図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]95
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 13
図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
9月は台風接近のため「修理の日」はお休みとなり、今回は2024年10月5日(土)の1日の記録です。
前回は、2024年7月13日(土)と8月10日(土)の2日間の記録として、本文の背に、生麩糊で花布、膠で寒冷紗を順に貼り、表紙の裏側の背と表紙のボードを繋ぐ「みぞ」のクロスとボードがボンドでくっついてしまっていたのを、少しずつヒートガンであたためながら、コビト―やスパチュラを使って剥がす作業についてご報告しました。
今回は、その前回ボンドを剥がした表紙クロスの「みぞ」と呼ばれる部分の裏側を和紙で補強しました。
みぞの裏に和紙を貼る
1.
クロスの色と似た少し黄身がかった和紙、厚さ5mmのものを使用。
金属製のコンパスでみぞの幅を測り、天地のクロスの折り返し部分を除いたみぞの長さを定規で測る。切り出す和紙の上下各5mmほど長めにした。クロスの折り返し部分は穴になってしまっているので、そこに和紙を入れ込むのは難しそうだった。ピンセットを使って無理なく入りそうな分と判断して5mmだけ、長めにした。
その寸法で、和紙を切る。表紙側、裏表紙側2カ所順番に同様に行う。細い短冊状の和紙が2枚できる。
2.
1.で出来た短冊状の和紙のざらざらした方の面(裏面)に生麩糊を筆で塗る。生麩糊はほんの少し水で薄めたものを使った。糊を塗った和紙をピンセットでみぞに置く。だいたい和紙の真ん中がみぞの真ん中になるように
ピンセットで微調整をして位置を合わせる。天地にはみ出た和紙をピンセットを使って折り返しのクロスの下に入れ込む。皺にならないように気を付ける。
小さめの骨ベラでみぞに置いた和紙を抑え、上下に移動しながら圧着させる。和紙が乾き始めて少し浮いて来たように見えたので、和紙の上からまた糊を少し塗った。乾くのを待つ。
表紙側、裏表紙側共に同様の作業を行う。それぞれ貼る前に和紙を取り違えないように。
ここまで来て、表側からみぞを確認すると、それまでほつれかけたクロスの糸がぼこぼこと出ていたり、織目が大きく開いて穴になって目立っていた部分が、糊で和紙に固定されて、平面になって落ち着いた状態になっていました。
しかし、内側に和紙を貼る際に弱ったクロスに負担をかけたのか、なんと!みぞの天地背ボードの角になる部分に、裂け目が出来てしまっていることに気が付いたのです!
天側に1ヵ所、地側は、表紙裏表紙側両方の2カ所。
いや、もしかしたらもっと前から裂け始めていたのが広がってしまったのかもしれません。以前の写真を見返すと、たぶんそうです。
しかし、ここは表側から折り返されたクロスが、内側でボードにボンドで貼り付けられ、塞がっている部分なので、このままでは容易にこの裂け目を補修できません。
最後は背の天地のクロスのほつれを細い革で包む予定ですが、裂け目全てをその革で保護することも考えてみましたが、背タイトルにかかってしまう長さです。
このまま作業を進めて完成したとしても、本の重さや開閉時の負担で裂け目が広がる可能性も考えられます。
今の状態をなるべく壊さず、補修できないものか・・・とあれこれ考え、NPO法人書物の歴史と保存修復に関する研究会さん著の「図書の修理 とらの巻」のp54「3.表紙を包んでいる素材を、補強用の和紙が入る範囲までめくる」を参考に、内側の背表紙ボードに貼り付いたクロスに斜めに切込みを入れてクロスを少しめくり!そこからクロスの裂け目を裏側から和紙で補修する方法を取ることにしました。思い切って。
NPO法人書物の歴史と保存修復に関する研究会さんは、「図書の修理とらの巻」に続いて「続図書の修理とらの巻」も刊行されているのですが、修理や製本の方法に悩んだ時に開くと、だいたい似たケースについての修理方法や製本の仕方が書かれていて、かわいくて分かりやすいイラストもたくさんで、本当にとらの巻なのです。
この記事も、いつかそんな風に参考にしてもらえるものになると嬉しいだろうな、と思います。
クロスの天地の裂け目を補強する
1.
クロスの裂け目のある部分の内側、背ボードに外側から折り返されたクロスにカッターで斜めに切込みを入れる。カッターの刃先は、クロスの厚さ分だけ入れ、ボードになるべく傷がつかないように加減する。切込みの端から、コビト―でクロスをそっと剥がし、めくる。この時、なるべくボードが付いてこないようにクロスだけをめくるようにする。
2.
1.でめくった部分の背ボードの厚さをノギスで測る。背ボードの厚さ+みぞ部分に貼り付ける長さ5mm×定規で測った裂け目の長さの大きさに和紙を切り出す。この時もみぞの補修に使用したものと同じ和紙を使った。
和紙を背ボードの厚みのところで折って、背ボードの厚み分だけ立ち上がる形にしておく。和紙のざらざら面に生麩糊を塗る。糊を塗ることで、さっき付けた折り目が見えにくくなるので、鉛筆で印をしておいてもよかったかもしれない。
表紙の内側を上にして開いた状態から見て、背ボードの立ち上がりの部分とみぞを繋ぐように生麩糊をつけた和紙を置く。ピンセットを使って隅まできちんと和紙が付くように貼り付ける。ヘラが使えそうな部分は、ヘラも使い、しっかり圧着させる。
3.
めくったクロス裏に生麩糊をつけて、元の場所に貼り付ける。
パラフィン紙を挟んでヘラでしっかりこすって圧着させる。
パラフィン紙の上に重しを置いて乾燥させる。
みぞの補修をする前に天地のクロスの裂け目が見つかっていたらば、みぞの補修の際に内側の折り返しクロスに切り目を入れて、裂け目から続きでみぞの補修ができたかもしれないと、この記録を書きながら思います。
細かな一工程一工程で、その都度本の細部の変化を見るような癖付けをしたいものです。
次回は、いよいよ花布と寒冷紗のついた本文を今回補修した表紙に合わせ、背の天地を細い革で保護する作業へと進めます。少しゴールが近づいてきたようです。
※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。
これまでの記録はこちら。
・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/
・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/
・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/
・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/
・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/
・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/
・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/
・Vol. 8
2023年9月9日(土)と10月7日(土)
かがり台を使って綴じる!
https://letterpresslabo.com/2023/10/15/kulpcws-column83/
・Vol. 9
2024年1月13日(土)と2月10日(土)
かがり台から外して背固めをする
https://letterpresslabo.com/2024/02/15/kulpcws-column87/
・Vol. 10
2024年3月2日(土)と4月6日(土)
背固めの仕上げと花布用の革削ぎ練習
https://letterpresslabo.com/2024/04/15/kulpcws-column89/
・Vol. 11
2024年5月11日(土)と6月8日(土)
削いだ革で花布作り
https://letterpresslabo.com/2024/06/15/kulpcws-column91/
・Vol. 12
2024年7月13日(土)と8月10日(土)
本文への花布と寒冷紗の接着と表紙のみぞ裏のボンドを剥がす
https://letterpresslabo.com/2024/08/15/kulpcws-column93/
前回のWEB MAGAZINEでもお知らせしました「修理系司書の集い」というグループで、今年も図書館総合展2024のオンラインポスターセッションに出展中です。
図書館総合展2023で募集した「修理する?しない? -資料保存の現場見える化アンケート第2弾!-」について、みなさまからいただいたたくさんの回答を詳しく分析した結果を随時公開。
下記のURLから是非ご覧ください。
出展ページにリンクのあるコメントフォームから、ご意見やご感想もお待ちしています。
12月になりますが、今年もリアル!イベントも開催予定です。
詳細が決まり次第またお知らせさせてください。
・図書館総合展2024ポスターセッション
修理系司書の集い
「詳しく見てみよう「修理する?しない?‐資料保存の現場見える化アンケート第2弾」の回答」
https://www.libraryfair.jp/
「修理系司書の集い」とは?
資料保存に関心のある司書有志のグループです。
活動地域は関西と関東、職場は大学図書館や専門図書館、立場は正規あり・非正規あり、年齢も様々。
縁あってつながって、図書館での資料保存について話し合ったり、情報共有したりしています。
2022年より図書館総合展オンラインポスターセッションに継続出展。
資料保存WS
永田 千晃(小梅)