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図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]83
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 8

図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
2023年9月9日(土)と10月7日(土)の2日に渡る記録です。

いきなりですが、2022年6月から始めた「修理の日」。
これまでこのWEBMAGAZINEのタイトルを「新たな取り組み「修理の日」。」としていましたが、
もう”新たな”取り組みでもなかろう、ということで、
今回から「資料保存ワークショップ番外編「修理の日」」というタイトルに変遷します。
ですが、内容は連続ものと捉えて下さい。

前回、2023年7月15日(土)は元の背表紙の内側に貼り付いた寒冷紗を剥がし、そこに付いていた硬化したボンドを取り除き、その寒冷紗を再利用するのかどうか、思案しました。
今回は、いよいよ本文の綴じ直しにかかります。
元々の綴じ穴は、9mm幅の綿テープがちょうどおさまる間隔に8つ開いています。

綴じ始めのスタートになる穴と、折り返しになる穴、それから2丁目以降、下の丁と繋ぐためのケトルステッチをするための、天と地(上下)それぞれ側に1か所ずつ、計2か所の穴が足りないので、まずはその穴あけ作業から始めます。
その綴じ穴のことを「シェネット」と呼ぶそうです。
そして、その穴を開ける動作、筋付けのことを「グレッケ」と呼ぶそうです。ギリシャ語だと聞きました。
グレッケからかがり台にセットして綴じるまでの作業を行いました。
順を追って作業を振り返ります。

■グレッケのやり方

1. ケトルステッチの位置を決める。
紙定規で本文の長さを採り、紙定規を※穴位置のガイドに当てて、紙定規に印を付ける。(写真1、2)

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)本文をエトーに挟み水平を出す

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)紙定規で印付け

2. グレッケする。
上下をカルトンで挟んだ状態で本文を整え、※エトーに背を上に向けた状態で挟む。
この時、水平器や直角定規等を使用し、背が水平になるように整える。
1.の紙定規を本文に当てて、紙定規の印の位置を今度は本文に印付けする。
印を付けた場所を糸鋸で削り筋付け=グレッケをする。
グレッケの深さは、糸鋸の刃の半分くらいにする。(写真3、4)

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)糸鋸でグレッケ

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)after グレッケ

―――

※ ガイド
ものことあとりえ一頁では製本家故山野上禮子氏のアトリエで学んだ主宰M. T. 氏による綴じ穴の位置決めのガイドがあるのです。
このガイドは、一番外側のラインが本の高さ。
そこから1つ内側のラインがケトルステッチの位置になるもの。中のラインは綴じ方による綴じ穴の位置を示すように作られています。
そういえば、このガイドが何を元に作られたかは・・・今後尋ねてみようと思います。

※ エトー
本の背の丸み出しや耳出し、主に背に加工をする際に使用するプレス機です。

■ かがり台を使って綴じる。

1. かがり台をセットする。
かがり台の上のバーに支持体にする綿テープを4本かけて※下の溝まで張ります。
支持体の張り具合は、かがり台の地板の下に忍ばせた釘に巻き付ける支持体の長さやバーに結んだ支持体の近くのピンで調整する。

2. 本文をかがリ台にセットする。
グレッケした本文を天が左側になるようにかがり台にセットする。
吊るした支持体を本文の元々の綴じ穴と綴じ穴の間に当たるように動かして微調整する。
一番下の丁だけ残して、2番目より上の丁は一旦避けて置く。(写真5、6)

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)かがり台にセット

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)穴位置に支持体の位置を合わせる

3. 綴じる。
※糸を背の高さの3倍強ほどで切り、※針に通す。
糸をあまり長く取るともつれが起こるので、足りなくなったら途中で糸継ぎをする。
一番左の穴に外側から糸を通す。
初めの穴から5cmほど糸を出したまま進める。
次の穴に内側から外へ糸を出し、支持体をまたいで次の穴から内側へ糸を通す。その動作を繰り返す。
この時、糸の進行方向に糸をよく引きながら進める。
進行方向逆側に糸を引くと穴が破れるので気を付ける。
一番右(地側)から糸を出したら一つ上の丁を重ねる。すぐ上の穴に外側から糸を通し、今度はさっきと逆方向に同じ動作をする。
一番左(天側)の穴から糸を出したら、また丁を重ね、逆方向に同じ動作を繰り返す。
一番右(地側)の穴から糸を出したら、※ケトルステッチをし、下の丁と繋ぐ。
途中で糸が足りなくなったら、糸を継いで続ける。
これを最後の丁まで行う。(写真7、8)

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)綴じる作業

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)ケトルステッチ

―――

※ 使用する糸
まるみず組さんの製本用資材 「麻糸 かがり糸 #150(French)」
図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]79 新たな取り組み「修理の日」。
画集の修理の記録 Vol. 6で寸法確認をしたうえで決めました。

※ かがり台に張る支持体の長さについて
本当はかがり台の上のバーには麻紐をある程度下の位置まで輪っか状に垂らしておいて、そこに支持体を結ぶのですが、今回はそのまま支持体1本で下まで張りました。
輪っかにする紐に迷ったというのがあります。
本来のやり方は、支持体を使用する長さをできるだけ節約する考えからでしょうか?
どなたかご存知でしたら教えてください。

※ 針に糸を通す
針に通した糸の短い方のところで、糸をほぐし、縒りと縒りの間にその針を通して、通した部分を針の穴の位置まで寄せておくと、綴じる作業の途中で針から糸が抜けたり、ねじれからくるもつれを少し防ぐことができます。

※ ケトルステッッチ
1つ下の丁とその下の丁を繋ぐ糸の内側から外側に向かって、針を通し、少しだけ針が出た状態で糸を1回ひっかけて、引き抜きます。ひっかけた結び目がしっかり穴のところに収まるように引きましょう。

綴じる作業での注意事項は、一丁(この本の場合2枚8P分)の全ての紙の重なりを針で通し漏らしていないか、内側に針を通すときに、必ずよく確認すること!つまり、綴じ漏れ、綴じ忘れのことです。
一丁ごと、一番中央の頁に重しなど厚みのあるものを挟みながら行うと、糸通し忘れを防げるし、針も通しやすいです。
苦労して全ての丁(全ての頁)を綴じ終えた喜びもつかの間、かがり台から外したら、ペラっと数枚の頁が落ちて来た、なんていう急転直下の落胆を味わうことがないように。
糸の継ぎ方については、固結びでもいいのですが、製本の糸の継ぎ方と聞いている方法があります。
この方法だと、結んだこぶが穴の位置に収めやすく、その後の作業も見た目も結び目が邪魔をすることがないのです。
文章で説明しづらいですが、ご紹介します。

■ 糸の継ぎ方(写真9〜13参照)

新しい糸(継ぎ足す側)で輪っかを作る。アルファベットの「Q」を鏡映しにした形のイメージ。
一周して戻ってきた糸は、始点の糸の上を通り、できた輪の中央を後ろ側から通る。
土星の環みたいな見た目になる。
この「環」を挟んで上下にできた穴に、短くなった方(継ぎ足される側)の糸をまず上の穴に手前から通す。
「環」をくぐって、下の穴から手前に糸を出す。
新しい糸(継ぎ足す側)の両端を引きながら結びの穴を徐々に小さくし、綴じ穴の位置まで引き寄せて、硬く引く。
短い方の糸(継ぎ足された側)と新しい糸(継ぎ足した側)の糸の短い方は、結び目から1cmほどを残して切り、新しい糸(継ぎ足した側)に針を通して、綴じを再開する。
個人差はあると思うが、この時針は予め外しておいた方がやりやすい。

(写真9) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)糸の継ぎ方ミニ講座1 Qの鏡合わせの形に糸で輪を作る

(写真10) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)糸の継ぎ方ミニ講座2 新しい糸の両端を引っ張って結び目を綴じ穴に寄せる

(写真11) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)糸の継ぎ方の図 赤い糸が短い糸 青い糸が新しい糸

(写真12) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)綴じ穴位置のガイド

(写真13) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)こんな風に重しを置いて手を入れ込んで綴じると綴じやすく綴じ漏れを防止しやすい

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)本文をエトーに挟み水平を出す

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)紙定規で印付け

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)糸鋸でグレッケ

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)after グレッケ

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)かがり台にセット

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)穴位置に支持体の位置を合わせる

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)綴じる作業

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)ケトルステッチ

(写真9) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)糸の継ぎ方ミニ講座1 Qの鏡合わせの形に糸で輪を作る

(写真10) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)糸の継ぎ方ミニ講座2 新しい糸の両端を引っ張って結び目を綴じ穴に寄せる

(写真11) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)糸の継ぎ方の図 赤い糸が短い糸 青い糸が新しい糸

(写真12) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)綴じ穴位置のガイド

(写真13) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 8 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)こんな風に重しを置いて手を入れ込んで綴じると綴じやすく綴じ漏れを防止しやすい

2023年9月9日(土)は綴じ始めたところまで、
10月7日(土)は糸を継ぎ足しながら綴じ進め、まだ綴じる作業の途中です。
次回は、綴じる作業を完了させて、かがり台から外し、背を固める作業に入りたいと思います。

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/

・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/

・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/

・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/

・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/

さて、ここからはご案内です!

日本最大の図書館関連コンベンション「図書館総合展2023」オンラインポスターセッションに、今年も「修理系司書の集い」メンバーとして出展します。
昨年こちらのWEBMAGAZINEでご案内させて頂きました「資料保存の現場見える化アンケ―ト」では、資料保存に関心のある図書館員対象に雇用形態や職場での環境、引き継ぎ、マニュアル、などについての調査を行い、予想以上にたくさんの方々から回答を頂き、来場者数2位を獲得!
改めて図書館員、司書の資料保存分野での情報共有が求められていることを実感しました。
今年はその続編。
修理する?しない?-資料保存の現場見える化アンケ―ト第2弾-」(※10月26日(木)公開予定です。)と称して、破損本汚損本の具体例を挙げて、その修理方法を問うクイズ形式のアンケート調査を行います。

また、11月4日(土)には、図書館総合展2023サテライト会場のイベント
「リアル!修理系司書の集い」を行います。
和紙と正麩糊の張り合わせ、破れ補修実験、活版印刷機ADANAを使った栞印刷体験などのワークショップと本の修理相談会を行います。
詳細は、図書館総合展2023「リアル!修理系司書の集い」サテライトページでご確認ください。

後援は、
京都活版印刷所さん
活版印刷研究所さん
です。

オンラインポスターセッション、サテライトイベント共に公共、専門、学校、大学などの館種は問いません。
あなたの周りの図書館員にもぜひご案内下さると大変ありがたいです。

資料保存WS
小梅