図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]97
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 14
図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
今回は11月16日(土)の活動の記録です。12月の開催日はこの記事の掲載に間に合いませんので、次回以降に。
前回は、2024年10月5日(土)の記録でした。背のみぞ裏に和紙を貼る、みぞの天地からのクロスの裂け目を補強する内容でした。
今回は、背の天地部分からみぞにかけての弱ったクロスを補強するため革で包む作業です。
天地と書いてますが、実際この日に行ったのは、「地」側のみです。「天」側は次回の作業に持ち越しです。「天」も同じ作業を行うので、下記作業工程には「地(天)」と記載しました。
花布の時もそうですが、天地個別のパーツは、「地」から作業を進めるのがよいそうです。
完成後「天」の方が視界に入りやすいので、「地」側で作業に慣れた後、「天」側に取り掛かることで、できるだけ良い状態を「天」に持ってくることができるといった考えからです。
製本や、本の修理では、糊や膠を乾かす、プレスにかけるなどの工程が頻繁にあり、そのため割りと待つ時間も多く、1冊に対して1日で進められる作業は意外と少ないものです。
ですので、慣れている人、お仕事にされている人、工房などでは、複数冊同時進行し、待ち時間に別の本の違う工程を進められると聞きます。それくらいの技術がほしいものです。
今回の作業で補強に使う革は、しぼがあまり無く、つるっとしていて、既に薄く削がれた革。こげ茶色で、画集の生成り色のクロスにも馴染みがよさそうです。資料保存ワークショップメンバーが提供してくれました。
花布に革を使った際は革を削ぐのが楽しくて、今回もそれが出来ると思い、前回メスの切れ味を保つためにあると便利だと知った革砥まで自作して待っていたのですが、実際は削ぐ必要ないものでした。ちょっと拍子抜けですが、修理をすぐに進められるのはありがたいことです。革砥作りに関しては、どこかでまたご紹介したいと思います。
花布で使った革については「図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]91資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 11」をご参照ください。
「地(天)」の背~みぞにかけてのへりの部分を革で包む
1.
貼り付ける革を用意する。貼り付ける部分に革を当てて必要な大きさを測る。背のボードの厚み、みぞを挟んで隣の表紙のボードにも届かせないとみぞのクロスの裂け目をカバーすることが出来ないので、ヘラで軽く押し当てて、凸凹に沿わせて必要な大きさを確認する。
革の厚さは、0.2~0.3mm。
およそ150mm×30mmの大きさを縦に半分150mm×15mmにすると、天地それぞれを包むのにちょうどよいので、カッターで半分に切る。
革の表側に来る部分の角2カ所を先の尖ったハサミで切り落としておく。やや角丸のイメージ。貼り付けた後に角が引っかかって剥がれるのを防ぐため。
2.
みぞの部分のクロスは傷みが激しくほつれかけているので、革を貼り付ける前に生麩糊でおさえておく。
生麩糊は原液を少し水で希釈し、マヨネーズくらいのテクスチャーにしたものを使用。
3.
革の裏面全面に生麩糊を筆で塗る。
革は貼り付ける前に、糊を塗って少し乾かすことで、本に貼り付けて乾いた後の大きさに近くなるそう。
4.
2.と3.がある程度乾いたら、3の革の同じ場所に再び生麩糊を全面に塗り、地(天)の背の外側の真ん中に革の真ん中が来るように乗せる。外側から見える革の幅は5mmくらいになる位置にする。
速やかにヘラでこすり貼り付けてゆく。まずは、表紙外側から、革を伸ばす様に。みぞの部分は特に念入りに行う。外側が貼り付いたら、側面(ボードの厚みになる部分)と、内側の革を貼り付けるクロス部分に生麩糊を筆で塗り、外側からの革を内側へ速やかに折り倒してヘラで同様にこする。
糊が塗られた革はとても柔らかくよく伸びるのですが、みぞの凸凹にきちんと添わせることが難しかったようです。弱っているみぞに余計な負担をかけないよう、ここは完全に整形せずにとどめ、「天」側も同様に作業を行って、本文を挟みこんだ後整えることになりました。
このWEB MAGAZINEを書く際、いつも本の細部の名称について、再確認したり、表現に悩んだりしています。今回も、この革で包もうとしている部分を一言で言い表せないものだろうか、と歯がゆさを感じましたが、どうか写真と合わせて想像しなら読んでくださると幸いです。
※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。
これまでの記録はこちら。
・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/
・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/
・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/
・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/
・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/
・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/
・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/
・Vol. 8
2023年9月9日(土)と10月7日(土)
かがり台を使って綴じる!
https://letterpresslabo.com/2023/10/15/kulpcws-column83/
・Vol. 9
2024年1月13日(土)と2月10日(土)
かがり台から外して背固めをする
https://letterpresslabo.com/2024/02/15/kulpcws-column87/
・Vol. 10
2024年3月2日(土)と4月6日(土)
背固めの仕上げと花布用の革削ぎ練習
https://letterpresslabo.com/2024/04/15/kulpcws-column89/
・Vol. 11
2024年5月11日(土)と6月8日(土)
削いだ革で花布作り
https://letterpresslabo.com/2024/06/15/kulpcws-column91/
・Vol. 12
2024年7月13日(土)と8月10日(土)
本文への花布と寒冷紗の接着と表紙のみぞ裏のボンドを剥がす
https://letterpresslabo.com/2024/08/15/kulpcws-column93/
・Vol. 13
2024年10月5日(土)
みぞの裏と天地のクロス裂け目を和紙で補強する
https://letterpresslabo.com/2024/10/15/kulpcws-column95/
さて、ここでまたご案内をさせて下さい。
図書館総合展2024のオンラインポスターセッションに出展中で、図書館資料保存ワークショップのメンバーも参加している「修理系司書の集い」というグループでは、昨年に続いて今年は、東京でイベントを開催します。
図書館の資料保存現場でよく使う数種の糊やボンドでの紙の貼り比べ、革や合皮をアルコールでクリーニングする実験、お茶とお菓子で団らんコーナーあり、劣化資料サンプルの展示やこれまでに発表したアンケート結果の掲示もします。
ご協力いただく株式会社ブレインテックさんによる「ライブラリーナビ」作りコーナーも同時開催!ワークショップをしながら、お茶を飲みながら、修理系司書たちと交流しませんか?
日時:12月17日(火)14:00~19:00
場所: 株式会社ブレインテック 東京オフィス(本社) ショールーム
詳細は、図書館総合展2024イベントページ「リアル!修理系司書の集い第2弾」修理実験だよ!全員集合 <https://www.libraryfair.jp/forum/2024/1371>をご覧ください。
・図書館総合展2024ポスターセッション
修理系司書の集い
「詳しく見てみよう「修理する?しない?‐資料保存の現場見える化アンケート第2弾」の回答」
https://www.libraryfair.jp/poster/2024/200
・図書館総合展2024
https://www.libraryfair.jp/
「修理系司書の集い」とは?
資料保存に関心のある司書有志のグループです。
活動地域は関西と関東、職場は大学図書館や専門図書館、立場は正規あり・非正規あり、年齢も様々。
縁あってつながって、図書館での資料保存について話し合ったり、情報共有したりしています。
2022年より図書館総合展オンラインポスターセッションに継続出展。
資料保存WS
永田 千晃(小梅)