図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㊴
九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その2
前回のコラム[図書館に修復室をツクろう!]㊳「九州大学へゆく!「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」参加報告 その1」では、2019年12月12日(木)~13日(金)の2日間に渡って九州大学附属図書館で開催された「九州地区西洋古典資料保存講習会・実習」の1日目、12日(木)「講習会」についての報告を書かせてもらいました。
今回はその続きで、
2日目の2019年12月13日(金)に開催された「実習」について、振り返りながら書いてみたい。
一橋大学社会科学古典資料センター篠田飛鳥氏指導により、資料をしまっておく為の、保存箱、保護ジャケットの作成を行いました。
参加者は、1日目の50名からぐんと絞られて10名。
九州大学中央図書館の職員方もたくさん就いてくださり、分からないことはすぐに尋ねることができ、作業の誤りにもすぐに気づいてもらえる安心の環境でした。
1つ目の作成物は、書店でよくかけてくれるブックカバーのような保護ジャケットを作成するのですが、ジャケットや保存箱に入れる前に必ずクリーニングを行うということを教わります。
資料についた埃は、カビを呼ぶ元となります。
基本的なこととしてわきまえておきたい、簡単だけれど大切な工程です。
表紙、背表紙、天、小口、地と薄手の緑色の布巾で、紙の流れに逆らわないよう、軽くなでるようにふき取ります。
布巾は、テックリンドライ(株式会社フミテック)というものを使用しました。
指の指紋やちょっとした手の皮膚のささくれさえもひっかるような、細かな繊維の感触の布巾です。
クリーニングを終えた本に保護ジャケット用の中性紙を当てて採寸。
角の丸みや表紙・背表紙の厚みは定規を使って採寸してゆくのではなく、保護ジャケット用の紙を現物に当てて折り筋をつけてゆく。
本は、整った四角形に見えて若干のゆがみがあることも多く、自分の感覚で数字ではない寸法どりをすることの大切さを伝えられていました。
そして、紙の角は必ずどこも丸くカットすること。
この保護ジャケット、前回のコラムで触れた、革装本のレッドロットに対する一時的な措置にも良さそうでした。
続いて、私たち資料保存ワークショップで目下取り組み中。私としてはお待ちかね状態だった保存箱作りに移ります。
事前の持ち物の連絡で、A5くらいで厚さ3~4cmと指定のあった私物の図書を入れられる保存箱を作成します。
まずは、完成後外側になるパーツから。
今回は、前日に参加者それぞれの私物の本を預かられ、本の計測器で採寸し、高さのみ合わせてカットして下さっていたAFハードボード(0.63ミリ)に寸法どりしていきます。
私の私物図書は、指定サイズにかなり近いものを持って行ったので、ハードカバーではないにしろ重みもある本でしたが、保存箱外側のパーツに使用するAFボードの厚みは、0.63ミリで扱いやすさもありつつ、十分丈夫そうに感じました。
このところ、私たちワークショップで製作に取り組んだ保存箱は、ボードの厚み1ミリ。
全紙大の状態だと、分厚さはそれほど感じ無いものでしたが、寸法を測ったり、切り折りするのには非常に硬く、折り目を付けても割れやすく、元に戻ろうとする力が強く働く。女性の力で扱うには非常につらいものでした。
内側になるパーツは、アーカイバルボードを使用しました。
アーカイバルボードとは、段ボールのように波形になった紙が挟まれた中性紙です。
これを直接資料に触れる内側のパーツに使うのは、クッションの役割を果たしてくれるということですが、それほど重みのない資料を包む場合は、内側も外側同様のAFボードで十分のようでした。
アーカイバルボードの紙の目は、中に挟まれた波形の紙の波と同じ向きだと折りやすいのですが、波に対し直角が紙の目だということです。
波の筋にヘラやカッターを持っていかれそうになるので、切る、折る、の作業は慎重を期します。
内側と外側のパーツを重ね合わせるところは、ホームセンターで売っているような薄型の強力タイプの両面テープで良いとのこと。
直接本に触れる場所ではないからという理由です。
最後、箱をふさぐ部分は、ワークショップでは、マジックテープを付ける?蓋と本体に紐をつける?ただ本体をぐるっと紐で結んでとめる?等、案は出るものの、方向性がまとまらないままでしたが、ここでは本体に差し込み口、蓋となる部分に差し込み部を作ることで蓋を閉じる形状。
別の材料も不要で、糊も使わず、本体と一体型なので外れる心配も無く、作りやすく扱いやすい印象を受けました。
私たちワークショップで、試行錯誤していた保存箱作成の寸法どりは、1枚のボードに箱の展開図を取る方法。
しかしこれでは、切り取った後のボードの形は、凸凹で再利用の際に悩ませられるもの。重なる部分の紙の余分を出さないことよりも、教わった外側と内側をそれぞれ1枚ずつ合計2枚のボードを使用する方が、残ったボードの再利用はしやすいということを学びました。
保存箱のボードの角、保護ジャケットの用紙の角、共に角は丸くカットすることは共通で、保存箱のボードをカットした後は切り口の辺をヘラでなでるというひと手間を加えることを教わりました。ちょっとしたことですが、これによってそれらの部位とそれが当たる資料の部位の劣化速度は、そのままよりは確実に緩やかになるでしょう。
細やかな心配りにも感心しました。
こういった保存箱作成の作業は、対象の資料を見つける度に行うのではなく、複数冊分をまとめて一度に作成することで効率性を図れること。そして、保存箱の折りしろや立ち上がり部分の寸法の割り出し方は、レジュメに記載もされていますが、作業に取り掛かる前に対象資料の各部位の寸法を入力すると、それに合った保存箱の各部位の寸法がすぐに算出されるよう、計算式の入力されたリストをExcelで作ったり、差し込み口や差し込み部分の位置は、当てるだけで分かるガイドを作っておくことを勧めておられました。
1日目にも感じたことですが、直す技術のことだけではなく、記録の重要性を感じる実習でした。
実習のあとは、貴重書室や虫害水害に役立つ冷凍庫のある作業室など案内してもらい、施設や道具の豊かさにうらやみつつも、そのような現場を見ることができた満足感を胸に帰京してきました。
今すぐ同じことを私たちの現場で行ってゆくことは、正直難しいですが、知っておき、志ある人に伝え、チャンスが訪れた時に実行していきたいと強く思った2日間でした。
1日目、2019年12月12日(木)開催の講習会配布資料は、九州大学附属図書館Webサイトからダウンロードが可能です。
< https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/20191212 >
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小梅