池ヶ谷紙工所
第3回「装飾性向上を目的としたエンボス加工」
エンボスで装飾性向上を
エンボス加工による凹凸は、見た目に大きな違いを生み出すことができます。一般に広く知られているのは、ロゴなどの目立たせたい部分などをエンボスで引き立たせる手法です。立体感を生かして目をひく効果が期待できますし、強めのエンボスなら手触りの印象も変わるので、視覚だけではなく触覚にも訴えかけることが可能です。
弊所はロール機によるエンボス加工を行っています。紙の名刺や革製本に見られるような、ワンポイントだけくっきりと凸凹が見えるようなエンボス加工ではなく、紙やフィルム全体にかけるエンボス加工です。ワンポイントだけ目立たせるエンボス加工に比べると地味に見えるかもしれませんが、大きな台紙にまとめてかけられるというメリットがあります。そのため、カットや箱に組み立てる前段階の、印刷済みのシートが持ち込まれるケースが多いです。
エンボスを入れる理由で特に多いのが、見た目の変化を期待しての加工です。今回はそのような、エンボス加工によって装飾性を向上させる例をいくつか見ていきましょう。
反射の変化による質感の変化
元となるシートの素材にもよりますが、シート表面に凹凸があると光が拡散反射するため、エンボス加工後は光の反射具合に変化が見られます。ほとんどのケースで加工前と比べて光沢が弱まり、つや消しの効果が望めます。特にもともと光沢があるシートの場合はその軽減効果は大きく、ぴかぴかと光を反射しなくなるため、上品で落ち着いた印象になります。しかし、シートによっては逆に強く照ってくることもあります。特に金色のシートに多いですが、柄の細かさや使われているインキや圧の強さによっても違ってきます。実際に機械に通してテストを繰り返しながら、イメージに近づけていきます。
(写真2〜4)はあるメーカーの洋菓子の包装紙です。エンボス加工前は光の反射が一定でなく、角度によって光ったり光らなかったりといった具合です。また、質感がパリパリしているといいますか、折り目が残ってしまってシワ感があります。特に銀色部分にその傾向が強くて目立つので、エンボス加工で平均化できないか、というのがクライアントさんの要望でした。
これを解消するために、細かい絹目のエンボスをかけます。加工後は光の反射が一定になり、均一になっているのが分かっていただけると思います。シート自体も少し柔らかくなり、手触りも優しくなりました。柄の見え方もずいぶん変わって見えますね。エンボス加工ひとつで、かなり印象が変わったと思いませんか?きれいな銀色の照りを出しつつ、印象的な赤色のメタリック感も損なわれていないと思います。
もちろんこれらは何パターンかテストをして、どれくらい見え方が変わるかクライアントさんに確認していただき、ゴーが出た時点で加工に入ります。贈答品に使われるような商品は、包装紙やパッケージにエンボス加工をして高級感を演出することが多いですね。
装飾柄の種類は様々
エンボス柄はセットするロールに刻まれています。絹目、梨子地、布地、水玉などいくつか定番の柄がありますが、同じ柄でも目が違うものや深さが違うものなど微妙な差があります。圧のかけ方によって見え方も違ってくるので、シート素材やエンボスの入れる目的に応じて、最適な柄が選ばれます。常備している以外の柄や、特注の柄はメーカーからの取寄や新規製作という形の対応になります。
木目や繊維などのエンボス柄を入れれば、柄による質感・高級感を演出することもできます。また、ロール機によるエンボスでも圧を強くかければ、手で触って明確にわかるほどの強いエンボスをかけることも可能です。
エンボス加工は、デザインやシート素材との兼ね合いで、様々な視覚・触覚的効果をもたらすことができます。他とは少し違った装飾性や質感を求める場合にうってつけですね。