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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]74
更に「新たな一頁」へ!

2023年最初のWEB MAGAZINEで、うれしい報告をいたします。

昨年11月1ヶ月間にわたり開催された『図書館総合展』のポスターセッションへの<資料保存の現場見える化アンケート>出展を WEB MAGAZINE「修復室をツクろう!」717273号でお知らせして来ました。

その展示に「来場者投票賞第2位」および主催者である株式会社カルチャー・ジャパンから「カルチャー・ジャパン賞」をいただきました。
ロゴはWEB MAGAZINE「修復室をツクろう!」の執筆者でもある小梅さんによるものです。その飄々とした本のお医者さんと手作業に使う大事な道具類の手書きイラストは本好きの図書館総合展来場者の目を惹いたのに違いありません。

(写真1) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)ロゴお医者さん

(写真2) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)修理道具

展示内容については、WEB MAGAZINE「修復室をツクろう!」717273号をご覧いただきたいのですが、アンケートの内容を掻い摘んで記しますと、ページがやぶれたり、表紙が外れたりした本をどのように修理しているのかを23項目に渡って聞き、オンラインで図書館総合展ホームページ内に設けられたポスターセッション「修理系司書の集い」のページにポスター=アンケートを掲載し、回答してもらう。という方法です。

回答のまとめは開催中に3回に渡って中間報告を載せ、最終報告は1月中にも掲載する予定です。

ここには簡単に最終結果からの私個人の感想を書かせていただきます。回答数は68名。
私たちが知りたかった図書館で読まれ、貸し出されている本は、破損した時、図書館で実際に図書館の職員の手で治されているのか?どのような紙や糊などを使って治されているのか?館内のどの部署で?どのようなやり方で?などなど、細かな本の修理についてです。

大まかな印象的では
*大部分の図書館では、館内で修理が行われている。
*実際に修理をする人は「修理担当」ではなく、図書館カウンターなどで本を貸し出したりする「閲覧係」が多数。
*修理を実際に行っている人の身分は非正規職員が半数以上。
*修理の内容はページ破れなどの簡易な補修。
*使う材料は補修テープ、和紙、澱粉糊などの併用。
*修理を行う場所は特に設けられていない。修理マニュアルも業務用と言える様なものは少ない。
 などなどでした。
現場の状況は、正職員との指示や相談のうえ修理する本を選び、非正規職員が業務に即し
たマニュアルもなく、正職員からの詳細な指示もなく、独自の判断でカウンターや事務机
の一角で修理している。というものと思われます。

これまで、WEB MAGAZINEを読んでくださった方たちとのご縁で本の修理についての様々な交流が生まれました。たとえば、交響楽団の資料室の方は楽譜の修理、個人の蔵書でも洋書なのでどのように修理したら?教会で日常使う聖歌集の修理についてなど実際に京大のワークショップに参加なさった方たちもあり、また、遠方の方と京都駅の喫茶店で図書館の所蔵する古書の扱いや修理について、悩みを語り合ったこともありました。

そんな経験から、今回のアンケート結果はある程度予測可能なものでしたが、無いない尽くしのものだけに、「ああ!やっぱり」という感は否めません。

一方でアンケートの項目「修理に関するネットワークや交流会があったら参加したいですか?」には95%の「はい」の回答がありました。

私たち有志4名の「修理系司書の集い」の宿題が見えてきました。いや、見えてきてしまいました。

「修理系司書の集い」メンバーについて少し書かせてください。関東圏在住、関西圏在住2名ずつで、勤務地も同様です。勤務しているのは研究機関の委託スタッフ2名。大学図書館勤務1名。元大学図書館員1名です。筆者はこの元大学図書館員で、30数年京大図書館に勤務していました。年齢が分かってしまいますね。

「修理系司書の集い」グループが成立した経緯は「ご縁があって」としか言いようがないのですが、関東圏で図書館の資料保存に関心を寄せる方たちと関西圏では私たち図書館資料保存ワークショップのそれぞれのメンバーのうちの4名がzoomなどで交流するうち、図書館総合展ポスターセッションに参加して、もっと全国的に資料保存・修理の現場について知りたい。と思い切った。というところでしょうか。

さて、この度この4名で割りと気楽に図書館総合展に出展が実現した要因としては、御多分にもれず、コロナ禍でのオンライン開催が中心となったことが大きなものでした。現地開催では、出展のために横浜まで出向かなければなりませんが、それはメンバーが委託スタッフや国立大学図書館勤務、高齢者という状況では不可能でした。来年はオンライン開催と現地開催を並行して開かれるようですが。オンライン開催の利点である出展者と来場者の双方向のやり取りがもっと盛んになると面白いと感じます。

アンケート結果からお気づきのように図書館現場での修理担当は非正規職員が担っています。小梅さんがWEB MAGAZINE 71号に書いています様に日本の図書館では、修理に限らず図書館現場の業務は非正規職員が支えています。
「修理系司書の集い」メンバーにしても、リタイアーした私以外は勤務館の運営全般に関わり意思決定する仕事に携わっている訳ではありません。にもかかわらず仕事上の問題点を自分のこととして捉え、全国の同じ思いの仲間と交流し、自前で出展費用を負担し、個人の時間とスキルを使って、何をしたら良いのかを探そうとする。彼女たちの行動力で、少し先輩の私は自分の現役時代の不甲斐なさを思わせられ、また、この出展参加を喜び、楽しませてもらいました。

図書館に修復室をツクろう!としてワークショップを始めて20年になろうとしています。図書館総合展に初出展で賞をいただいた今日この日でも修復室ができる見通しはありません。が、このところ図書館のこれまでの歩みを振り返えさせられるような本が出版されています。

一冊は豊田恭子著『闘う図書館―アメリカのライブラリアンシップ』筑摩選書 2022年10月刊です。映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」で描かれていた住民の生活に密着した図書館サービスを提供するアメリカの公共図書館はどのように築かれてきたかを記しています。著者は“アメリカの図書館界は常に、現実と妥協するプラグマティズムをもちながら、理想主義の旗を降ろさない。社会の変化に即応し、柔軟に変容しながらも、現状を追認して終わらせることなく、あるべき姿を追い続ける。… これがアメリカのライブラリアンシップというものだろう。”と「おわりに」で記しています。私たちにも道しるべとなりそうな文言です。

(写真3) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)闘う図書館

もう一冊は向井和美著『読書会という幸福』岩波新書1932 2022年6月刊です。著者は学校図書館司書で翻訳家。文学作品を読書会で読み合うことの喜びや意味を訴えかけています。図書館員には読書家が多いと思われています。果たしてどうでしょうか?少なくとも私は文学作品の愛読者ではありません。図書館の利用者に本の感想を求めることは慎むべきではないか。というほどに読書は、とてもプライベートなことだと思ってきました。がしかし、この本によると数人が集まってフィクションならではの文学作品に著された「真実」を語り合える読書会は民主主義の象徴のようなものだ。と。そして、利用者に読書を薦める司書でありながら、大好きな作品は自分だけのものにしておきたい、と矛盾した思いも抱いていることを告白し、他人と文学を通して「人生」を語り合うことの意義深さを述べています。

(写真4) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)読書会という幸福

振り返れば図書館の原点とは本を読むことでした。今の私には「読書会の幸福」の実感はありませんが、この著作の本に対する読者の姿勢をもう一度、図書館の存在意義として考えてみなければいけないなあ。と感じた次第でした。

図書館資料保存ワークショップ M.T.

(写真1) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)ロゴお医者さん

(写真2) | 更に「新たな一頁」へ! - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)修理道具

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(写真3)闘う図書館

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(写真4)読書会という幸福