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図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]99
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 15

図書館員による実験的本の修理の連続記録です。

今回は2024年12月14日(土)と2025年1月18日(土)の活動の記録です。

前回は、2024年11月16日(土)の記録でした。背の天地部分からみぞにかけての弱ったクロスを補強するため革で包む作業でした。

12月14日(土)は、同じ作業を天側で行いました。

みぞ部分への正確な整形などは、弱っているクロスに負担をかけるので、ここでも程々に止め、本文との合体後に整えることにしました。

1月18日(土)は、いよいよ最後の工程、本文と表紙の合体を残すのみとなりました。さて、この日で完成したのでしょうか。メンバー一同とうとう完成か!と意気込んで臨んだ作業でしたが・・・!?

本文と表紙の合体

1.
ここまで長いままにしていた本文の支持体(=綿テープ)を寒冷紗の端で揃えて切る。(写真1)
(綿テープの詳細は、「図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]79 新たな取り組み「修理の日」。画集の修理の記録 Vol. 6」 > 「●支持体について」をご参照ください。)

写真1 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真1)支持体を寒冷紗の幅に合わせて切る

2.
本文背の寒冷紗の端と支持体の端を入れ込む部分となる、表紙のみぞ、色見返しをめくった部分とその色見返し側に※生麩糊を希釈せずに刷毛でしっかり多めに塗る。(写真2)
注意することは、背の内側には糊は塗らないこと。本文と背のボードは貼り付かず空洞状にしておくことで、クータの役目を果たし、本の開きが保たれる。
(クータの詳細は、「図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]⑳クータって知ってますか?」をご参照ください。)

写真2 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真2)みぞから見返しをめくった部分に糊を塗る

3.
表紙の内側の背の中央、天地それぞれのチリの幅が同じくらいになる位置に本文の背を置く。本文の背、表紙側から出ている寒冷紗を1.で※生麩糊を塗ったみぞ~表紙ボードの凸凹にしっかり添うようにヘラでこすり圧着させる(写真3)。支持体の裏側にも※生麩糊を塗る(写真4)。この時本文紙に余計な糊が付かないように、本文紙との間に捨て紙を挟んでおくとよい。さっき貼った寒冷紗の上に※生麩糊を塗った支持体を添わせるようにヘラでこすり圧着する。
※各箇所、生麩糊が乾いてきたら適宜塗り足す。

写真3 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真3)寒冷紗を貼る

写真4 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真4)捨て紙を挟んで支持体の裏にも糊を塗る

4.
手前にめくってあった色見返しの裏側に再度※生麩糊を塗り、3.で貼り付けた寒冷紗と支持体をふさぐ。この時、色見返しが表紙に対して歪みなく、本文の天地と位置が合うように少し引っ張るように位置を調整し貼り合わせること。上から手でしっかり圧着させる。(写真5〜7)

写真5 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真5)支持体を寒冷紗の上に貼る

写真6 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真6)糊が乾いて来た見返しをめくった部分に再度糊を塗り足す

写真7 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真7)見返しの端の位置を十分確認してから手でおさえてふさぐ

5.
本文紙ののどと色見返しののどがくっつくように、表紙を閉じる。

6.
表紙の表側のみぞを作る。
表紙クロスは弱っているので、テフロンヘラでみぞをそっとなぞり、みぞ部分に竹ひご(今回は、100円ショップで購入したBBQ用の串を利用)を置き、竹ひごが動かないように数か所をマスキングテープで留める。(写真8)
竹ひごごと、晒を縦半分に折ったものでぐるぐると包帯状にしっかり包む。(写真9)
上下を白い紙、板で挟み、上に重しを置いて休ませる。(写真10、11)
(テフロンヘラの詳細は、「図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]91資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 11」 > 「~ 今日の道具memo ~」をご参照ください。)

写真8 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真8)竹ひごを置きみぞを整形する

写真9 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真9)写真8の状態のまま晒で包帯状に巻き固定

写真10 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真10)写真9の状態のまま白い紙と板で挟んで重しを置いて休ませる

写真11 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真11)重石を外しみぞができている状態

7.
裏表紙側でも1.~6.と同様の工程を行う。

本自体が大きく、本文紙がアート紙で非常に重いことから、接着に使う糊が生麩糊で重量に耐えられるか分からなかったため、今回は実験的に7.の裏表紙側では「※生麩糊」と記述しているところを「糊ボンド」に置き換えて挑戦してみました。(写真12)

写真12 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真12)今回使った糊とボンド

・糊ボンドの作り方

生麩糊とボンドを混ぜる。(写真13、14)
割合は、生麩糊:ボンド=3:1
割合の参考:「図書の修理とらの巻(続)」書物の歴史と保存修復に関する研究会編 p110
使用した生麩糊: 活版印刷研究所「本修理専用 でんぷんのり[生麩入り]」
使用したボンド: FILMOLUX「無酸性製本糊 Book Glue mini」(現在は1kg入りのみの販売)

写真13 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真13)糊ボンドを作る

写真14 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真14)写真13をよく混ぜて裏表紙側に取り掛かる

生麩糊は、紙同士の接着や可逆性に富んでいるが、表面をコートされた紙の接着や重いものには弱い印象で、ボンドをそのまま使うのは、将来的な可逆性に乏しく、硬化が強い印象。生麩糊とボンドを混ぜると、両方の良い面が合わさり、重く硬い紙やそれらを使用した部分に対して、硬化性と柔軟性のある接着が可能になる印象です。

表紙側、糊を変えての裏表紙側、両方の接着作業がひと段落し、そっと両方から開いてみましたが、生麩糊で行った表紙側は、色見返しと本文紙が開いてしまったので、糊ボンドで補修し、のどがきちんと接着されるように、色見返しに薄い金板を挟んでプレスしました。

プレスの際は、プレスの板が竹ひごのギリギリ手前、つまり表紙ののどのところまでが当たるようにセットします。10カウントほどでプレスから出し、開いてみると、表紙側の天の2cmほどのどの部分が付いていなかったので、再び糊ボンドで補修し、30分ほどプレスしました。(写真15〜17)

写真15 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真15)表紙裏表紙側の作業を終えてプレスする

写真16 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真16)写真15では竹ひごのみぞの手前の位置にプレスの板の端を合わせてプレスする

写真17 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真17)プレスから出して外れていた部分を糊ボンドで補修

プレスから出したこの時は、裏表紙側はしっかりついていて、成功!とメンバー一同ほっと一安心。

再び、表紙側、裏表紙側の色見返しに金板を挟み、みぞには竹ひごを置いてマスキングテープを留めたままの状態で、上下を白い紙、板で挟み、上から重しを置いて、一晩。

翌朝、確認して「完成!」と思い込んでいたのですが・・・、本の神様はそう簡単に願いを叶えてはくれませんでした。

翌朝、少々恐々、そしてわくわく、重石を外し、そっと画集を開こうとすると、「めり!めりりりり!!」という嫌な音。だからと言って、開かない(開けない)本のままでは、まさに「本」末転倒。仕方なく、めりり!音を轟かせながら開くと、今度は昨日成功したと思っていた、糊ボンドで行った裏表紙側が、本の重みに耐えられず、色見返しと本文紙のつなぎ目が半分以上外れてしまったのでした。

この重たい画集。もともと、表紙と本文の小口にチリが僅かにしかない状態でした。そのような元の状態に、支持体が加わり、綴じ糸の厚みが増え、寒冷紗の厚みが加わり、本文と表紙小口はもうほぼチリがない状態。

さて、これにどう厚みを加えないで重みに耐えうる補強を施すか・・・。

修理の難しさに、ゴール目前で直面。「次回へつづく」と相成りました。

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

資料保存WS
永田 千晃(小梅)

写真1 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真1)支持体を寒冷紗の幅に合わせて切る

写真2 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真2)みぞから見返しをめくった部分に糊を塗る

写真3 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真3)寒冷紗を貼る

写真4 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真4)捨て紙を挟んで支持体の裏にも糊を塗る

写真5 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真5)支持体を寒冷紗の上に貼る

写真6 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真6)糊が乾いて来た見返しをめくった部分に再度糊を塗り足す

写真7 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真7)見返しの端の位置を十分確認してから手でおさえてふさぐ

写真8 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真8)竹ひごを置きみぞを整形する

写真9 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真9)写真8の状態のまま晒で包帯状に巻き固定

写真10 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真10)写真9の状態のまま白い紙と板で挟んで重しを置いて休ませる

写真11 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真11)重石を外しみぞができている状態

写真12 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真12)今回使った糊とボンド

写真13 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真13)糊ボンドを作る

写真14 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真14)写真13をよく混ぜて裏表紙側に取り掛かる

写真15 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真15)表紙裏表紙側の作業を終えてプレスする

写真16 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真16)写真15では竹ひごのみぞの手前の位置にプレスの板の端を合わせてプレスする

写真17 | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 15

(写真17)プレスから出して外れていた部分を糊ボンドで補修

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/

・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/

・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/

・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/

・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/

・Vol. 8
2023年9月9日(土)と10月7日(土)
かがり台を使って綴じる!
https://letterpresslabo.com/2023/10/15/kulpcws-column83/

・Vol. 9
2024年1月13日(土)と2月10日(土)
かがり台から外して背固めをする
https://letterpresslabo.com/2024/02/15/kulpcws-column87/

・Vol. 10
2024年3月2日(土)と4月6日(土)
背固めの仕上げと花布用の革削ぎ練習
https://letterpresslabo.com/2024/04/15/kulpcws-column89/

・Vol. 11
2024年5月11日(土)と6月8日(土)
削いだ革で花布作り
https://letterpresslabo.com/2024/06/15/kulpcws-column91/

・Vol. 12
2024年7月13日(土)と8月10日(土)
本文への花布と寒冷紗の接着と表紙のみぞ裏のボンドを剥がす
https://letterpresslabo.com/2024/08/15/kulpcws-column93/

・Vol. 13
2024年10月5日(土)
みぞの裏と天地のクロス裂け目を和紙で補強する
https://letterpresslabo.com/2024/10/15/kulpcws-column95/

・Vol. 14
2024年11月16日(土)
「地(天)」の背~みぞにかけてのへりの部分を革で包む
https://letterpresslabo.com/2024/12/15/kulpcws-column97/