなるという事であります。従って、もう少し濁りが欲しい時、墨インキを使用せず、今まで使用していたインキと色相が異なるインキを使用して濁らせるという手もあります。
d)薄くするのは簡単だが濃くするのは難しい
ある程度目標の色に近いものが調色できたが、若干濃く見えるのでメヂューム等で薄めるという事はよくあります。しかし添加量が多すぎてちょっと薄くなりすぎたので元に戻そうとしたが、色相が違う為にやり直したという事もあります。濃くするという事は、今まで使用していたインキを混ぜた割合で追加しないと濃度が上がらない為で、改めて最初から調色を始めるのと同じ事になります。従って、薄める際は注意力が必要という事になります。
以上の事から、調色を進める際のコツとしては、使用するインキの種類を少なくして目標の色よりもやや濃く、きれいめに調色し、最後に濁す、薄めるという調整をすれば調色も失敗しにくくなると思いますので参考にして下さい。
印刷時に与える性能
次に印刷時に与える性能について説明します。
乾燥・ノンスキン性
印刷時に機械上でインキが乾く、逆に印刷物が乾かないという問題が発生する事があります。これらはインキの乾燥・ノンスキン性(皮張り性)が与える影響であります。
乾燥が早すぎると、インキが版面で乾燥して皮膜を形成する、インキの粘度が上がる等の現象が起こり、インキの転移不良やひどい場合は版の交換が必要となります。
逆に乾燥が遅い場合は皮膜を形成する事ができず、耐摩不良等の現象が発生します。
インキの乾燥性も温度・湿度の影響を受けやすく、蒸発乾燥の場合は温度が高いと溶剤の揮発がしやすくなる為に機上で乾くという事も起こり、逆に温度が低いと溶剤が揮発せずに残り、皮膜の強度不足、裏移り等の現象が発生します。但し、グラビア印刷等は印刷機の最終で加温した空気を当てる工程があり、外気温が低くてもある程度溶剤の揮発が促進されるようになっています。
これに対して油性オフセット印刷は、空気中の酸素と酸化する事で皮膜を形成までに数時間かかり、更に化学的な変化の為、温度と湿度の影響を受けやすい乾燥機構となっています。
一般的に温度が上がれば乾燥は早くなり、湿度が上がれば乾燥は遅くなります。表.bは弊社オフセットインキの温度と乾燥の関連をグラフ化したものです。温度が下がると丸一日経過しても完全に乾燥しない事が分かります。従って冬場ではお肌同様乾燥トラブルが起こりやすくなりますので、印刷物を保管する環境には十分注意して下さい。
湿度に関しては作業環境の影響(梅雨時、降雨時)もありますが、印刷時に使用する湿し水も乾燥に影響を与えます。できるだけ水を絞って印刷し、十分に風入れなどを行って除湿を心掛けて頂ければと思います。
尚、インキ以外でも用紙が乾燥性に影響を与える事も憶えていて下さい。以下に用紙とインキの乾燥性について説明致します。
用紙がインキの乾燥性に与える影響
・再生紙の使用
最近は特に環境面を考慮して再生紙等が多く使われるようになりました。再生紙は一度使用した紙を再度繊維までほぐし、改めて紙を漉いて製造するのですが、ほぐす前の紙にはインキや表面塗工などが付着している事が多く、そのまま紙にすると白度が出ない為に漂白する事が多いです。その漂白に使用する漂白剤は酸性物質が多く使われており、再生紙は酸性の高い用紙になる傾向にあります。酸化重合の場合、酸性が高いとインキが乾燥する際に必要な酸素を取り込む力が抑えられ、乾燥性が遅くなる傾向になりますので注意が必要です。
・非塗工紙の使用
紙の表面に何も処理をしていない非塗工紙(ノンコート紙)の場合、紙の繊維の中にインキが浸透する為、空気と接触しにくくなり、酸素を取り込めなくなるので酸化重合の場合は注意が必要です。
・特殊用紙の使用
最近は特殊な印刷効果を再現する為に、紙の表面に特殊な処理を施した用紙も存在します。例えば、粒径の大きな顔料を使用して紙の表面を塗工してマット調にする、逆に艶を出すために紙の表面をできるだけ平滑にする、紙の強度を出すためにフィルムを貼る、等が挙げられます。このような特殊用紙の場合、インキが紙に浸透し過ぎる、またはまったく紙に浸透しないという事が起こる事があり、乾燥に影響を与える事がありますので、新しい特殊な紙をご使用される場合は用紙メーカーに事前にご確認された方が良いかと思います。
以上のように用紙によっても乾燥性に影響を与えますので、留意して頂くとありがたいです。
印刷物になってからの性能
次に印刷物になってからの性能について説明します。
一般的に印刷物になってから起こり得る問題として良くあるのが耐摩不良や変褪色などです。
・耐摩不良
耐摩不良とは、印刷物が何らかの原因で擦れ、皮膜表面にキズが入るという現象で、様々な原因がありますが、一般的には以下の要因があります。
a)乾燥不良
インキが完全に乾燥していない状態では皮膜の強度が不足する為、弱い力でも表面に傷が入りやすくなる。気温が下がる冬場や印刷してすぐに納品する等の場合に起こりやすい。
b)耐摩擦強化剤の不適切
インキには耐摩擦性を向上させる為に耐摩擦強化剤という助剤を使用していますが、この耐摩擦強化剤の種類及び添加量が印刷物の使用目的に適応していない為に強度が不足する。
c)目的に応じた処理をしていない
ケースの外箱など擦れる事が事前に分かっている印刷物を作る際に、オーバーコートなどの後加工処理をしないなど、印刷物の使用用途に適した処理を行わない場合に起こる。
d)用紙による影響
非塗工紙等を使用された場合、本来皮膜の上部に存在する事で効果を発揮する耐摩擦強化剤が用紙中に浸透してしまい、耐摩擦強化剤の役割を果たさなくなり、耐摩擦性が低下する。
また表面に凹凸がある用紙等は凸部に圧がかかりやすく、擦れ取られが発生する。
以上の通り、耐摩不良はインキに起因するだけではなく、その他影響もありますので、注意してもらえたらと思います。
・耐光性不良
外に貼ってあるポスター等が時間と共に青くなっているのを見られた事がよくあると思います。これは光等によって色が変わる、あるいはなくなる事によって起こっており、特に黄・紅は藍・墨に比べて起こりやすい傾向にあります。これは色材で使用している顔料の特性(耐光性)が黄・紅は弱い傾向にある為であり、鮮明な色調ほど、耐光性は弱くなる傾向にあります。
尚、各インキメーカーは耐光性の良好な顔料を使用したインキを有していますので、耐光性が必要な用途の場合は事前にご確認された方が良いと思います。
・耐溶剤性
印刷物の耐摩擦性を向上させる為に後加工処理を施す際、溶剤型や水性型のオーバーコートをされる事があると思いますが、オーバーコートするインキの中に含まれる溶剤の影響で色が変わる、あるいは溶け出すという事があります。これは耐光性同様、使用している色材の影響によるもので、やはり鮮明な色調を有するものほど、その傾向は強くなります。また、染料タイプの色材を使用している場合も起こりやすい傾向にありますので、このような場合も事前に確認された方が良いと思います。
非常に簡単ですが、印刷物としての性能は以上の通りです。