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森カズオ
文字のある風景⑫
『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~

文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

そもそも文字というものは、呪術的な儀式と密接に関わっていたと思われる。メソポタミア文明の楔文字にしても、エジプト文明のヒエログリフにしても、豊作の願いや豊凶に影響を与える天候などの占いを記録するために生み出された。黄河文明の漢字も出生の理由は同じようなところにある。

最古の帝国のひとつである「殷」においては、亀の甲羅や牛馬の骨を使って、作物の豊凶が占われた。いわゆる卜占というものだ。占いたい事項を記した骨や甲羅の裏に小さな穴を穿ち、そこに熱した鉄の棒を差し込む。しばらくすると表に卜形のひび割れが生じる。それを読み解いた内容も記する。そして、最終的にどうなったかも記される。これらの記録に使われた文字が、漢字の源流のひとつである「甲骨文字」。「亀甲獣骨文字」「甲骨文」とも呼ばれている。

骨に刻まれた甲骨文字 | 文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

骨に刻まれた甲骨文字

周知のことであるけれど、漢字は表意文字である。その源流は象形文字であるということだ。さまざまな実体や事象を形にした一種の絵文字と考えられる。だから、一目見れば、だいたいの意味を捉えることができるようになっている。日本人であっても、中国語を見て、なんとなく意を汲み取ることができるのは、そのためだ(ただし簡体字は、かなり省略が進んでいるので、分かりにくい。でも、繫体字ならかなり理解することができる)。

文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

以前、台北の故宮博物院で観たのだが、漢字の字形の変遷を動画で解説していた。それは、絵から文字になっていく移り変わりが、とても分かりやすく示されていた。「なるほど、絵を抽象化していって字へと昇華させた象形文字である」と納得することができた。絵のままで字のように利用したヒエログリフに比べて、東アジアに脈々と流れている精神、思想の源流のようなものが感じられる。引き算の文化があるのではないだろうか。

個人的な感想になるが、甲骨文字には、現在の漢字に比べて、より高いデザイン性があるのではないか、と感じている。それは、絵からの抽象化が現在の漢字ほど高められていない、つまり、まだまだ絵画的な匂いが色濃く残されているからではないか、と推測している。円や曲線の多用であるとか、書き文字ではなく刻み文字だったことも影響していると思われる。それらのおかげで、なんとも言えない“温かみ”が漂ってくるのである。

甲骨文字をモチーフにしたアート作品 『犬』 (森壹風作) | 文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

甲骨文字をモチーフにしたアート作品
『犬』
(森壹風作)

骨に刻んだ甲骨文字をはじめ、青銅器に彫られた金文、秦の始皇帝によって統合された小篆などの古代漢字は、アートのモチーフとして、とても魅力的ではないだろうか。文字を絵にする。先祖還りともいえるようなアプローチであるが、東アジアらしいオリジナルアートが生まれる可能性を感じる。

原稿を書き終えたら、白川静先生の名著『字統』を繰りながら、アートの妄想にふけってみたいと思う。文字の世界は、広くて深いのである。

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骨に刻まれた甲骨文字 | 文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

骨に刻まれた甲骨文字

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甲骨文字をモチーフにしたアート作品 『犬』 (森壹風作) | 文字のある風景⑫ 『甲骨文字』~卜占から生まれた絵文字~ - 森カズオ | 活版印刷研究所

甲骨文字をモチーフにしたアート作品
『犬』
(森壹風作)