図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑬
和紙だからできる!「喰い裂き」を活かした補修
喰い裂き(くいさき)ってなんでしょう?かくゆう私もこのコラムを書くまで、ずっと誤って「くい先」と思っていました。お恥ずかしいこと。
和紙をちぎったことはありますか?
ちぎれた部分からは、ふわふわとした繊維が飛び出しますね、あれを「喰い裂き(くいさき)」と言うそうです。私はこの補修法を試すまで、「ケバケバ」と言っていました。毛羽ですからね。
本の修理に和紙を使うことは、原料となる楮が洋紙の原料に比べ、変色や劣化を招くリグニンという物質の含有が少ないこと、製紙の際に強い薬品を使用せず、灰汁を使うことで若干のアルカリ性となるため、紙の酸性化を防ぎ、保存性がいいということ。
それからこのケバケバが重要な役割を担っていると思うのです。
このケバケバの量や長さで、紙の上に張り付けた時、しっかりと踏ん張り、繋げてくれるのです。私には樹木が大地に根を張りとどまってくれるようなイメージです。
そんな「喰い裂き」の特徴を存分に生かした補修方法を体験してみたので、ご紹介します。
今回も参考にしたのは、
国立国会図書館HPの「平成29年度資料所存研修_簡易補修テキスト」
破れたページのつくろい③
そして使用した和紙は、
こちらの「活版印刷研究所」サイト内SHOPでも販売中の「修理用和紙【土佐煮灰典具帖紙】A4サイズ」。
本の修理に最適の和紙です。
破れた本の本文紙の補修方法のひとつであるこちらは、上記テキストにも書かれているようにハサミやカッターで切ったような重なり合う部分のない破れの補修に適しています。
カットされている線状になった細い部分を補修する方法です。(写真1)
補修する破れたページの下にパラフィン紙やオーブンペーパーなどの糊をはじく紙を敷く。切れ目の入った部分をぴったり合わせ、その合わせ目をなぞるように細筆や竹串の先などで糊を乗せていく。(写真2)
その部分を覆うように和紙を速やかに乗せ(写真3)、その和紙の上にさらにパラフィン紙を乗せ、糊のついた部分を中心にヘラでこすり糊を定着させす。(写真4)
その状態で、重しかプレスにかけ、乾燥させる。
プレスから出し、パラフィン紙を外し、糊でついている部分を指で押さえながら、その周りの浮いた和紙をピンセットでそっとむしり取っていく。(写真5)
それでも浮いた和紙が残る場合は、わずかな量の糊を筆に取り、外側へはくように塗って再度乾かす。(写真6)
完成(写真7)
基本的な和紙の修理をまだこちらでご紹介したことがありませんが(また追々ご紹介させてもらいますね。)、はるかにミニマムに収め、補修箇所が目立たなく、見た目にも大変美しいのです。
線状に和紙を張るなんて一見かなり高度にも見えることが、和紙を貼った後むしるだけでできるという簡単さも結構うれしいものです。
そうそう、浮いた喰い裂きを「ピンセットでむしる」という工程がありますが、高価な和紙。むしりとったふわふわの喰い裂きも瓶などに入れ、保管しておくと、虫食いや小さな穴などの補修にも使えるんです。捨てずにとっておかれることもお勧めしたいです。
大変軽いので、修理への奮闘による鼻息やため息でもふわりと飛んで行って行方不明になりますので、むしりとったらすぐに取っておかれるのがいいでしょう。
修理って地味です。はっきり言って。
ボロボロだった本が、少しでも閲覧に耐えられる状態に戻す。また書架に並ぶことで、その本と出会う人がまたできるということを想像するとやりがいあるものなんですよ。
修理が済んで書架に戻す手続きをするとき、何とも言えない誇らしい気持ちになるのです。
みなさん、本を大切に。
資料保存WS
小梅