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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]93
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 12

図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
2024年7月13日(土)と8月10日(土)の2日に渡る記録です。

前回は、削いだ革で花布作りをした2024年5月11日(土)と6月8日(土)の2日間の記録をご紹介しました。

心配していた花布の革の乾燥による伸縮でできてしまった花布全体の反りは、修正作業を施さずとも本文背に花布を貼り付ける際に塗った糊の水分を含むことで、革がまた伸びて平らになりました。
革のもつ伸縮性を観察することができました。

今回の2日間は、前回作った花布をカットし、本文背に花布と寒冷紗を付ける。それから、背表紙と表紙を繋ぐ部分の背表紙ボードの側面に糊(生麩糊とは異なり、ボンドのようなものだと思われる。)で硬く貼り付いてしまったクロスを剥がし、溝を作る作業を行いました。

反対側の溝のクロスは、糊はついてはいるものの、背と表紙のボードの間は溝(隙間)が出来ています。
これから先の作業として、本文背に貼り付けた寒冷紗を両端を、背の内側から表紙側裏表紙側それぞれの色見返しの下へ入れ込む際、予め背から表紙と裏表紙へ左右に繋がる部分をなるべく同じ長さにしておいたが、作業がスムーズで仕上がりが良いであろうという見解からです。

作業を振り返ります。

1. 花布を背幅にカットする

1.-1

本文をハトロン紙で巻いてマスキングテープで留め、保護する(写真1)。天地が分かるようにハトロン紙に鉛筆で印をつける。本文をある程度水平直角の状態にして、表紙裏表紙側を板で挟んだ状態でエトーに挟む。(写真2)
この時、本文の背が水平直角になるように再度スコヤや水平器等を当て、確認。
エトーの締め加減を弱めたり、小さい金槌で軽く本文を叩いたりして、調整する。

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)本文をハトロン紙でまとめる

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)本文をエトーに挟む

1.-2

紙定規(帯状に切った紙、測る対象物に直接重ね合わせて寸法を採ることができる。印を付けたり、切ったりして使う。)を本文背の端にあて、紙定規に折り目をつけたり、鉛筆で印をつけたりして、背幅を測る。(写真3)
その紙定規を花布に当てて、花布をハサミで切る。(写真4)
※天地それぞれの花布を選び間違えないように。

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)紙定規で背幅を測る

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)紙定規に合わせて花布を切る

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)本文をハトロン紙でまとめる

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)本文をエトーに挟む

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)紙定規で背幅を測る

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)紙定規に合わせて花布を切る

2. 花布を背に貼る

背の花布を貼る位置と花布の2枚重なっている部分(バトネが膨らんでいる側)に生麩糊原液(水での希釈はしていない。)を筆で塗る。背の花布を乗せる部分にも同じ生麩糊原液を筆で塗る。(写真5)
花布のバトネが膨らんでいる面を背側にし、背に貼り付ける。(写真6)
骨ベラで花布の革を引き延ばすようにこすりつける。
バトネのすぐ下も骨ベラでなぞって筋をつけるようにする。(写真7、8)
※1.~2.は、天と地それぞれ同じように行う。ここまで天と地、順に分けて作業をすると天と地の花布の選び間違いを避けやすい。

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)花布に生麩糊を塗る

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)花布を背に貼る

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)花布のバトネの下に筋をつける

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)背に貼り付けられた花布

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)花布に生麩糊を塗る

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)花布を背に貼る

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)花布のバトネの下に筋をつける

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)背に貼り付けられた花布

3. 寒冷紗を背に貼る

背の2.で貼り付けた花布を除いた部分の長さに合わせて寒冷紗(裏打ちあり)を切る。
少し水っぽい濃度の膠を用意し、背の花布を除いた部分に筆で膠を塗る。(写真9)
膠が少し乾いて粘度が出てきたら、切った寒冷紗の布目のある方を背に乗せて、骨ベラで馴染ませ貼り付ける。(写真10)
膠が乾くまで一晩ほど置いておく。(写真11)

(写真9) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)背に膠を塗る

(写真10) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)寒冷紗を貼り付ける

(写真11) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)花布と寒冷紗が付けられた背

(写真9) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)背に膠を塗る

(写真10) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)寒冷紗を貼り付ける

(写真11) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)花布と寒冷紗が付けられた背

4. 表紙内側の確認と表紙クロスの掃除

3.で貼り付けた寒冷紗の背より出た端の部分は、表紙の色見返しと表紙ボードの間に入れ込むため、表紙の内側の状態を確認する。(資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 10 の3月2日(土)に寒冷紗を入れる幅だけ色見返しを表紙ボードから剥がす作業を済ませている。)表紙ボードと背表紙ボードにまたがるクロスが背表紙ボードの側面に折れた状態で糊でくっついてしまっているので、それを剥してゆく。(写真12)
スパチュラやコビト―を背表紙ボードの側面からそっと差し込み、クロスを外し、貼り付いたクロスを剥がしてゆく。
糊が強く固まって外しにくい部分は、手芸用のヒートガンをあてたり、ヒートガンでスパチュラやコビト―を温めて使うと硬化した糊が少し柔らかくなって剥がしやすかった。(写真13、14)

(写真12) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)背表紙ボード側面に貼り付いたクロス

(写真13) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)ヒートガンをあててみる

(写真14) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真14)スパチュラやコビト―で貼り付いたクロスを外す

背に花布と寒冷紗を貼るだけなのですが、本文に歪みがあるとそのまま固定されるので完成形に響きます。
水平直角を意識し、エトーへ挟んで、再び角度の調整を行うことから始めるので、作業量は少ないですが、複数人で協力して行うと非常にスムーズでした。
また、4.で剥がす作業を行った部分のクロスは、本文の重力を長年にわたり受けてしまっており、すでに織目が粗く、向こうが透けて見えるほど弱っていました。ところどころクロスの糸もほつれかけています。(写真15、16)
本来なら、元の糊はできるだけきれいに除去するのですが、糊と一緒にクロスの繊維が引っ張られ、クロスが破れかねない状況。こういう作業はついついのめり込んでしまうことから、やりすぎによる失敗につながる危うさをはらんでいます。
弱くボロボロになったクロスの補強の役目も果たしてくれるのでは?と思い、剥がしたい欲をぐっとこらえ、糊はほどほどの除去に止めました。

(写真15) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真15)背表紙ボード側面に貼り付いていたクロスが外せた状態

(写真16) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真16)傷んだ背の角のクロス

(写真12) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)背表紙ボード側面に貼り付いたクロス

(写真13) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)ヒートガンをあててみる

(写真14) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真14)スパチュラやコビト―で貼り付いたクロスを外す

(写真15) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真15)背表紙ボード側面に貼り付いていたクロスが外せた状態

(写真16) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 12 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真16)傷んだ背の角のクロス

~ 今日の道具memo ~

糊を剥がすのに、熱を加えると糊が柔らかくなり、剥がしやすくなります。
今回は、メンバーの持ち物のヒートガンという道具を使ってみました。手芸用の小さなドライヤーの様なもので、吹き出し口が小さいので、ドライヤーよりも狭い範囲に熱を加えるのに向いているようです。
ただ、ピンポイントで当たるわけではないので、周囲にも温風が当たることで、紙が反ったりする影響も気になりました。
本の修理の観点では、古いセロハンテープを剥がす時などに、小さく扱いやすいものなので良いかもしれません。
今回の様な極めて限られた部分を温めたい場合は、先述のようにスパチュラやコビト―をコテのように扱うのが使いやすいと感じました。ただし、温度管理は要注意です。糊(固まったボンド様)は42℃くらいで柔らかくなるそうです。
糊剥がしだけでなく、膠を扱うのも、季節は冬場より夏場の方が行いやすいのでは?という意見がメンバーから出ました。
膠についてもそう感じることの理由は、資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 10の「■ 背固めの掃除」をご参照ください。

次回は、この弱くなった溝部分(表紙と背表紙を繋ぐ部分)のみ、補強のためクロスの内側から和紙を貼ってゆく予定です。

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/

・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/

・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/

・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/

・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/

・Vol. 8
2023年9月9日(土)と10月7日(土)
かがり台を使って綴じる!
https://letterpresslabo.com/2023/10/15/kulpcws-column83/

・Vol. 9
2024年1月13日(土)と2月10日(土)
かがり台から外して背固めをする
https://letterpresslabo.com/2024/02/15/kulpcws-column87/

・Vol. 10
2024年3月2日(土)と4月6日(土)
背固めの仕上げと花布用の革削ぎ練習
https://letterpresslabo.com/2024/04/15/kulpcws-column89/

・Vol. 11
2024年5月11日(土)と6月8日(土)
削いだ革で花布作り
https://letterpresslabo.com/2024/06/15/kulpcws-column91/

ここで少し、お知らせさせてください!
今年も図書館総合展2024のオンラインポスターセッションに「修理系司書の集い」というグループで出展中です。
今年は、図書館総合展2023で募集した「修理する?しない? -資料保存の現場見える化アンケート第2弾!-」について、みなさまからいただいたたくさんの回答を詳しく分析した結果を随時公開しています。

・図書館総合展2024ポスターセッション
修理系司書の集い
「詳しく見てみよう「修理する?しない?‐資料保存の現場見える化アンケート第2弾」の回答」
https://www.libraryfair.jp/poster/2024/200

・図書館総合展2024
https://www.libraryfair.jp/

「修理系司書の集い」とは?

資料保存に関心のある司書有志です。
活動地域は関西と関東、職場は大学図書館や専門図書館、立場は正規あり・非正規あり、年齢も様々。
縁あってつながって、図書館での資料保存について話し合ったり、情報共有したりしています。
2022年より図書館総合展オンラインポスターセッションに継続出展。

是非ご覧ください。
出展ページにリンクのあるコメントフォームからのご感想などもお待ちしています。

資料保存WS
永田 千晃(小梅)